第27話 化外の村
オアシス都市ノクタンを後にし、俺はさらに東に向かった。砂漠とは打って変わって岩場であり、進行に非常に難儀した。魔族との緩衝地帯とも近いからか、魔物も砂漠以上に沸いてくる。だが、大抵虫系か獣系の魔物ばかりであり、知能は低そうであったので、バニシングで飛ばして後は重力に任せるというやり方で難なく対処した。鳥系や浮遊系のモンスターは多少難儀した。そもそも浮いているわけだから空に飛ばしても重力の恩恵に授かれなかった。少し考えて、岩の中に転送することにした。そうしたら面白いことに岩と一体化してしまい、動けなくなっていた。しばらくして経験値が入った。岩の中で窒息死したのであろう。
そうこうしている間に、廃墟のような村についた。水もだいぶ無くなったいたので、中継ポイントとして立ち寄ることとした。住民は、いるにはいるがノクタンと打って変わって誰もが目が死んでいた。水を買える店を探していると、見覚えのある人物が目に入った。古田だ。ヨレヨレの服を着て、生気のない土気色の顔をして歩いていた。俺は咄嗟に顔を隠した。古田は猫背のまま通り過ぎていった。俺が前世界からバニシングで飛ばした人間はこの町にたどり着いているのであろうか。
「敵襲~!敵襲~!」
江戸時代のような物見やぐらから鐘がカンカン鳴らされた。村の出入り口を見ると、虫やら獣やらの魔獣が迫っていた。住民たちは慌てて自分たちの家へ避難した。と同時に、身なりがきれいな僧侶風の二人組と、スーツを着たサラリーマンが魔獣の前に躍り出た。サラリーマンが剣を振りかざし、バッタバッタと魔獣を切り倒していく。僧侶風のうち1人は絶えず補助魔法をかけ、もうひとりは即死魔法かなにかで魔獣をまとめて退治している。30分ほどの戦闘で魔獣の群れは退散した。引き上げようとした3人組を見て驚いた。1人は田中、1人はエルフの長老、もう一人のサラリーマンは、なんと先日霞が関で暗殺した男だった。しかし、田中に再開できたことは非常に嬉しかった。
「おい、田中!久しぶりだな!聖人になったって?」
「おお!井上じゃないか。お前、もうこっちに戻ってこられないかと思ったよ。」
久しぶりの再会に俺たちは手を取り合って喜んだ。
「久しぶりじゃの。マサユキ討伐はご苦労じゃった。」
「長老じゃないですか!お元気そうで何よりです!」
長老も変わっていない。ロリババアだ。
「井上様ですか。聖人様からかねがねお噂は伺っております。マサユキ討伐の第一の功労者だそうで。」
サラリーマンからも声を掛けられた。俺は咄嗟に目をそらした。
「あ、あなたも転生者ですか?先ほどの戦いぶりはすごかったです。」
目を合わせずに応えた。
「中村と申します。私は転生して日が浅いのですが、この場所に放り出されてから聖人様方に拾ってもらいましてね。剣術のスキルで微力ながらお手伝いしているところです。」
ははあ、やっぱりすごい人材だったのだな。
「ところで田中、聞きたいことは山ほどあるよ。」
「井上、それはこちらも同じだよ。そもそもマサユキに巻き込まれて無事とは思えなかった。あの時は俺の詰めも甘かったと悔しかったよ。生きていてよかったよ。」
「まあそこらへんのことはあとでゆっくり話すよ。で、お前ら、今何しているの?」
「マサユキが魔王と密約を交わしていてさ、魔王領との間で相互不可侵条約を結んでいたんだけど、マサユキが死んだからちょくちょく魔獣を人間領に侵入させて来るんだ。前線のこの村で、これから魔王を倒すか、再度相互不可侵条約を結ぶか模索していたところなんだ。」
「ははあ、マサユキは良くも悪くも防波堤になっていたのか。」
「井上が来てくれたら100人力じゃ!一気に魔王を殲滅するのじゃ!」
長老は興奮していた。俺は急な話の展開についていけなかった。
「え、え?俺ができることなんてバニシングくらいしかないよ。」
「いや、そんなことはない。マサユキを嵌めた知略は本物じゃ。で、どうする?どうする?」
俺は面喰った。口調に見合わないそのキラキラした瞳で俺を見上げてくる。
「ちょっと待ってくれよ。現在の状況の整理とか諸々あるだろう。そもそも俺のレベルはここにたどり着くまでに5上がっただけの25レベルだし、到底魔王なんて倒せるはずがない!」
レベル25と聞いて、他の3人はポカンとした。
「お主、そんなに低いのか?わしらはマサユキ討伐でドカンと経験値が入ったから50はあるよ。中村ですら40じゃ。いやはやそんな調子じゃマサユキのようにはいかんな・・」
長老は腕組をして考え込んでしまった。
「よし、明日から魔獣群帯に分け入って修行じゃ。バニシングを使えないお主はただの豚じゃ。マサユキの時みたいに華麗に魔王を消してくれたもれ。」
その夜、田中と二人きりで会話をする時間を取った。
「井上、お前向こうに身体はあったのか?焼かれてなかったのか?またなんでこっちに戻ってきたんだ?」
「俺とお前の魂の抜け殻は、綺麗に保管されていたんだよ。だから俺は向こうで復活できた。だが、監禁されていた。向こうの世界でも闇の暗殺組織があるみたいで、協力しないとお前の死体を消す、って脅されたんだよ。」
「はあ?そんな陰謀論的な組織あんのかよ。」
「それがあったんだよ。俺がホームレス消した時から尾行していたみたいで、日本の未来のために要人を消していくとか何とかで。その一発目で仕事させられたんだけど、それがあの中村さん・・・」
「中村さんはお前が転生者させたってことなのか?」
田中は何か知っていそうな顔で答えた。
「そうだ。他にもこの町には俺が向こうの世界で消した見覚えのある人間が何人かいた。お前、今井には会わなかったか?」
「見かけたよ。でも黙っていた。だが、女神様にはお見通しだった。正規ルート、つまり死んで、女神様にお目通りして、転生するという手順を踏んでいない者が増えている、と突っ込まれた。そういうやつらは加護も与えられずレベルも上がらず『化外者』として生きていく。この村の連中はだいたいそうだ。この世界には好ましくない連中だ。女神様はそういう者たちの存在を憂いていたが、俺に関してはマサユキ討伐の功で見逃してもらえたよ。」
俺は密入国者なのか。しかも密航の斡旋をしていたという。バレたらヤバいな。
「お前女神の加護持ちなんだろ?道中で聞いたぞ。俺の存在が女神にバレたらどうなる?」
「そりゃまあヤバいだろうけど、その時はその時で、開き直るしかないんじゃない?」
「こいつ、他人事だと思って!」
俺は拳を振り上げつつも、田中と笑いあった。久々の再開はとても楽しかった。
魔法で極める暗殺稼業 @keronchiro
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