第26話 オアシス都市

 トマスからもらった地図を頼りに、砂漠を進む。水ももう残り少ない。今日中に目的地のオアシス都市に到達しなければならないが、相変わらず巨大コブラは出るわサソリは出るわサボテンの化け物は出るわで思うようにはいかない。全てバニシングで空に放りなげる対処をしているが、経験値がほしいので、できるだけ引き付けてまとめて岩場に落とし、確実に死ぬように努力した。x軸y軸はいいとして、z軸は自分の身体を水平回転して位置決めしなければならないので、思った位置の上空に転送するのに苦労した。体力や魔力というよりも脳を使いすぎてヘトヘトになった。試験勉強をしている気分だ。それでも数をこなしていると慣れてくるものだ。レベルは25に上がっていた。

 日没間近の夕暮れ時、ようやく目的のオアシス都市・ノクタンについた。砂漠は魔物が多いために高い城壁で守られている。閉城時刻ギリギリになんとか城の中に滑り込めた。トマスに貰った通行証のおかげでほぼノーパス。本当にありがたい。もう日も暮れたので宿を取り、夕飯がてら宿の近くの酒場に寄った。

 「お姉さん、ビール一つと、この肉料理。」

 バーカウンターに座り、酒を注文する。

 「あと、聖人太田って知ってます?」

 「そりゃ知らない人はいないですよ!」

 お姉さんはビールを俺の前に置き、陽気に声をあげた。

 「そんなに有名なの?」

 「有名も何も、救世主様ですから!え、知らないんですか?」

 「いやぁ、俺も転生者なんですけど、最近来たばっかりでさ。」

 「え?」

 そう言ってお姉さんは俺との間を少し空けた。嫌そうな顔をしている。

 「あ、聖人様も転生者って聞いて、修行させてもらおうと思ってて・・」

 「そうなんですね。いやその、、転生者の人たちは極端ですからね。聖人様もいればロクでもない人も沢山います。あ、あなたのことを言っているわけじゃ無いですからね。聖人様の所で修行すればきっと良い人になると思います!」

 やはりマサユキ以降にも転移者が現れて悪さをしているらしい。もしかしたら俺が向こうの世界から送り込んだ奴らかもしれない。

 「それで、聖人様はこの街にいますか?」

 お姉さんは首を振ってため息をついた。

 「もうこの街にはいないですね。エルフの魔法使いの人と二人で魔族との緩衝地帯に旅立ちましたね。もう少しこの街に滞在いらして不良転移者や魔物から守ってくれればよかったのに。」

 エルフの魔法使いというのは多分長老のことだろう。今度は魔王でも倒しに行くつもりなのか?

 「俺も道中魔物とやたらと遭遇したけど、魔物増えてるの?」

 「あ、そういえばお客さん、他の街から来たんですよね。今日のキャラバンですよね。本当に魔物が増えすぎて、重武装のキャラバンじゃないとこの街にたどり着けないですよね〜。」

 「そ、そうだね。それにしてもこの肉料理、本当に美味いね。しかも安い。魔物に囲まれて物流が制限されているはずなのに、食べ物は充実してるんですね。」

 「これこそ、このノクタンの誉れです!豊穣の女神の加護でこの国は成り立っているのです!どれもこれも聖人様のおかげです。」

 お姉さんは嬉し泣きしていた。田中はなんかとんでもないことになってるな。俺はふと酒場を見渡した。こんな辺境な街なのに誰もが皆目がキラキラして楽しそうに酒を飲んでいた。おそらく街のどの人間も希望に満ちた生活を送っているのであろう。もはや田中は現人神と化しているのかもしれない。

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