第25話 レベル上げ
気が付いたらカケル学園内のマサユキの寝室であった。現世界ではだいたい1日ほど過ごしたことになるのか。慌ただしい中で1人消して、異世界へトンボ返り。正直心労がひどい。見上げると、マサユキが使っていたベッドがあった。なぜか身体もバキバキで、睡眠の誘惑に勝てなかった。ベッドにうつ伏せに横になった。と、同時に顎下からパルス音が骨伝導で聞こえた。あの魔道具、しっかり動作してるじゃんか。でも音声を送り合うなんて高度なことはできないようだったので、申し合わせ通り、奥歯のかみ合わせでモールス信号を送った。
「・・-・・ ・・- ・・-・ ・・・-(到着)」
時間の流れが全然違うから、この信号も超高速で届いているのだろう。モールス信号が正確に届いているかはわからない。ただ、通信できている、ということが伝えられればいい。向こうからこちらへの通信も同じだ。ともあれ、時間の流れが遅いこちらの世界ではゆっくりすることもできる。ひと眠りしよう。俺は眠りについた。
目が覚めたら横にカケル王国宰相だったトマスがいた。
「おお、鈴木様。お目覚めのようで。心配しておりました。おかげさまでこの世界は平和になりました。」
「そうだ、田中、いや太田はどこ行った?元気しているか?」
向こうでは1日だったが、こちらでは2年経過しているはずだ。しかし、トマスの顔色は以前に比べてとても良くなっていた。
「聖人様のご尽力のおかげでこの国は早期に復興でき、元の形に戻りました。マサユキ配下の荒くれ達も、魔力洗脳が解けたのか元の大人さを取り戻しました。本当にあなた方には感謝しています。聖人様は各地の復興のため、半年ほど前に東方に旅立たれました。」
「聖人?太田は聖人になったのか。」
「はい。太田様はその清き心が評価され、豊穣の女神様の加護を得ました。そして聖人様になられたのです。」
この2年の短期間で・・俺は心底感心した。しかし、この世界は女神が直接干渉してくることがあるんだな。
「そうか。俺はその、聖人様を探しに東へ向かうよ。東と言っても広いからな。何か手掛かり的なことはないのか?」
「おお、お早いお発ちで。もう少しゆっくりしていかれてもよいのでは?」
「いや、向こうの世界でいろいろあってだな。早急にレベル上げしなければいけないんだ。田中、いや聖人様にも会っておかなければならないしね。」
「わかりました。聖人様はカケル王国の祠を使って東の未開領域に向かわれました。魔物達の支配領域と隣接しておりますので、くれぐれもお気をつけください。」
俺は祠に向かい、地図を見ながら転送石の組み換えを行った。これで東の最果ての祠へ飛べる。田中が近くで活動してくれていればいいが、聞き込みを進めて地道に近づくしかないだろう。レベルもあげつつ、一歩一歩進んでいこう。
最果ての祠から出ると、太陽がぎらついている灼熱の砂漠地帯であった。トマスに装備一式をそろえてもらっていてよかった。水も食料も、砂漠渡航用の服もなければ半日でへばってしまう。こんなところで田中は何をしているのか。
「シャー!」
突然砂の中から巨大なコブラが現れた。この世界でモンスターに襲われるのは初めての経験だが、慌てずに対処できた。対処と言ってもバニシングを掛けただけである。しかし、コブラは100mほど先にポトンと落ちただけでノーダメージのようだった。そうだ。この世界ではバニシングは単なる転送魔法だった。コブラはしばらくキョロキョロしたあと、俺を視認し、また砂漠を泳いで俺のところに向かってきた。バニシングも考えて使わないと意味がないことを学んだ。今度は60度の角度で高さ20mの場所に打ち出すイメージでばにバニシングを掛けたが、10m程度の高さしか飛ばなかった。これは三角関数じゃないか?斜辺が20mなんだ。これは難しいぞ。この世界で三角関数の必要性を実感するとは思わなかった。とはいえ、10m程度の高さから砂の上に落とされたコブラは目を回していた。すると仲間をやられたと察知したのか、コブラの群れが砂の中から一斉に現れた。
「あーめんどくせえ、sin75,20m!」
適当に三角比を意識してバニシングを掛けたところ、群れは20m上空に転送され、落下して砂の上に打ち付けられた。しかし、やはり砂はやわらかいのか、また蛇だから重力が上手く分散したのかわからないが、どれも死んではいないようだった。だが、逃げるには十分だ。俺はコブラの群れとは逆方向に歩みを進めた。
歩みを進めながら考察したが、この世界ではバニシングだけでは経験値は入らないようだ。上空に飛ばしたコブラたちの一匹が仲間たちの身体に押しつぶされて死んだらしいが、その分の経験値は入った実感があった。やはりモンスターなり人なりを殺しながらレベルを上げ続けなければならない。前世界で課された目標レベルは60。現在20だ。今のコブラ討伐をみても、相当殺しをしなければならない。早く田中と合流して効率のいいレベル上げの方法を教えてもらう必要がある。考えを巡らせていたら、日がとっぷりと暮れていたので、岩陰でテントを張ることとした。
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