2歳半 しろいまるいとうふ

 晩御飯を食べ、お風呂に入り、歯磨きも終わってあとは寝るだけの娘(2歳半)。

 どうもまだ寝たくないようで、先ほど帰宅して晩御飯を食べ始めた父の様子を伺う。顔を見ると、大好きな父に話しかけたくてうずうずしていて。

 娘を溺愛している父は父で、娘が側に来たことで頬が緩んでいる。


「おとーさんおとーさん」


 娘が父に話しかける。


「なに たべてるの?」

「白くてかくばった豆腐だよ」


 父、何故か回りくどく言う。食べているのは、スーパーの豆腐売り場にある何の変哲もない直方体の白い豆腐に、鰹節と薬味と醤油をかけたもの。

 一言、「冷ややっこだよ」で済むのに。


 そんな父に、娘は元気よく話しかける。


「娘ちゃんも しろくて 『まるい』 とうふたべたよ! おいしかった!」


 そっかおいしかったかー! よかったね娘。アナタが食べた豆腐は、アナタの父が食べているものと同じ「直方体」の白い豆腐でしたよ。


 しかし、母は食卓に出した覚えのない「まるいとうふ」という謎ワードの不意打ちで数秒思考停止してしまいましてね。

 口をついて出たのは「まる……い……?」だけ。

 そんな母の状況を知ってか知らずか、父は言う。


「お父さんもこの白くて『丸い』豆腐美味しいよ」


 父、娘溺愛により、娘が言うことが全て正しいモード発動。

 母、なんとか思考停止から復活してきたのに、今まさに四角い豆腐食べている父があっさり「丸い豆腐」派に寝返ったことで更なるダメージを追う。


「父、アナタ裏切りましたね??」


 父への呟きが恨みがましくもなってしまうのも仕方ないことで。


「いやほらだって可愛い娘には勝てないじゃない」

「……それは、そう。だけどそんな簡単に丸め込まれていいとでも」


 両親が不穏な空気を漂わせ始める中、豆腐の話に飽きた娘は、寝る前に読んでもらう絵本を選び始めていた。



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今日も今日とて娘が可愛い @ei_umise

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