優しい過ち

如月ちょこ

余命宣告の先に

「俺、どこか間違ったのかな……」


 俺の目の前には、弱冠二十歳にしてがんと診断され、余命宣告を受けてしまった親友がいた。


 彼の声はどこか張りがなく、意気消沈としていた。心の灯も、目の光も消えそうであった。


「…………」


 何も言ってやることができない。

 だって彼には結婚を約束した彼女がいて、その彼女に本当のことを告げずに別れを選んだから。


 一方的に突き放すような口調になってしまったことを彼は今でも後悔しているらしい。

 彼の優しさから来る選択であることはわかっているが……それにしても辛い。

 話を聞いただけの俺でもこんな感情になるのだから――彼の心労は計り知れない。


 そして、その恋人は新しい人を見つけて結婚しているらしい。

 幸せに暮らしてくれていることに安堵しながらも――隣には、本当は彼がいたはずだと強く思っている。


 彼の右手に、まだ彼女との指輪がついていることがその証左である。


「……俺、どこか間違ったのかな」


 彼は、俺と共に病室を出る前にもう一度同じ言葉をつぶやく。




「まさか、完治するなんて思わねぇじゃん」




 今日は、彼の退院日だ――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しい過ち 如月ちょこ @tyoko_san_dayo0131

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画