第8話 飛翔

僕が地下に落ちた頃。隊員たちは怪人の開けた深い穴を覗いていた。


水道管が崩れ水浸し、中の様子は見えず聞こえるのはかすかな金属音だけだ…

部隊を突入させるには足場が悪すぎる上、怪人が今どうなっているかわからない


指揮官は嘆く。この状況では2人の隊員は助からないだろう…

それに、この大穴…


「一体どれだけの損害が…」

「それは大丈夫さ」

「黒金さん…」


金崎(かなざき)正臣(まさおみ)。数多の企業をまとめる日本最大の財閥、金崎財閥の御曹司だ。


「ここは元々下水道設備を一新してする予定だったからね。掘る手間が省けたよ

他の家もどうせ立ち退かせる予定だったしな…時期が早まっただけだ」

「は、はぁ…」


金崎財閥は多くの商業施設で地方の経済を活性化させている反面、その強引なやり方でも知られている。


(そもそもなんでこんな大物がこんな場所にいるんだ…?)


不敵な笑みを浮かべた金崎の顔がなんとも不気味で、指揮官は顔をひきつらせていた


***


崩落した穴の中は瓦礫で埋めつくされていて足場も悪い。


 それにZ-GEARが全然体になじまない


「っぐぅ」


 さっきから相手の大槌を受けるので精一杯だ

何度も攻撃を防御しているので体力が摩耗している


「Z(ゼータ)さん!このままだとジリジリ追い込まれる!解決策はないかな?」

「周囲のマップを解析したところ、近くにトンネルがあります。そこまで走ってください」


 仮面の前にナビが現れる。矢印の先は怪人の背後にまわっている


「避けられるか怪しいんだけど!?」

「相手に向かって走りつつこうお叫んでください。。。」

「。。。わっかんないけどやってみる!」


 まずは低い姿勢を保ったまま怪人に接近!


「グリュぅぅる!!!」


 薙ぎ払う動作を確認し、一気に飛び上がる

その動作のまま怪人の頭に飛び乗る


「今です!」

「ジェットイーグル!!!」

「必殺コード認証!」


 足についた小型のエンジンが火を吹き地面に怪人を叩きつける

駆け上がるような動作で一回転し上昇する


「うっつわぁぁ!!」


 視点の動きが激しすぎて酔いそうになる

しかしその反動(というか爆風)でトンネルに入ることができた


「なんだ?急に動きやすくなったぞ、、Zさん何かした?」

「はい。ユウキ様が怪人の攻撃を受けている際に動きのデータを集め、人工知能によるサポートがより的確に行えるようになりました。」


「な、なるほど…?」

「つまりはユウキ様が戦えば戦うほどワタシも成長し、Z-GEARはより強くなるのです。いずれはこのセーブモードも外すことができるでしょう」


 てことは前に使った時は、僕がZ-GEARの適合者ってだけで使ったから、体に見合ってない出力になったのか…

 どうりで体がボロボロになったわけだ


「ユウキ様、まだ戦闘は続いています。ご注意を」

「ギ、ギ、ギシャァァぁぁ!!!」


 怪人はゆっくりと立ち上がる。その顔には先ほどまでの余裕さはなく、怒りに満ち溢れている。

 一っ飛びでトンネルに入り凄まじい速度でこちらに近づく


 しかしその大槌は狭いトンネルに入らない…

大槌を投げ捨て、再び発狂する。四足歩行になり再び加速する


「ようやくそれを捨ててくれたね」


 構えをとる。

さっきよりリーチの差は縮まった。相手の攻撃をうまく捌けている

少しずつ後ろに下がりながらダメージを与えていく


「ぐりゅるわぁあっ!!」


 怪人に疲れが見え始めた。息は荒々しくなり、足取りは覚束なくなっている

 またも伸ばされた手を掴み、それと同時にもう片方の手を引く


「フライトバスターァァァ!!!」

「必殺コード認証!」


 しぶきを上げ、地面から離れた両足から轟音と共にエンジンがつく

 一瞬にして距離を詰め、顔面にパンチを叩き込む


「ぐるぇぇぇ!!」


 叩き込まれた拳はエンジンによって再加速しトンネルを超高速で怪人を押し出す

そのまま吹き飛ばされた怪人は瓦礫に打ち付けられる


「や、やった…」


 再びZ-GEARの力を使って怪人を倒すことができた…達成感からきた疲労に思わず膝をついてしまう


「さ、桜木さんを連れて帰らないとね…Zさん手伝ってくれる?」

「まだです…まだ怪人の反応は消えていません。来ます」

「え…」


 瓦礫に怪人がいなっ


 突然暗闇から腕が伸びる!

今度は両手をを掴んで取っ組み合いを仕掛けてきている


「パワーでは劣っています。押し合いは不利です」

「っくぅ!!」


 確かにあの大槌を振り回せるパワーだ、あれだけダメージを与えたのに…!!

投げ、浮かされたのと同時にもろで突進を喰らう


「ガッはぁ…」


 数メートル吹っ飛ばされ、意識が飛びかける


「ぐっぅ…」


 近づいてきた怪人は首を掴んでくる…声が、出せない…


「ギッシャヤヤャヤ」


 不敵な笑みを貼り付け直した怪人は力を強める

ギリギリと首が締め付けられる。

 足や腕は届かない、このままでは…


「グリュおォォん!!!」


 怪人が笑い声を上げたその瞬間だった。上空から瓦礫と太陽光と共に何かが降りてくる


「すまない、遅くなった…ここからは私に任せろ」


 そこにいたのは武器を携えた第八部隊隊長、西宮響歌その人だった

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Z-GEAR シダ植物 @ashfern1156

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