第12話 嵐の前の静けさの予感。
「おっひるごは~ん♪」
青柳さんが鼻歌交じりに呟き、そしてそれに合わせるようにスキップをする。
どこかで聞いた"スキップは運動神経が良い人しかできない"というデマを思い出しながら少し早歩きで追いかける。
「みうさん、ちょっと早いかもよ?」
「テンション上がっちゃった、ごめんね~。」
そう謝りながら止まって私たちを待つ。
歩くのに集中していた私は、そんな望月君の発言に感謝しながら早歩きで向かう。
わざわざ望月君が言ってくれたのに、変えられないのが私の性格だ。
そして、また気になることがある。
望月君の青柳さんへのみうさん呼び。
さっき逆の関係で感じた違和感だからこそ、引き立つ。
誰でも下の名前で呼ぶ青柳さんなら、少し呼び名が名前と違ってもおかしくはない。
でも、人を下の名前で呼んでいる姿を数えられるほど見ていない望月君が言うからこそ話は変わってくる。
何でもないって思ったはずなのに、そんなわけないと否定する気持ちが強くなる。
気になるからこそ、聞きたくなる。
たとえ、そこには嵐しか無くて幸せは無いと分かっていても…。
◇
「さて、着いたね。」
青柳さんを先頭に歩くこと十分弱、やっと着いた和食屋さんはお昼時をずらしたおかげか並ぶこと無く入ることができた。
「表現力無いんだけど…めっちゃ素敵だね。」
青柳さんが店員さんと話している裏で思わずつぶやく。
「わかる、こういう和の雰囲気良いよね。」
つぶやきがあるのを分かっていたかのような速さで共感が起こる。
「みんな、こっちみたいだよ。あと、あたし抜きで面白い話しないでよ…。」
予想もしてなかった共感は望んでいない形で青柳さんを孤立させていたみたい。
私は内心謝りつつも、わかりやすい冗談だと流す。
「案内ありがとう、別に一人にさせる気は無かったんだよ?」
冗談の流れた先は望月君の所で、こっちも笑って冗談を流してくれた。
「ここの席らしいけど、掘りごたつタイプ大丈夫だった?」
青柳さんの気遣う問いかけにみんなで頷く。
「良かった~、じゃああたしここ入っちゃうね。」
その声を皮切りにみんなが入っていく。
状況としては私が最後に入ることになった。
選べるということは、多かれ少なかれ何かを捨てることにもつながっていると思う。
「歩夢ちゃん、バランスも悪いし誕生日席座っちゃえば?」
私が面倒な思考に沈む前に青柳さんに道が示される。
「それ、めっちゃ名案だね。」
そう言って一人で座ることになった短い辺の部分。
一人にしては長いけれど二人で座るには短すぎる長さの辺。
特別感があって私は大好きだ。
「あ、メニュー表渡しておくね、決まったら教えて。」
そうして配られると思っていたメニューは二つしか無くて、私は身を乗り出すか回ってくるのを待つのかの二択を迫られた。
これが誕生日席の残念なところだ。
でも、私にはどっちの選択肢も選ぶことが出来なかった。
だけど行動をしないというのは悪ということを知っている。
だから私はその真ん中、背を伸ばしてメニューを覗きながら待つことにした。
「はい、歩夢ちゃん。長く見ててごめんね~。」
「気にしないで、今から見てるから待たせるかも。」
さっきまで背を伸ばしていたおかげである程度何があるかは知っている。
見れなかったのは値段ぐらい、コンタクトのおかげで結構見れるのだ。
ただ、すぐ決めるのもどこか不自然なので軽く二周ほどしてから青柳さんに伝える。
「青柳さん、私この天ぷらの定食にするね。」
「りょーかい、この副菜群はどれにするの?」
私のコンタクトでも見逃していたものがあった。
少し焦りながらもメニューを見てすぐに決める。
「このおすすめセットでお願いします。」
「よし、じゃあみんな決まったよね。注文しちゃうね。」
そう確認して、よく通る声で店員さんを呼ぶ。
注文時はみんなで話を聞き、青柳さんを一人にはしない。
「じゃあ注文も終わったとこだし、ご飯が来るまで少しお話ししようよ。」
そうやってカラオケの時のように青柳さんが切り出す。
今度は空気が重くなることも軽くなることもなく、そのままで。
空気の重さとは違い、緊張は増えたけど。
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陰キャが陽キャじゃダメですか!? あまがみ @ama_gami
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