朝顔

 窓の外。空が薄く青みがかるのが見える。

 同居人の腕枕のごつごつとした固さに、おさなげな外見に反したいかつさを感じながら、静かに寄り添う。

 結局のところたまたまだったのだろう。小夜の中にあった、なぜ日向と住むことになったのか、というぼんやりとした疑問の答えは、偶然というところに落ち着いた。厳密に言えば、小夜に会うためにレイトショーに足を運び続けた男の努力が実を結んだととる方が自然だろう。しかしながら、結果に繋がったのは、ちょうど弱っている時に傍にいたことに由来する。レイトショーに行くという行為一つをとっても、約束をしていたわけではないのだからすれ違っていた可能性はおおいにあるし、最悪、実家に帰ってしまっていたり、もっとひどいことになっていたかもしれない。だから、たまたまあの日、日向がいた、という意味を強く噛みしめている。

 段々と明るくなっていく世界をぼんやりと見上げる。心臓がぎゅっと締まるような心地がして、こころなしか鼓動の回数が増えていく気がした。今日も着実に終わりが近付いているという実感を深めつつ、目を固く瞑る。そうして、朝から逃げ出そうとした。しかしながら、逃げても無駄であるとわかってもいる。朝も子供の頃の体操も、ましてや心臓の音もただの呼び水でしかないのだから。見る人が変われば、小夜にとっての朝と同じ意味合いを、昼や夜に感じもする――あるいはそちらが多数派かもしれない――だろう。それがたまたま、小夜の前には朝として現れるだけで。

 目蓋越しに薄日を感じる。ゆっくりとせり上がってくる不安とともに、日向の腕枕により体を近付けていった。深く複雑に絡みつかんと、体に両腕を回していく。

「今日もひどい顔だな」

 呟きに思わず目を開けると、男の気遣いの籠もった眼差しに貫かれる。

「言い方が悪いよ」

 苦笑いする小夜を、日向が胸板に抱き寄せる。

「汗臭いね」

「小夜の言い方も大概だろ」

 不満げな同居人の言の葉を、作ってくれた肌色の闇の中で聴く。自分とは別の心音もまた、終わりを予感させたが、さしだされた肉の日傘は素直に好ましかった。

 朝の光から自らを遮ってくれた同居人に、小さな愛を感じながら、休日にかこつけて二度寝しようと企む。消えない不安の中で入眠は上手くいかないままだったが、ほんの少しだけ混ざった安堵をよすがに引き寄せようとする。

 今も。きっとこれからも。こんな風に光る朝の顔をやり過ごしていく。

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朝顔 ムラサキハルカ @harukamurasaki

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