第1章 第15話 交渉成立
「よし!」
ドランはいきなりそうつぶやいた。そして、こちらの方に向き話しかけてきた。
「あか。あんたはなんのためにこのダンジョンの探索をすると言っている?」
ドランが不思議な質問をしてきたので、俺はトミの方に顔を向ける。トミもドランの言いたいことがわかっていないのか、両手と肩を上にあげわからないと言った姿勢をとる。
トミには頼れなさそうなので、とりあえずその質問の内容について考えてみる。けど、答えははっきりしているので、俺は自分が考えていることをドランに告げた。
「……なぜ、ダンジョン探索をするかって。それは、攻略のためなんじゃ」
ちょっと自信なさげな口調になってしまった。まぁ、さっきから相手の求める返事をしてこなかったので、こんな自信なさげになってしまったのかもしれないのかなと、内心分析していた。
「そうじゃねぇ。お前は俺との勝負が時間と体力の浪費だと言ったよな?」
「ああ、まぁそういう風には言ってはいないが、ニュアンス的にはそんな感じになるのかな?」
俺が自分の言葉を思い返そうとしていると時間の無駄という言葉は特に気にしていなかったのか、冷静にドランが言ってきた。
「さっきのやり取りで俺としてはそう認識させてもらった。時間の無駄は確かに俺も嫌うところだから、そこは納得してやるよ」
「じゃあ、もうダンジョン探索を再開してもいいかしら?」
待ち侘びたかのように、トミがドランに向かって言った。
しかし、ドランは首を横に振った。
「まだ、駄目だ。というよりむらさき、あんたは落ち着けよ」
今にもトミがダンジョンに向かって走りそうな勢いを見てドランが言った。トミは不服そうな顔を浮かべるが、ドランのいうことを聞いたのか、話の続きを促すように壁に背中をもたれかけた。
それを見たドランは満足そうに笑顔になり、口を開いた。
「俺と勝負するのはあんたにはなんのメリットもない。だから時間の無駄なんだろ?」
悪意ある言い方ではあるが、間違っていないので否定できない。
「まぁ、そういうことになるな」
その俺の返答に満足しているのかドランは笑顔のままである。なんだろ、さっきまで怒っていた顔の人物とは思えないほど不気味なんですが。
「じゃあ、メリットがあったらどうだ?」
「メリット?」
「ああ、そうだな、仮面の戦士の2人はなんで忘れられた都市を探索に来たんだ?攻略以外で答えてくれ」
俺とトミは顔を見合わし、互いに頷く。
「攻略以外だと素材集めや、あと集めた素材を売ってお金稼ぎだな」
ドランは目を光らしたかのように笑みを深め、俺が言った部分に食いついてきた。
「素材を売って金稼ぎか。Sランク冒険者とは思えない発言だな。てっきり金にはもっと余裕があるのかと思ったぜ」
それを聞いた俺は少しだけしまったなと思った。わざわざこちらがお金について心配している状況だということが相手にわかってしまうのは、なんとなく気分的に嫌なものがある。
お金に困っているSランク冒険者だと言いふらされたくなければ勝負しろだなんて言われたらどうしよう。まぁ、多分そう言われても勝負しないんだろうが。というよりそんなこと言われたら、是が非でも勝負したくないというものだ。しかし、そう考えていた俺とは裏腹にドランはある提案を口にした。
「仮面の戦士、アカ、お前が俺との1対1に勝てたら金貨10枚をお前にやろう」
「喜んで戦わせていただきます!」
俺の手のひら返しにトミは呆れていた。
仮面の戦士と帝国の皇子 イリン @irinn
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