流れ星。

竹串シュリンプ

流れ星。

「あっ、流れ星!!」


「えっ、どこ!?」


「もういっちゃったよ〜」


「くっそ〜っ!また見れなかった…。」




ある病室に、2人の楽しそうな声が響く。



そこの病室には、2人の男の子がいた。男子高校生くらいだろうか。

1人は制服で、1人は病院の服を着てベットに座っていた。





☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡




俺の名前はあきら。高校1年生。クラスに友達らしい友達がいない。



今日もほんとは行きたくない高校に通う。

一応、皆勤賞だ。なんで学校嫌いなのにとれてるかって?



その理由は、放課後にわかる。



教室に入ると、おしゃべりの声が一瞬止む。そして俺がおとなしく席に座ったら、またおしゃべりが始まる。


最初こそうんざりしていたものの、毎日されれば慣れる。


俺は無愛想だからか、友達ができなかった。そもそも、いらなかった。



授業をいつも通りこなし、退屈なホームルームを終えるチャイムがなった瞬間、俺は真っ先に教室を出る。いつも通りだ。



学校を出て走って向かったのは、


『夜ヶ丘病院』


という名前の病院。



受付に行くと、


「あら、明くん!今日も面会だよね?402号室ね」


と、顔見知りの看護師さんに言われ、俺はこくっと頷いた。



走りすぎたせいで上がった息を落ち着かせながら、402号室に行く。



そして、扉を開けると。



「あっ、あきら!みんな、あきら来たよっ!」



真っ先に俺に気づいてくれた男の子は、流星りゅうせいという。



俺の幼馴染であり、親友だが、生まれつき体が弱く、幼い頃から入退院を繰り返していた。


だから学校に行けていない。本来ならば、俺と同じ高校に行けているはずだった。


流星がいたら学校も楽しかったんだろうな。

流星がいつかまた学校に通える日を願って。俺は毎日学校の授業を受けて、流星に勉強を教えられるようにしている。俺が皆勤賞である理由かな。



流星は俺と違って明るくて優しく、夜ヶ丘病院内でも評判が良かった。だから今も流星のベッドの周りには重い病気で入院している子供たちがいて、遊んでいた。



「あきらくーん!!!あきらくんもあそぼうよっ!」


「あきらくん!さっき折り紙で作ったツルあげる!」



俺も毎日病院にきてるから、子供たちとも結構仲良くなった。


俺は集まってきた子供たちに、ずっと訊きたかったことを訊く。



「…なあ、お前らは俺のこと怖くないの?」


昔からそうだった。


クラスのみんなには目つきが悪くて怖いからと遠巻きにされ、友達ができなかった。


友達になってくれたのは流星だけだった。



「えーっ?全然怖くないよ!」


「だって明くん優しいもん!」


「あとねっ、りゅうせいくんが……」



『あきらは、昔からみんながめんどくさいって思うことを率先してやったり、言われたことはちゃんと守ったりしてくれるんだよ。

学校のおともだちはあきらを怖いって言うけど…あきらは優しいひとなんだよ』



「って言ってた!!」


「……!」



俺はびっくりして流星をみる。


流星は俺に気づいてくれて、にこっと笑いかけてくれた。



なぜか心臓が妙にドキッとした。




★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡




数十分後。



「みんな自分の部屋に帰ったな」


「うん、もうそろそろ夜ご飯だから」



流星は個室だから、みんなが会いにきてくれるのが嬉しいらしい。


だけど、窓の外の景色を静かに見たい、ということで個室を選んだらしい。



「あきら、学校楽しい?」


「………流星いねーし、楽しくない」


「えー、友達まだできてないの?」


「友達は流星だけでいい。」


「もう……。でもさ、僕もいつ死ぬかわかんないし。しんぱーい」



わかってる。流星が長生きできる確率が低いことを。



「それでも、俺が話せる相手なんてお前しかいない。」


「えへへっ。なんか照れるなぁ。ありがと」



ときどき思う。流星が無理して明るく振る舞っているのではないか…と。



そうだよな。いつ死ぬかわからない状態で明るく笑う方が難しいもんな。


そんな流星が心の底から笑えてる気がする時間がある。






それは、星が見える夜。



☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡




☆流星side☆



「もう日が沈んだな」


「あっ、ほんとだ!」



僕はわくわくしながら窓の外を見た。



徐々に星が見えてくる。



星空が見える病院でよかったとつくづく思う。


この町で唯一暗くて空に近い場所。


それが『夜ヶ丘病院』だった。



さらに、入院棟の最上階で、1番窓が大きい『402号室』にしてもらった。



つまり、僕はこの町で1番星が見える(と思われる)ところに入院しているのである。




「きれー……」


僕が窓に両手を当てて星空に見惚れていたら、あきらが言った。



「星見てる流星、楽しそうだな」


いつもより自然な笑顔が出てる、だそうだ。


そうだね。



病院の先生や看護師さんは優しいし、僕と同じように重病で入院している子もみんないい子たちだ。一緒にいて楽しいということは嘘ではないけど、確かに自然な笑顔ではなかったかも。



親やあきらにも心配してほしくなかったし。



「なあ、流星…お前、いつも無理して笑ってるだろ」




図星だった。




やっぱりあきらにはわかっちゃうんだ。



「うん…無理して笑ってるかも…」



僕はまた窓の外を見る。



チカチカしている星が、時折光を失う。



僕の命も、いつかああいうふうに消えるのかな。



「流星、なんか悩みがあったら、相談しろよ。俺なんかでよければきくから。」



そう言ってくれる流星に、自然と顔がほころぶ。



「うん、ありがとう!」



「ふっ、」



「な、なに?」



「いや、自然に笑えるじゃん。可愛いよ」



「!?」



な、何言ってんの!?



僕は恥ずかしさのあまりまた窓の外に目をやる。


すると。



「あっ!!流れ星!」


一瞬だったし、小さかったが確かに、1つの流れ星が通った。もう少しで流星群が見れるのかもしれない。


「えっ、どこ!?」



あきらは見えなかったようだ。


「もういっちゃったよ〜」


「くっそ〜っ!また見れなかった…。」



あきらは、本物の流れ星を見たことないと言っていた。でも今年の夏は……。


「今年の夏も、ペルセウス座流星群が綺麗に見えるよ!大チャンス!」


「でもなぁ……毎年1人で虚しい。でも…その…流星がいたらなんか流れ星見られる気がする。」


「じゃあさ、今年は一緒に見ようよ!多分外出許可でないから病院だろうけど……あきらが、ここに泊まれるように先生に頼んでみる」



「先生許してくれるのか…?」



「まああきらだし許してくれるよー」



「そうか…?」 



「あきらのおかげで入院棟の子供たちもさびしくない!って言ってるからねぇ。先生も大喜び…あ!また流れ星!」



「はぁ!?どこどこ!?」



「もう消えちゃったよー」



「うああああ!見れそうだったのにぃ!」



あきらは悔しそうに叫んで、窓に張り付いて流れ星を探す。



悔しそうだったが、同時に星を見るあきらも笑顔だった。





…あきらだって、笑えばかっこいいじゃん。




 ☆流星side☆ 終

       

★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡





もう高校は夏休みに入ろうとしていた。


夏休みは好きだ。



学校は退屈だったし、何より流星といられる時間が増える。



それに、一緒に流れ星をみる約束もした。




今年の夏は、楽しくなるかもしれない。




そんなことを考えながら、夏休みを迎えた。



それから、毎日流星の病室に通った。

俺が勉強を教えたり、逆に流星が天体について教えてくれたり。



そんな日がしばらく続いて、ついに明日がペルセウス座流星群がみえる日となった。



「ねえ、明日だねぇ、流星群っ!あと、お泊まり会!!」


「だな、明日は–––––」


「……っ、ゴホッ」



なんの前触れもなく、流星が苦しそうな顔をして、咳き込み出した。



「流星!?大丈夫か?ナースコール……」


「、大丈夫…最近よくあるんだぁ…」



流星は力無さそうに微笑む。


(また無理しているのか…)



しばらくすると、流星は落ち着いたようで、また眠ってしまった。




………俺なんかに流星を助ける資格なんて無いだろうけど、なんとかして助けてあげたい。



「また明日。」


眠っている流星にそう言って、俺は病室を出た。



☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡



次の日。


早朝に流星のお母さんからかかってきた電話に一気に血の気が引いた。



「明くん!?朝早くにごめんなさいね…さっきまで流星が危険な状態で……今処置してもらって命に別状はないのだけど…」


「流星は……っ!?大丈夫なんですか!?」


「ええ、今眠ってるわ…けれど、今日や明日は面会してはいけないらしいわ。約束していたらしいのに、ごめんなさいね…」


「いいえ……流星が無事ならそれでいいんです…!安静にしてください」


「ありがとうね、明くん。またね」



電話が切れた後、俺は力が抜けて床に座り込んでしまった。



『、大丈夫…最近よくあるんだぁ…』



昨日からしんどかったのかもしれない。


俺がもっと早く気づいていれば……。



「ごめんな、流星……」



その日は、自分の家の部屋から星空を見たけれど、やっぱり流れ星は見つけられなかった。



★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡



数日後。


流星の面会許可が出たので、会いにいった。



「あ、あきら……。久しぶり。この前は、一緒に流星群みれなくてごめんね……」



流星はこの前より弱った様子だった。


この前より痩せているし、少し体調も悪いみたいだった。



「そんなの、気にすんなよ。俺、家からみたから……一応」


「流れ星……みえた?」


「やっぱり、みえなかった。そもそも、街の方って明かりがあるからさ、星すらも見えずらいし…」


「だよねぇ…病院からも、ここらへんが暗いとはいえ街の明かりがあるからそんな多くは見えないよ」


「明かりって邪魔なのかな…俺みたいにさ」



そう、俺は邪魔だ。


「明」なんて漢字、友達が多い人気者をイメージするだろう。けれど実際は目つきが悪くて友達がいない自分だ。


俺は自分に存在する価値があるのかわからなかった。




「あきら……っ!そんなこと言わないで…生きてるだけで、あきらはすごいんだよ。僕は、強く生きているあきらが好きだよっ」


でも、流星がいたから今俺は生きているのかもしれない。



「ん…。ありがとな、いつも」



「えへへ…こちらこそ」



「じゃあ、俺はそろそろ帰るな。」



面会できるとはいえ、面会時間は限られてくる。それくらい体調が悪いのかもしれない。




「またね、あきら」




☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡




さらに数日後。


夏休みが終わるまであと2週間とちょっと。



流星の体調は良いと言えず、面会ができる回数も減ってしまった。


だから最近は会えていない。



俺はただただ心配で、何もやる気が起きなかった。



「会いたい……」



そう何回か呟いた時。



流星のお母さんから電話がきた。



「もしもし明くん?最近は面会できなくてごめんね…それで、明日の夜はできそうなの。流星がお医者さんにどうしてもって言って、外出許可も貰ったらしいの。……付き合ってあげてくれないかしら?」



「!!もちろんです!」



「ありがとうね。流星もきっと嬉しいわ」


電話を切った後、俺は考え事をしていた。


流星のお母さん、いつもより元気なかったな……流星になにかあったとか……。


いや、子供の体調が悪くて元気を無くしてしまうのは当たり前か。



その時の俺はそんなに深く考えていなかった。



次の日の夜。



夜ヶ丘病院に行って、受付に行ったら、知り合いの看護師さんはいつもの笑顔ではなく…



なぜか悲しそうな顔をして面会許可をくれた。



流星の病室へ行くと、流星はまた弱ったようだった。


だから…


「あきら、外出許可もらったから…外行こ」


流星にそう言われたときはびっくりした。


ほんとに行くのか…?その体で。




ところで、こんなに弱ってるのに、なんで先生は許可を出したんだろう…


そう思いながら、流星を車いすに乗せて病院の外に出た。



「どこ行く?」


俺がきくと、流星は小さな声で答えてくれた。


「実は、病院の裏に丘があるんだ。ほんとは危ないからあんまり行っちゃだめなんだけど…」



そこで流星は口を閉じてしまった。



俺もそれ以上はきかなかった。




「じゃ、そこ行くか。道教えて」



しばらく坂をのぼったり、歩いたりしていたら、丘の上に着いた。



「うわぁっ……きれー…」


丘の上は、街の明かりがあまり邪魔していなかったため、病院よりも綺麗な星空が見えた。



「こことか、ぬかるんでて危ないじゃん。だから、ほんとは立ち入り禁止なの。だけど、先生にお願いして、––––先生は嫌そうな顔をしてたけど–––––最後には許可出してくれたんだ」



流星は、ゆっくりと話してくれた。



ここが安全だったら、病院の子供たちも来れるのになぁ。


そう思いながらしばらく流星と星空を見上げていたら、流星が口を開いた。



「ねえ、あきら……前にさ、明かりって邪魔なのかなって言ってたじゃん。ここもさ、月明かりがあるから、完全な暗闇をつくれないじゃん。だから、それは間違ってるって言い切れないかも。でも……それでもね」


流星は手をゆっくり星空にかざした。




「僕が降らせてあげる。明かりがあったって輝く流れ星を。」




そう言った流星の瞳は、星空を映して輝いていた。



「ありがとな。流星」


俺はその意味深な言葉がわからなかったが、ありがとうを伝えたくなったんだ。



「ねえあきら………再来週あたりにさ、数十年に一回しかみれない流星群が通るらしいよ。その流星群、今までに無いくらいいっぱい綺麗にみえるんだって。だから…見てね」



「でも俺は……流星、と…一緒に見たい」



ちょっと恥ずかしかったが、そう素直に伝えた。



流星も、ちょっと恥ずかしそうな、でも嬉しそうな笑顔で、


「うん、一緒に見よう。」


と言ってくれた。



★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡




次の日の早朝。



病院から電話がかかってきた。


なんだろうと思って電話に出ると、夜ヶ丘病院の知り合いの看護師さんからだった。


「明くん……今から病院に来れる?」


「行けますよ。どうかしたんですか?」


「……ごめんね。とりあえず、来てくれたら説明する」




俺は嫌な予感がして、全力で病院まで走った。



402号室ではなく、看護師さんに教えてもらった部屋に着くと、流星は眠っている…









安らかな顔すぎて、一瞬眠っているのかと思ったけれど。




ベットを囲って涙を流す流星の家族と、悲しそうな顔をしている先生を見て、そうではないんだと気づいた。



「流星は…………?」



俺は頭に浮かんだ最悪のパターンを認めたくなくて、先生にそう訊いた。














「流星くんは……昨日の深夜に亡くなりました。」












「…………え?」


俺のみている世界が、色を失った。





☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡








2人でペルセウス座流星群をみる約束をしたあの日。










☆流星side☆












僕の体調が悪化して、あきらと一緒に流星群をみることは叶わなかった。



さらに、先生から告げられた余命。



「流星くんの命は、頑張っても……8月中旬くらいまでです。」



「そう、ですか………」



僕は、意外にも落ち着いていて、逆にお母さんやお父さんの方が気が動転していた。泣いているようだった。



「どんな治療をしてもですか……?」


「お金なら払います…なんとかして助けられませんか????」



「すいません……。今の技術では、流星くんの病気の進行は止められることができません。私たちの力不足です。本当に申し訳ありません。」



そう言って頭を下げた先生も、ずっと僕のお世話をしてくれていた看護師さんも泣いていた。




僕は虚ろな目で天井を見上げることしかできなかった。涙は出なかった。





夜。病室で1人になった僕は、ペルセウス座流星群を眺めていた。



あきらには本当に申し訳なかった。



そっかぁ。僕、死ぬんだなぁ。





流れ星を見つける度に、僕は涙が溢れた。





もうすぐ死ぬことは頭のどこかでわかっていた。





別に死ぬのは怖くなかったはずなのに。




「ははっ……なんでだろ……死にたくない、な………」



ぽろぽろとこぼれる涙を止めることができずに、僕はつぶやいた。




次の流星群は、8月下旬、夏休みの終わり頃だ。しかも、数十年に一回しか見られない、貴重な流星群だ。




僕は、その流星群が見られない。




でも。




「あきらには、見てほしいな……」



あきらが、今度こそ、流れ星を見られますように。



僕は、今見ている流れ星に、そうお願いした。



それから数日後。



あきらと久しぶりに会った。




なのに,君は。




「明かりって邪魔なのかな…俺みたいにさ」





何でそんなこと言うの?




僕が今まで希望を持って生きてこられたのはあきらのおかげなんだから。



「あきら……っ!そんなこと言わないで…生きてるだけで、あきらはすごいんだよ。僕は、強く生きているあきらが好きだよっ」



……………。



やばっっっ!?



好きって言っちゃったぁ……


顔を赤くして後悔している僕だったけど、あきらは気づかずに帰ってしまった。



危なかったぁ…。



僕って、あきらのこと……好きなのかな?



「もうすぐ死ぬのに………恋してもなぁ」



僕は自分の気持ちに蓋をして、その日はおとなしく寝た。




それから数日は、体調が良くならなくて、面会許可が全然出なかった。




ある日の朝




もう8月中旬かぁ……。


もうすぐ死ぬのかなぁ。


今日とか、急に死んじゃったり。




数分前。



「流星くん………。流星くんの命は、今日か、持っても明日で尽きてしまう可能性が大きい。だから、最後はやりたいことをやってほしい。……力になれずに本当に申し訳なかった。」



「いや……先生が何もしてくれなかったら、僕はもう死んでます。僕は、もう充分です。…………けれど、一つだけお願いがあります」




「なんだい?」




「僕に、外出許可をください。あと、丘の上に行かせてください。」




「え……っ。外出は誰かが付き添うならいいが、丘の上は…危ないんじゃないか。」



「どうせもう死ぬんです。だから…大丈夫です…。お願いします。行かせてください。」



そして先生は難しそうな顔をして、他の先生にも相談して、渋々だが許可を出してくれた。




その日は死ななかった。よかった。




次の日の夜。



だいぶ体がしんどかったが、あきらが車いすを押してくれて、丘の上に行けた。




僕は、あきらが前に言っていたことを思い出していた。



「ねえ、あきら……前にさ、明かりって邪魔なのかなって言ってたじゃん。ここもさ、月明かりがあるから、完全な暗闇をつくれないじゃん。だから、それは間違ってるって言い切れないかも。でも……それでもね」



それでも。




「僕が降らせてあげる。明かりがあったって輝く流れ星を。」




明かりは邪魔なんかじゃない。だから、明かりを消すんじゃなくて流れ星が輝けばいいんだ。



「ありがとな。流星」



あきらは、意味がちょっとわからなかったかも。


だけど、心の底ではわかってるのかなって気がした。






「ねえあきら………再来週あたりにさ、数十年に一回しかみれない流星群が通るらしいよ。その流星群、今までに無いくらいいっぱい綺麗にみえるんだって。だから…見てね」




僕が、その時に空から降らせる。とびっきり明るい流星群を。


すると、あきらは、


「でも俺は……流星、と…一緒に見たい」



と、ちょっと恥ずかしそうに言った。



僕もちょっと恥ずかしかったが、あきらがそう言ってくれたことが嬉しかった。




「うん、一緒に見よう。」




そう言ってしまったけど。



それは叶わないんだ。




ごめんね、あきら–––––––。



あきらが帰ったあと、思っていた通り僕の容態は悪化した。



僕は、あきらに死期を伝えていない。


悲しませたくなかったから。



だから、僕の体もあきらが帰るまで待っててくれたのかなぁ。




意識が遠くなってきたけれど、僕はあるものを手に握っていた。



それは、『流れ星に願いを込めて』と書かれた小瓶だった。


星の砂ってあるじゃん。



これには、すっごい大切な思い出があるんだよ。



僕の意識は遠のいた。



そして、夢を見た。



あきらと出会った、あの日のこと。




僕の体がまだそんなに弱ってない幼稚園年少の頃、家族で遠出して、星が綺麗に見える山に行った。



そこには、もう1組家族がいた。



それが、あきら一家。




僕たちが流れ星をどんどん見つけていく中、あきらだけ見つけられないようだった。



「なんで俺だけ見えないんだよぉ……」



そう悔しそうにするあきらを慰めているあきらの家族。



そこで僕は近くにあった売店を見つけて、あるものを買った。



それが『流れ星に願いを込めて』とかかれた星の砂が入った小瓶。



それを持って、あきらの家族に近づいた。



「あの、これ…あげます」



あきらに小瓶を差し出すと、あきらはびっくりした顔をして、



「これ、俺もさっき買った!色違いの!」


「えっ……」



予想外の出来事に僕は固まってしまった。


いらなかったかなぁ………。



そう落ち込んでいる僕に…あきらは言ってくれた。



「じゃあさ、交換しよう!俺は水色の買ったから…」



「っ!僕は、黄色の買った!」



そして、僕とあきらは星の砂を交換して、僕が水色、あきらが黄色を持って帰った。



そして、数日後………。



具合が良かったので、久しぶりに幼稚園に行ったら…



「あれ、もしかして……りゅうせいくん?」


「えっ!?あきらくん…?」



なんと、あきらと同じ幼稚園だった。




それから家同士も仲良くなって、よく遊ぶようになった。



僕はよく風邪をひいていたから、学校にもなかなか行けなかった。



だから、あきらが唯一の友達だった。



忙しいはずなのに、ほぼ毎日病院に来てくれて、勉強を教えてくれるあきら。


目つきが悪くて無愛想だけど、笑うとかっこいいあきら。



そんなあきらに、僕は………



「恋、していたんだよなぁ……」



そう誰にも聞こえない声でつぶやいた。



それから、目の前が徐々に暗くなってきて…









僕は、長い長い眠りについた。


          ☆流星side☆ 終



★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡







流星が亡くなった翌々日。



昨日はお通夜で、今日はお葬式。




棺の中には、安らかな顔をして眠っている流星がいた。



長年苦しんできた病気から解放された流星が…安心して眠れますように。




俺はお葬式の始まりから終わりまでずっと声をあげて泣いていた。



周りには、流星と仲が良かった病院の子供たち、お医者さんや看護師さん、俺の家族、流星の家族がいた。みんな泣いていた。



流星は、長年夜ヶ丘病院にいたのと、病院の中でもお兄ちゃんのような立場だったため、病院関係者が多かった。




お葬式が終わった後、流星のお母さんがあるものをくれた。



それは、あの時の星の砂と、流星からの手紙だった。




「流星、亡くなる直前までずっとこの小瓶を握っていたわ…。本当に大切にしてたのね。」



と、泣きながら教えてくれた。




俺も、色違いの星の砂を大切にしていて、今もポケットに入っている。




そして、手紙だ。



「この手紙、流星が『僕が死んだらあきらに渡して』って言ってたわ。多分…遺書、みたいなもの」




何が、書かれてるんだろ……。


家に帰ったあと、俺は自分の部屋で、封筒に入っていた手紙を取り出して読んだ。





『あきらへ


この手紙を読んでるってことは、僕はもう死んでるんだね。なんか、実感がわかないや。



僕が余命宣告されたのは、ペルセウス座流星群だった日。


8月中旬に死ぬって言われた。


とっさに頭に浮かんだことは、それじゃあ、8月末のあのレアな流星群見れないなぁっていうこと。



みんな、泣いてた。僕だけ泣かなかった。


でも、病室に戻ったあと、1人で流れ星を見てたら、泣けてきちゃった。


「死にたくない」


今までにない感情が生まれたんだ。



一緒に流れ星を見たかった。


本当にごめんなさい。


でも、あきらには見てほしい。


病院の裏に丘があって、そこに行ってみて。


病院の先生に許可はとってるよ。運動神経のいいあきらなら、登れるだろうね…って言ってた。つまり、その丘は今のところあきらしか行けないよ。ただし、行く前に病院に寄ってね。一応病院の敷地内だから。


でも、ぬかるんでたり、石が多かったり、危ないから気をつけてね!


あとさ。

星の砂、あるじゃん。『流れ星に願いを込めて』。



僕、あれ死ぬまで持っとこうと思ってる!



それで、僕が死んだ後はあきらが持ってて。



お願いが多くてごめんね。



最後に、もう一つだけ書かせてください。


僕は、あきらのことが大好きでした。



それは、友達としてなのか、恋愛的になのかはわからなかったけど。


でも、確かに、僕はあきらの笑顔を見るとドキドキしていました。


あきらは、僕が笑えば可愛いと言ってくれたけれど……僕は、あきらは笑えばかっこいいと思ってました。



僕は、あきらにはずっと笑っててほしい。



僕が好きになったその笑顔で、幸せに生きてね。僕の分まで。



今まで僕と親友でいてくれて本当にありがとう。



               流星より』





俺の目からこぼれた涙が『流星より』の字をにじませる。



やっぱり、流星は死ぬのが怖くて怖くてしかたなかったんだろうな。



助けてあげたかった。



俺、何にもできなかったなぁ。



「ごめんな、流星…」


俺は涙が止まらなかった。



今、俺ができることは………。



…8月末の流星群を、あの丘でみること。



☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡





8月末、夏休み最終日の夕方。




俺は、あの丘に数十年に一回の流星群を見にきていた。




………今日は、見れるのだろうか…。




人生で初めての流れ星。

だからか…ちょっと緊張してきた。




やがて陽は沈み、星がちらほら見えてきた。



しかし、それから数十分待っても見えない…。



もしかして、今日も見れない…?



でも、生きてる間にもう一度見えるか見えないかくらいのレアな流星群だ。絶対に見たかった。



俺は空を仰ぎ続けた。



すると。






スーッ…と、ひとつの光が、ほんの一瞬だけど通った気がした。



「…………!!!!!!!!」




そして、その『流れ星』がファーストペンギンのようなものとなり、空は次々と星を落としていった。



「……やった…っ」



俺は嬉しくてしょうがなかったが、同時に、



…流星と一緒に見たかった、なんて思った。




「こんなこと、願っても叶わないのに。」



俺はそう呟きながらも、両手を握り合わせて流れ星に願いをのせた。



「もう、この世界では叶わない夢だってわかってます。だから……来世でもいいんです。

来世では、流星と一緒に流れ星を見たいです。お願いします。あと–––––、」



俺は、流星のことが好きだった。


流星が、手紙に笑顔がかっこいいと書いてくれて、そして、俺のことが好きだと書いてくれて。



俺も、流星みたいに自分の気持ちを伝えたい。ちょっと恥ずかしいけどね。



「あと–––––、来世では…。来世では、流星のことを幸せにさせてください。今度こそ、好きだって伝えたい。



この声は、流星に届いてないだろうけど…」




『大丈夫、聞こえてるよ。』



「っ、え…?」



流星の声が確かに聞こえた。



もちろん後ろを振り返っても、流星の姿は無かった。



でも、確かに声だけは聞こえる。



『ありがと、あきら。こんな僕を好きになってくれて…。僕のこと、幸せにしてくれるの?それって–––––––––プロポーズみたい…』




流星は、泣いているような声を出して喋っているようだった。




『次の世界では、一緒に幸せになろうね。』



うん、絶対。



「約束するよ。今度こそ…幸せになろうね」



2つの星の砂をもう一度握りしめて、俺はそう言った。



空を見上げると、満月の明かりにも負けないくらいの流れ星が1つ、ゆっくりと通った。












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