蝉。かららららららん。

汐海有真(白木犀)

蝉。かららららららん。

 ――――これはとある夏の夜に、私が体験したお話です。


 もうすっかり陽が落ちて、辺りは真っ暗。

 私は済ませたい用事があり、家の近くにあるコンビニへと赴いて、それから帰路についているところでした。


 それにしても、夜の世界って何だか不気味です。

 遠くの方にいる人は色を失って見えて、どこか幽霊を想起させました。勿論、ちゃんと足があるから、人で間違いないと思うのですけれど。


 早く帰ろうと思い、私は早足で歩いていました。


 …………そのとき、突然。


 グシャリって音がしたんです。


 どうやら不注意で、何かを踏んでしまったようでした。

 薄っぺらい落ち葉を踏んだにしては、随分大きな音だったので。

 この季節ですし恐らく、蝉の抜け殻を踏んでしまったのではないかと考えました。


 そうしたら、ね。



 ――――かららららららん、って聞こえたんですよ。



 例えるなら、そう……神社の鈴のような音でした。

 綺麗で、何だか、耳に残るんです。


 小さな音だったので、気のせいかなって思ったんです。

 でも、それを否定するかのように。



 また、かららららららん、って音がして。



 辺りを見渡してみても、そこにはいつもの風景があるだけ。

 その音は、もうそれ以上鳴ることはありませんでした。



 …………何だったんでしょう、あの音?



 きっと、誰かがどこかで、何らかの目的をもって鳴らした音で。

 それさえわかれば、ただの音なんですけれど。

 もう、確かめようはありません。


 ……荒唐無稽だと、笑われてしまうかもしれませんが。

 私には、蝉の抜け殻「かもしれない」それと、二度響いたあの美しい音が。


 もしかすると、何らかの繋がりを持っていたんじゃないかって、考えてしまうんです…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蝉。かららららららん。 汐海有真(白木犀) @tea_olive

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ