第6話 生物型魔力災害『天使』
彼の言葉に、エイラは思わず目を見開いた。
「天使の......討伐ですか?!」
「おや、知っていらっしゃるんですか?」
「......知らない人なんていませんよ!」
生物型魔力災害『天使』。十年前に発生した、実態を持った『自然魔力』の集合体。本来は空気中を漂い、動植物の中を行き来するだけの空気のような自然魔力が、特定の魔獣や環境の影響で人間に害をなすのは珍しくない。だが、固体化して生物の形を成す事例は————過去に一度も無い。
加えてその『天使』は、未踏破のダンジョンの奥深くに居座りながら、周囲の生態系に甚大な影響を及ぼし続ける厄介な大災害。このダンジョンの半径1km圏内は、国家の許可が下りなければ立ち入る事が出来ない『禁足地』に指定されている。
誰もが震えあがる化け物の討伐に赴く事が決定した事実に、ドンドンと青ざめていくエイラ。
そんな彼女とは対照的に、雷太は小さく笑いながら頷いていた。
「確かに......莫大な報酬が貰える依頼を受けるとは言ってたが、簡単で楽な仕事とは言ってなかったな。やっぱり頭をおかしいぜ、オッサン」
「はーっはっはっは、自身の欲求に正直、と言ってください。さて、依頼の日程は明日なので————そろそろ向かいましょうか!」
「............はい?! いや、そんな急に————」
あまりにも流れるように、人間が立ち入る事すら許されない死地への移動を宣言したリーダーに、抗議をしようと声を上げるエイラ。だが、
「さぁ皆さん、飛びますよ! 足元にご注意を!!」
彼女の声が届く前に、ビッグショットの『詠唱』が、張りぼての屋敷に響き渡る。
「【
その瞬間、黒く薄汚れた屋敷の床に————淡い青色の魔法陣が浮かび上がった。
目を刺すような輝きに、つい瞼を閉じるエイラ。そんな彼女は......体に当たる冷たい風を感じて、ゆっくりとその目を開いた。
「到着ですよぉ、皆さん! ここが天使の巣食うダンジョンのある街、禁足地『バイベルボン』です!!」
彼の宣言通り、ノブレスローグの面々は一瞬の内に————王都の南側に隣接する街『ペントマーチ』の拠点から、海からの冷たい風が吹きつける北東の街バイベルボンに転移していた。
眼前の光景を理解する前に、エイラはビッグショットに向かって怒りの声を上げた。
「ちょ、ちょっと、いきなり転移するなんて何考えてるんですか! 天使なんて、無策で挑んでどうにか出来る相手じゃ......!」
「まぁまぁまぁ、落ち着いてくださいエイラさん」
ぷんすかと頬を膨らませるエイラに、ビッグショットは冷静に、宥めるように言い放つ。
「貴方のおっしゃる通り、天使は危険です。ですが————時間が経てばどうにかなるような敵ではありません。周囲の魔動植物も、勿論ダンジョン内の他の魔獣も、その魔力に感化されて凶暴化しています。被害をこれ以上拡大させないためにも、一日でも速く討伐しなければなりません」
「......高難易度であるほどそそられる、とか言ってませんでしたか?」
「さぁさぁ皆さん、ダンジョンに向かいましょう!」
エイラの指摘に耳を塞ぎながら、ビッグショットはつかつかと歩き出した。そんな彼の後ろを、エイラ以外のメンバーの三人は特に戸惑う様子も無くぞろぞろとついて行く。
そんな彼らの迷いの無い足取りにエイラは困惑しながらも、
「ま、待ってくださいよぉ~」
ヘニョヘニョとみっともない声を出しながら、小走りでついて行った。
暴発魔導師は天職を見つけたようです 牙屋 @KIBAYA_SAN
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