第5話 討伐の依頼

「こ、こんにちは~」



 翌日。ビッグショットの言いつけ通り、再びノブレスローグの拠点にやって来たエイラ。


 小さな声で挨拶しながら、恐る恐る扉を開くと————



「おっ、早いじゃねぇかエイラ」


「ら、雷太さん、こんにちは」



 そこにいたのは、金髪の少年、忌軸雷太だった。どうやら、他のメンバーはまだ来ていないらしい。



「......」


「......」



 凍りつく空気。当然だろう、知っているのは互いの名前くらいだ。加えて片方は、齢二十歳になっても尚、友達が片手の指で足りるほどしかいない情けない奴である。


 人と話すのが大して好きじゃないくせに、重い沈黙が苦手なエイラがぐるぐると脳みそを回して面白い話題を探していると、雷太が頬杖をつきながら口を開いた。



「なぁエイラ」


「は、はひっ!」


「お前の暴発癖ってどんなんなの?」


「え?」


「いや、これから一緒に戦うならどんな感じなのか知っておきたくて。狙った所に魔法を撃てないとか、そんな感じ?」


「あ、いえ、ちょっと違って......」



 何と言うべきか、と若干恥ずかしがりながらも、エイラはなるべく分かりやすいように説明を始める。



「えっと、簡単に言えば「他の人に魔法を当ててしまう」って感じですかね。も、勿論狙ってるわけじゃないんですよ?! ただ、魔法を撃つと勝手に当たるっていうか.......」


「へぇ、随分と特殊だな。魔力の扱いが下手糞とか、ちゃんとした魔法陣をイメージ出来てないってわけじゃないのか」


「そうなんです.......正直、私も何でそうなってるのか、だから迷惑かけちゃうと思い————」


「ん? 、今」


「————へっ?」



 思いがけない指摘に、エイラは間抜けな声を上げた。



「い、いえ、嘘なんて、何も.......」


「いや俺分かるんだよ、嘘言われると」


「..............」


「それで? 今の言葉が嘘って事は、原因は分かってるって事だよな? じゃあ何で対処しないんだよ。それとも、何か別の事情があるのか?」


「い、いえ、そのぉ......」



 何と言い訳すべきか、とエイラは汗を流す。当然だろう、彼女は自身の暴発癖の原因が分かり切っていながら、


 だが彼女は————自身の悪癖が治せないものである理解していながらも、どうにか自分自身に言い聞かせる。


 このままではダメだ、言い訳なんてしてはならない、と。いい加減自分の悪癖と向き合い、このパーティでは、しっかりと役に立てるように努力すべきだ、と。



「実は、私は、その......!」



 意を決したエイラが、何かを言いかけたその時。



「お待たせいたしましたっ!!」



 ......馬鹿みたい声を上げながら、ビッグショットが扉を開け放って現れた。



「......オッサン、最悪なタイミングで入ってきやがったな」


「はひっ!? 吾輩しましたか?!」


「あ、あの、雷太さん......」



 一世一代の告白をしようとしていたエイラが、アタフタと雷太に声をかける。そんな彼女の様子を見た雷太は、その尖り散らかした髪型とはかけ離れた優しい笑顔で、



「まぁエイラ、また別の機会でいい。てかお前————本当は言いたくなかっただろ?」


「っ!」


「へっ、分かりやすいなぁ。って事で、お前が言いたくなったらでいいよ。どうせこの先、長い付き合いになるんだからな」



 意外と優しいんだな、とエイラが少し驚いていると、ヌンッと横から顔を出したビッグショットと————彼について来たのであろうリメイロットと有華が、にまにまして話し始める。



「おやおや、秘密の会話ですかぁ? 妬けますねぇっ!」


「あらぁ~、いやらしいねぇ」


「雷太。やらしい」


「うっせぇボケ共」



 やいのやいのと周りから煽られる雷太を、数歩後ろから眺めるエイラ。そんな彼女に向かってビッグショットが口を開いた。



「そういえばエイラさん。国からの依頼、取ってきましたよっ」


「も、もうですか?」


「昨日の今日なのに、随分と仕事が早いじゃねぇか」



 他メンバー二人を軽くあしらいながら、呆れた口調で言う雷太。そんな彼の言葉に頷きながら、ビッグショットは話を続ける。



「今回の依頼は、報酬もしっかりとしたものです。この依頼さえ完遂すれば、この古ぼけた拠点を修繕する事も可能でしょう!」


「おおっ、中々気合入ってんな。で、どんな依頼なんだよ」



 雷太の問いにビッグショットは......稀代の夢追い人は、待ってましたと言わんばかりに、高らかに答えた。



「今回の任務は————生物型魔力災害、『天使』の討伐です!」

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