第4話 騙された!
「き、金欠?」
「そう、金欠です。というかお金があったら、こんな床と壁と天井しかない建物を拠点になんかしませんからねぇ!」
「じゃ、じゃあ国家パーティって話は嘘だったんですか?!」
ビッグショットの発言に戸惑うエイラ。慌てふためく彼女に、雷太が肩を叩きながら、
「まぁまぁ落ち着けって。うちが国家パーティってのは嘘じゃない」
「え? でも、国家パーティが金欠なんて......」
「おかしいよなぁ、俺もそう思う。おいオッサン、新米に丁寧にじっくりと説明してやれよ。我らがリーダーの愚行を、な」
雷太の言葉にビッグショットはうんうんと頷きながら、その悪人面の中央下に居座る大きな口を開く。
「エイラさん、実はこの吾輩......夢追い人でして」
「は、はい?」
「まぁ端的に言えば......金が稼げる楽な仕事ではなく、超高難易度かつ超危険な依頼に————そそられてしまうんです!」
全く何がそんなに嬉しいのか、
「じゃ、じゃあ、本来ならお金を稼げる仕事も出来るのに、わざわざ高難易度で報酬も低い依頼を受けているから金欠、って事ですか?!」
「まぁ、そうなりますね」
平然と頷くビッグショット。そんな彼を指差しながらエイラは言う。
「そ、そんなふざけたパーティには入れませんよ! 何でわざわざ危険な任務に行くんですか?! そんなの、何の意味も無いじゃないですか!」
「おやおや? 何をおっしゃいますかエイラさん」
パーティの報酬を生活費に充てる冒険者としての当然の指摘。そんな彼女の指摘に、ビッグショットは————先程までのニンマリとした怪しい笑顔でも、喜びを誇示する作り笑いでもない、心の底から楽しそうな小さな笑みを浮かべて、こう返答した。
「貴方になら、分かるでしょう?」
その言葉にエイラは目を見開き、すぐに————顔を逸らして黙った。まるで、自分の包み隠してきた嘘がバレてしまった子供の様に、どうしようもないほど照れ臭そうに、その口を閉ざした。
そんな彼女の様子に満足げに頷きながらリーダーは笑う。
「まぁ、資金繰りもそろそろ危うくなってきましたからねぇ。次の依頼はまともなものを受けましょうか。それなら大丈夫ですか、エイラさん」
「............は、はい」
エイラは、ぶっきらぼうにそう答えた。
「それじゃあ吾輩は今から依頼を取って来ますので、皆さんはお帰りください!! 明日、またこの場所に集まってくださいね!!」
「はぁ~疲れた疲れた。そんじゃあエイラ、これからよろしくな」
「よろしくねぇ~」
「くね」
リーダーの言葉に、古ぼけた屋敷(壁、床、天井のみ)から続々と出ていく個性豊かなメンバー達。
同じタイミングで出て行っても話す事が無さそうだったので、そんな彼らを後ろから見送った後、重い足取りでエイラも屋敷を後にした。
◇ ◇ ◇
「はぁ~~~~~~~」
「二日連続来店とは、かなり疲れてるねぇ」
ノブレスローグのアジトを出た足取りで、エイラは昨日に引き続きユーランの酒場を訪れていた。
ジョッキに入ったブドウジュースを眺めながら、エイラは溜息混じりの悪態を吐き出す。
「国家パーティなのに金欠って何? 危険な依頼しか受けないからお金が無いって何? あんな人が勇者なんて信じられない......」
落ち込んだ彼女を見るのは何回目だろうか、とクスッと笑いながら、ユーランはいつもの気怠い口調で語る。
「でもパーティには入れたんでしょ? 拠点を持ってるなんて、随分豪華じゃん。しかも、アンタの暴発癖を知ってて入れてくれるなんて、そんな物好きな人、他にいないでしょ~」
「そんなの分かってるってば! くそぉ、こんな日は飲まなきゃやってらんないよぉ!!」
「じゃあブドウジュースじゃなくてワイン飲む?」
「いらない、苦いもん」
「ガキだねぇ」
いつもの彼女の様子を、煙草をくわえながら眺めるユーラン。そんな彼女がふと、エイラに質問をする。
「そういえば......国家パーティなのに、変な依頼ばっかり受けてるせいでお金が無い、だったよね?」
「うん、そうだけど......」
「だったらさ、何で国家パーティになったんだろ?」
「えっ?」
「いや、だってさ。国家パーティと言えば安全な仕事するだけのくせに高給取りな奴らでしょ?」
「ま、まぁ......」
言い方に悪意はあるが、ユーランが言っている事は正しい。
今まで多くの魔獣や犯罪者の対処に当たってきたSランクやAランクのパーティが、国家パーティになった途端に、国王の護衛やら貴族領地の中に発生した弱い魔獣を狩る仕事に使われてまうのだ。国内外からも、国家が強力な戦力を保持したいだけでは、と非難の声が多い。
「でさ。国家パーティになるのって確か断れたはずだよね? 一般のパーティと違って国からの依頼を強制的にやらされる時もあるのに、高難易度の依頼を受けたいだけの人が何で国家の犬になったのかな~って思って」
「......た、確かに」
思い出してみれば結構変な事言ってたな、と急に不安がるエイラ。そんな彼女にユーランは再び質問を投げかける。
「リーダーの勇者はどういう人だったの?」
「う~ん、おかしな人っていうか怪しい人、なんだけど......」
「なんだけど?」
ユーランの問いかけにエイラは、自分でもよく分からないまま、思った通りの印象を口に出す事に決めた。
「言ってる事とか体の動きが、全部演技な気もするし、全部本心な気もするんだよね」
「......どゆこと~?」
「いや、イメージの話ね? 正直私も、ビッグショットさんと喋ったのはほんのちょっとだったから————」
「ん? ちょっと待って、今ビッグショットって言った? それって、ビッグショット・エンバーレインの事?」
エイラの言葉を遮り、ユーランは目を見開いて問い詰めた。
「そ、そうだけど......知ってるの?」
「いや知ってるも何も、超有名人じゃん」
「えぇ? 記憶に無いなぁ」
「何でよ~。私達が魔法学校にいた時期に、物凄い活躍してたSランクパーティのリーダーだよ。ほら、アルガン峡谷の主を討伐したやつ。今はもう解散しちゃったけど」
「アルガン峡谷か。確かにそれは覚えてるけど......討伐したパーティは知らなかったなぁ」
「相変わらず魔法以外には興味無いわねアンタ......まぁ何にせよ、かなりの実力者だよ。何で変なパーティを作ったのかは知らないけど、結構ラッキーなんじゃない?」
「そう、なのかなぁ......?」
イマイチ納得いかない様子でぼやいていると、ユーランが時計を見て声を上げた。
「あっ、そろそろお客さん来る時間だよ。ど~するエイラ?」
「う~ん、今日はもう帰ろっかな」
「そっか。グレープジュースは無職脱脚祝いって事でいいよ」
「ありがとう、またねユーラン」
「頑張んなよ~」
店を出たエイラは、ユーランが語るビッグショットと、自分が出会った怪しい詐欺師との乖離に首を傾げながら、夜の街を歩いて行った。
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