8

 その告白を聞いた時。

 シルファは、恥ずかしさのあまり、顔を朱に染めてしまった。

『だから、人の目があるところで、睦み合うなって、言ってんのよっっ!』

 そんなセアドの言葉は、少し離れた場所にいたシルフィ達にも聞こえたらしく、シルフィと同じ場所にいた若い男は、頭を抱えていた。

 しかし、そんな中でもレンとジャスは冷静で、『続きは、後にしてください。あせらなくても、できる暇はたくさんあるんですから』とレンが言い、ジャスも苦笑を浮かべたまま、『じゃあ、帰る準備をしますかな』と言って立ち上がり、帰る準備を始めてしまった。

 結局のところ。

 自分達の関係は、あっさりと知られてしまったのである。

 それに、セアドの方も隠そうとは思っていないようだった。

 帰りは、セアドはレンが操る馬に乗せて帰ったのだが、『俺はシルファと乗りたいんだが』と、堂々と言い、レンに『足のケガが治ってからにしてください』と言われてしまっていた。(シルファは、シルフィと一緒の馬に乗った。意識がまだ「解放」されている状態のシルフィと一緒に乗ることができるのは、シルファだけなので)

 そうして今。

 何故か、彼はシルファ達が暮らす住居にいるのである。

 セアドが倒れていた場所は、湖畔の部族の集落からは離れていて、シルファ達の集落の方が少しだけ近かったのだ。

 だからと言うわけではないが、『セアドを、預かってもらえませんか?』と、レンに言われてしまったのだ。シルファとしては、このまま湖畔の部族の集落に戻るものだと思っていたので、その申し出には、目を見張ってしまった。

『おそらく、この後しばらくは落ち着きませんので。セアドも、その方がよろしいようですし』

 そう言われて、シルファは、自分の前に馬に乗っているシルフィの後ろ姿を見たが、

『いいんじゃない、それで』

 と、シルフィは振り返りながらそう言った。

『私も、そうしてもらった方が都合がいいし』

 シルフィはシルフィで、ラルダとじっくり話す機会が欲しかったのかもしれなかった。

 結局、住居まで馬で乗せてもらい、自分とセアドを降ろした後は、彼らはまた湖畔の部族の集落へと戻って行った。

『スレイとヤヌスも待っているし、多分、もうこの陽の高さじゃ、今日は泊まることになるって、ミルとレダとマイに伝えてね』

 と、シルフィは言った。

 ちなみに、マイとは、スレイの妻の名である。

 狩りについての話し合いはどうなるのだろうとも思ったが、『まあ、仕切りなおしです。とりあえず、日を改めて、ということになるでしょう』と、レンは言っていた。

 だが、こうやって後のことを色々考えるのも、結局、セアドがこうして無事でいてくれたからなのだ。

 あのまま彼を失っていれば、今頃自分はどうなっていたのかわからない。

 セアドは、シルファ達の住居に運び込まれた後、すぐに眠ってしまったので、シルファはその間に、シルフィに頼まれた通り、ミルとレダとマイに、それぞれヤヌス達が湖畔の部族の集落に泊まることを知らせた。

 湖畔の部族の集落に泊まることには、皆驚いていたが、

『こうやって、少しずつ、こういうことが増えていくのかもしれないわね』

 と、ミルが感慨深げにそう言っていたのが、シルファには印象的だった。

 ミルの言う通り、これからは、互いの集落に行き来することも増えるのかもしれない。

 それぞれの抱えていることも、互いの部族の者達が抱く感情も、確かに問題はある。

 だが、シルファ達の母は、他の部族の者である父に嫁いできた。

 その縁で、自分とセアドは知り合った。

 同じように、これから先交流を重ねていくことで、互いの部族同士の縁も深まり、新しい関係も生まれてくるのかもしれない。

 もちろん、自分達が『神の加護を受けた者』として見られることへ感じる、苦痛が消えたわけではない。

 むしろ、湖畔の部族の者達も、今後はそんな風に自分とシルフィを見てくるだろう。

 セアドを助けるためとは言え、自分も、そしてシルフィも、その湖畔の部族の集落で、完全に力を解放して使っていたのだ。

 だけど。

 そう、だけど。

 自分の住居の入口にかけられた敷布を捲りながら、シルファは思った。

 それでも、この男を失うことに比べたら、その苦痛はいかほどのものか、と。

 住居の中に入ると、セアドが枯れ草を敷き詰めた寝床で眠っていた。

 ルフに乗っていた時は意識がしっかりしていた彼も、ここに運び込まれたとたん、眠ってしまった。

 足を支えている部分の骨を折っているのだ。

 しばらくは、休息が必要だろう。

 ケガをすると、体が悪いものを滅っするために、熱が出る。

 休息が一番良い治療法だった。

 本当に、この男が倒れているのを見た時は、息が止まるかと思った。

 混乱して、何をするべきなのかもわからなかった。

 ただ、幸運にも、シルフィと「話す」ことができて。

 その時に、シルフィに落ち着いて自分にできることをしなければと諭され、正気を取り戻すことができたのだ。

 そうして、すぐにセアドのケガの具合を確認した。

 結局足の骨が折れていることがわかり、すぐに手当てをした。

 石と共に落ちてきたらしい木の枝を手早く折り、自分の膝に巻いたつるで、骨が折れている部分に巻き付けた。

 ただ、安全な場所への移動はできなかった。

 セアドの意識が戻らない以上、それはかえって危ないと思ったのだ。

 だからシルファは、落ちていた石を、セアドの周りに積み上げて、できるだけ体を隠せるようにした。

 ここまで連れて来てくれたジュジュにも礼を言うと、「お前はもうお行き」と言ったが、ジュジュは行こうとせず、それどころか、自分の子どもとセアドを隠すように立ち、そこから動こうとしなかった。

 シルファを助けようとする気持ちが、ジュジュにはあったのかもしれない。

 そんなジュジュの気持ちが、シルファはうれしかった。

 でもそのおかげで、少しの間、シルファは風と意識を「同化」させて、自分達がいる場所の位置を確認することができたのだ。

 それは、危険な行為でもあった。

 もしかしたら、その間に、動物達が襲ってくる心配もあったのだ。

 しかし、日頃陽の位置や動きを見ていたことも幸いし、その時以外に自分の体を離れることもなく、その後はセアドの傍にいながら、シルフィ達を案内することもできた。

 もちろん、シルフィの並はずれたカンの良さも幸いした。

 本当にいろんな幸運が重なって―セアドを、無事に連れて帰ることができたのだ。

 眠っているセアドの傍に行き、シルファはそのことを実感した。

 その幸運の一つでもなかったら、セアドは今、ここにはいなかったかもしれないのだ。

 そっとセアドへ手を伸ばし、額の上に手を置く。

 熱はないようだった。

「ありがとうございます」

 誰ともなく、シルファはそう呟やいた。

 それは、自分が祈る神であったり、自分達に加護を与えた風の神であったりした。

 そうして、もしかしたら力を貸してくれたかもしれない、父達にも。

「おかげで、僕は愛する者を失わずにすみました」

 と、その時だった。 

 額に置いた手が、握られた。見ると、セアドの黄金色の瞳が、こちらを見ていた。

「セアド……いつから目が覚めて……」

「さっきだ」

 シルファの掴んだ手を自分の口元に持っていきながら、セアドは言った。

 そうして、シルファの手に口付けを落とす。

「さっきの言葉を、もう一度言ってくれ」

 かあっと、顔が朱色に染まったことがわかった。

「シルファ」

 促すように、名を呼ばれる。

 だけど、シルファは恥ずかしくて、言うことができなかった。

 顔を上げることすら、できない。

 そうこうしているうちに、セアドがシルファの手を握ったまま、上半身を起こした。

「セアド!」

 あわてて止めようとしたが、逆にぐいっと手を引かれ、抱き寄せられてしまった。

「愛しているよ」

 そうして、耳元に囁かれる。

 シルフィ達の前でも、そう言われた。

 恥ずかしかったけれど、うれしかった。

「ずっと昔から。お前だけを、愛している」

 囁かれる言葉が、とても愛おしい。

 だから。

 シルファはセアドの口元に手を添えて、自分から口付けをする。

 恥ずかしくて言葉にはできないけれど、そうすることで、自分の思いを伝えたいと思ったのだ。

 セアドは最初こそ驚いていたが、すぐに舌を絡ませきた。

「んっ、ん、ん……」

 舌を絡ませられたシルファは、セアドに何とか応えようとするが、しばらくすると、頭がぼんやりとしてきた。

「ん……んっんっ!」

 それでも、何とか深くなってくる口付けに、応えようと必死で、舌を動かし続けた。

 だから、シルファは、男のふらちな手が、自分を刺激し始めるのを、直前まで気付くことができなかった。

「!?」

 その刺激に、一瞬目を見開いたシルファは、だが次の瞬間、セアドが絡めてきた舌の動きに、感じて目を閉じる。

「んっ、んっ、んっ……!」

 上の刺激と下の刺激がそれぞれに与えられて、シルファは、何もかもわからなくなりそうだった。

 だがそれでも、セアドのケガのことを忘れるわけにはいかなかった。

「セ、セアド……」

 唇が離れた隙に、もうこれ以上はと、止めようとしてシルファはセアドの名を呼んだ。

 だがもちろん、男の方にそんな気はなかった。

 一度火がついた欲望は、途中で止められるとよけいに燃え上がることを、シルファは未だに気付いていない。

 素直に流された方が実は楽なのに、そうしないから、さらにセアドの欲望は大きくなり、泣かされてしまう羽目になるのだ。

「ああんっ!」

 案の定、ゆるやかにシルファ自身を刺激していたセアドの手が、性急なものへと変わった。

「あっ、あっ、あああ……!」

「いいかげんに、わかれ」

 そして、熱っぽい声が、耳元に囁かれる。

「焦らされると、男はよけいに煽られるものだ」

「あああっ……!」

 性急な動きは、瞬く間にシルファを追い上げていく。

「あ、や、やぁ!」

 だが、シルファはもうそこだけの快感で、満足できない体になっていた。

 もっと、強烈な刺激を知っている体は、それ以上のものを求めてくる。

 そう。

 この体を圧倒的に支配し、そして己すらもわからなくなるもの。

「欲しいか?」

 喘ぐしかないシルファに、セアドはそう囁いてきた。

「ここに」

 そうして、衣の裾をめくり、シルファの後ろの部分に、男の指が触れてくる。

「あっ」

 体が、ぴくりと動くのがわかった。

「俺の体をまたいで、後ろを向け」 

 そうして、男はとんでもないことを言ってきた。

「なっ……」

 顔を朱に染め、シルファは首を振った。

「欲しくないのか?」

 その言葉にも、シルファは首を振った。

 確かに、体は強い刺激を求めている。 

 だが、そんな恥ずかしいことなど、できない。

 できるはずがなかった。

「そうか」

「やああんっ」

 とたんに、男はすっかり立ち上がったシルファ自身の根元を、強く握りしめてくる。

「じゃあ、そうするようにするまでだ」

 そして、もう片方の手で、シルファの腰に巻かれたつるを外した。

 そのまま、そのつるをシルファ自身の根元に括りつけてしまう。

「なっ……」

 驚いて目を見張る間もなく、着ていた衣を脱がされてしまう。

 そうしてそのまま、シルファは唇を重ねられた。

「んっ、んんん……!」

 さっきとは違う、荒々しい口付けに、シルファの意識はとたんにさらわれてしまう。

 だが、もちろんセアドはそれで終わらせるつもりはなかった。

 衣を脱がされて、むき出しになったシルファの胸の飾りに、手を伸ばす。

「んんんっ!」

 そうして、のまま、強く飾りを押しながらもみ始めた。

「ああっ……ああああ!」

 唇が離れ、シルファが喘ぐ。

 だが、すぐさまセアドはその唇を追いかけ、塞いだ。

「ん、ん、んんんん……!」

 舌を絡ませられて、胸の飾りをもまれたシルファは、たまったものではない。

 すっかり立ち上がったシルファ自身は解放を望んでいるのに、根元を縛られているからそれができない。

 それなのに、敏感な部分を幾つも刺激されて、熱は膨張し、勢いを増していく。

 もうシルファは、その熱を解放することしか考えられなかった。

「あ、ああっ、セ、セアド……!」

 夢中になって男の名を呼ぶと、

「俺が欲しいか?」

 そう、囁かれた。

 もう、意識がほとんどないシルファは、ただ頷くしかない。

「じゃあ、ちゃんと俺に後ろを向けて、そこを見えるようにしてみろ」

 意味がわからず、呆然としていると、セアドがシルファの手を導き、自分の足の横に置かせた。

「ここに手を置いて、俺の体をはさむようにして後ろを見せるんだ」

 その後ろはここだ、と言うように指で後蕾を触れられた。

「あ……」

 ぞくりと、背筋に振えを感じた。

 男の導くままに、シルファは男のケガをして動かぬ足の外側にそれぞれ両手を付き、自分の足は、彼の体を挟むようにして広げてみせる。

 普段のシルファだったら、そんなことはとてもできなかっただろう。

 だが今は、とにかく体にある熱を解放したくてしたくて、たまらなかった。

 ちょうど目の前に来たシルファの後蕾に、セアドは顔を近づけた。

「ああんっ」

 そのまま、舌で後蕾がなぶられる。

 最初は、入口をピチャピチャと舐められて、次に舌が先を尖らせて内側に入ってくる。

「あっ、あっ、あああ!」

 唾液が内側に入り、柔らかくしていく。

 内に入り込んでくる指が、さらにそれをもみほぐすように動く。

 手が、がくがくと動き、体を支えることができなくなる。

「セアド、セアド、お願い……!」

 助けを求めるように、男の名を呼ぶ。

 ピチャリという音がして、舌がそこから離れたと思ったとたん、ぐいっと腰をひっぱられて、シルファはセアドの膝の上に座り込む形となった。

「ああああっ!」

 そのまま、またしてもシルファは胸の飾りをどちらも弄られて、声を上げた。

 本当に足をケガしているのかと疑ってしまうほど、セアドはシルファを巧みに追い詰めていく。

 膨張した根元に、つるが食い込む。

「もう、お願いっ、もう、もう……!」

 体中をのた打ち回る熱は、シルファを乱れさせ、そして苦しめる。

 早く、楽になりたかった。

 自分の腕の中で、涙声でねだるシルファを見つめ、セアドは微かに目を細めた。

「俺が欲しいか?」

 そうして、乱れるシルファの耳元に、そう囁やいてきた。

「あ、あ、あ!」

 その囁きに、シルファは喘ぎながらも頷く。

 セアドの両手が腰にかかり、そのまま、持ち上げるようにして、腰を浮かべさせられる。

「やあ、や、や、や、あ、ああん、あ、ああっ……!」

 そのまま、セアド自身が、性急にシルファの内側なかに入ってきた。

 シルファは、体の重みで深くセアド自身をくわえ込んでしまう。

 その性急さに、もがくシルファの顎をとらえ、セアドが唇を重ねる。

「ん、ん、あっ、んっん……!」

 くちゅくちゅと舌が絡み合う。と、その時だった。

 シルファ自身の、根元を縛っていたつるを、セアドが解いた。

「ん、ん、んっ、んんんん……!」

 とたんに、今まで貯まりにたまっていた熱が、勢い良く解放された。

「ああああ!」

 重ねていた唇が離れ、シルファは喘ぐ。

 だか、もちろんそれだけではすまなかった。

 未だに、熱を解放し続けるシルファの腰に手を添えると、男はシルファの腰を、そのまま左右に動かし始める。

「ああああっ……や、やめっ……やあああん……!」

 セアドの胸に体を預け、彼の与える快楽に酔わされて喘ぐシルファには、もう何がなんだかわからなかった。

 そんな自分を、本当に愛おしそうに、そして熱が篭った目で、男が見ていることに気付くのは、そんな淫靡な行為が終わった後のことだった。

 そうして、全ての行為が終わった後。

 意識が混濁して、呆然としているシルファの耳元に。男は、囁くのだ。

「愛している」と。

 それを夢見心地で聞きながら、ふと、思い出す。

「約束……」

「約束?」

「矢を……雲まで飛ばす……」

 だが、全てを言葉にすることはできなかった。

 意識が、眠りに落ちようとしていた。

「ケガが治ったら、」

 そんなシルファの耳元に、男がまた囁いた。

「飛ばしに行こう」

 それに頷きながら、シルファは、謝らなければ、と思った。

 だけど、それは目が覚めた時に言おうと思い、今一番自分の伝えたい言葉を、口にした。

「愛している」と。

 セアドに聞えたかどうかはわからなかったが、眠りに付く直前、自分を抱く男の腕の力が、強くなったような気がした。

 


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