クリスタルノ恋人タチ

一

渡辺葵は手元の手紙の内容を静かに読み上げた。

この手紙は、彼女が玄関のドアのそばで偶然見つけたもので、最近配達されたばかりのようだった。それは、一番上にあった。もし彼女が今夜ふと目に留めなかったら、この手紙はその中に埋もれてしまっていただろう。

封筒に書かれた字は非常にきれいだった。差出人の名前や住所は書かれていなかったが、彼女の名前が記されていたので、彼女はそれを自分の部屋に持ち込み、机の前で封を開けた。

彼女は手紙の冒頭の名前を読み上げた後、大まかに目を通したところ、内容はそれほど多くないことがわかった。

「あの夜の後、私は非常に苦しい思いをしました。時々、夜になると思い悩んで眠れません。私はあなたに言いたいことがあるように思います…」

彼女はここまで読み進めると、眉をひそめた。この手紙の内容に彼女は困惑した。少し考えてみたが、結局答えが見つからず、彼女はさらに読み進めた。

「私は多分生まれつき冷淡な性格だから、慎み深く振る舞い、友達もほとんどできなかった。でもあなたに出会った後、私は言いたいことがたくさんあるような気がしました…しかし、私はこのような感情を嫌っているのです。」彼女が読み進めると、手紙の紙面が消しゴムで擦り取られていた。「多分以前の私が無意識にそうして、私を孤立させ、人と話すことを避けてしまったのだと思います。あなたと会ったあの夜、私は何も言えませんでした。緊張していて…自分の心臓の鼓動しか聞こえませんでした。血液が速く循環し始め、全身が熱くなり、呼吸がうまくできませんでした。」

ここで彼女は、手紙の差出人が数日前に父を家まで送ってくれた人であることに気づいた。

「もしあの時もっと勇気があったなら、状況は変わっていたかもしれません…もしかしたら、いろいろな理由を見つけてあなたと多くのことを一緒にしたかったのかもしれません。ただ、勇気がなかっただけです…もちろんこれは同情からではなく、ただ単に友達が欲しかっただけです。」

「でも今、私はあなたに会う勇気が全くありません…封筒に私の住所を書いていないのは、拒絶の意味を持つ手紙が届くのを恐れているからです…また、封筒には千円が入っています。」

彼女は最後の差出人、藤井皋月の名前を読み終えると、一度脇に置いた封筒を手に取った。

封筒の中には確かに千円札が入っていたが、彼女はそれを使うつもりはなかった。

「ふぅ…私は何を言えばいいのだろう？」

渡辺葵はお札と手紙を一緒に封筒に戻し、それを机の一番下の引き出しにしまった。

封筒は本の山の下に押し込まれた。

彼女は少なくとも一度は彼に会って、この手紙とお札を返し、自分は彼を拒絶するつもりはないことを伝えようと考えた。

彼女は孤独な性格の人々を見たことがないわけではなく、彼らの気持ちも理解できる…そして、彼女も新しい始まりを望んでいた、たとえそれが彼女が望んでいた始まりではなかったとしても。

明日やるべきことを最後に確認した後、彼女は明かりを消して眠りについた。

昨夜は遅くまで起きていたため、朝は寒くても暖かい布団の中で少しでも長く眠っていたいと思ったが、設定したアラームが彼女に起きるように告げた。

時々、彼女は本当に休みを取りたいと思ったり、世界の終末が訪れることを無性に願ったりするが、最終的な結果はいつも外出することだ。

実際、一人で独立して生きなければならない人間に他に何ができるだろうか？

ここは、数列のコンピュータが並んでいるだけのオフィスで、各自が地獄にいるような忙しさで仕事をしている。

渡辺葵はここで一日中過ごし、カスタマーサービスの仕事をこなさなければならない。大多数の顧客は普通の人々だが、時には嫌われ、罵られることも避けられない。

まあ、サービス業だから仕方がない…慣れてしまえば大したことはないだろう。でも、それ自体が重要ではないのかもしれない。

鉛筆が絶えず動いている。

たとえ短い休憩の間でも、渡辺葵は何をすべきか分からず、鉛筆を手に白い紙に無目的に線を引いていた。

結局、言ってしまえばその短い休憩もほんの一瞬に過ぎないのだ。

時には、彼女自身もなぜここに座っているのか分からなくなる…ただマニュアルに書かれた内容を答えるためだけに？それとも、他人の感情をぶつけられるためだけに？

でも、それももしかしたら大したことではないのかもしれない。

彼女は、ここでは高校生のアルバイトも許されており、時給も低くないため、なんとかお金を稼ぐことができた。

「…自分はなぜこんなことを考えているのだろう？」

渡辺葵はふと我に返った。彼女の手にはまだ鉛筆が握られていて、元々は真っ白だったノートのページが、無数の線で埋め尽くされていた。

彼女は、電話が鳴るのを聞き、慣れた調子で挨拶の言葉を述べた。

このお客さんがしている質問は、どうやら少し前にも聞かれたものだったようだ。

「少し前…一時間前？それとも数日前？数週間前？」

彼女は問いに応じた後、ふと思った。

「さっき私は何を考えていたんだろう？」

葵は窓の外に目を向けた。周囲の景色はすでに頭に焼き付いており、そこにはいくつかの店と、絶え間なく行き交う人々が見える。

この場所は繁華街とは言えず、彼女が朝このオフィスに向かう途中で見かけた歩行者はほとんどいなかったが、今は違っていた。通りには往来する人々が溢れていた。

彼女自身も、あと30分ほどで退勤する時間だ。

「退勤後、何をしようか？」

葵は、コンビニで安い弁当を買い、そのまま電車に乗って家に帰るつもりだった。

今の東京は、彼女にとって繁華すぎて見知らぬ場所のように感じ、そして不安を感じさせる都市となっていた。帰りの電車で窓の外を眺めると、地平線まで続く高層ビル群に目がくらむことがあった。ある瞬間、遠くに夜の闇に包まれたまま、なおも輝きを放つ東京タワーと、階層を重ねた高層ビル群が美しすぎて息をのむほどだった。

もしも以前なら、今頃は彼女たちとレストランで夕食を終え、大通りを歩きながら映画を見る計画を立てたり、カラオケで何曲か歌ったりしていたかもしれない。

彼女は灯に勇気を出して皆の前で歌うよう励ましただろう。そしてマイクが一巡して彼女の手に渡ってくる…。

彼女は額を窓ガラスに押し付け、ほてった額を少しでも冷やそうとした。吐き出す息でガラスが薄く曇った。

彼女は指を伸ばし、その曇ったガラスに何かを書こうとしたが、ふと、そんな幼稚なことをしてはいけないと思い直し、手を下ろした。

家の前にたどり着くと、部屋から漂ってくるかすかなカビ臭さが鼻をついた…。ここに引っ越してきた当初はこんなことはなかった。あの頃は、彼女は新しい生活に少しでも希望を抱いていたのだ。

この家は父が以前に買ったもので、さほど高くはなかったが、それでも彼女にとって唯一の救いだったのは、少なくとも父がこの家を売っていなかったことだ。

彼女は家に入り、周囲を見回した。すでに馴染んできた物たちが目に映った。数ヶ月前には、彼女は毎週家の掃除をしていたが、今ではそれもしなくなり、いつの間にか酒瓶が積み重なっていることにも気づかない。

玄関の正面の壁には、掛けられたカレンダーがあった。それには数本の花が水彩で描かれていた。これは父が以前勤めていた会社から贈られたもので、彼がその会社を辞めて以来、カレンダーの日付はその月のまま止まっていた。

彼女が父に「いつ仕事に行くの？」と尋ねるたびに、父はまず沈黙し、それから酒を飲みながら無造作に「もうすべてが終わったんだ」と答えた。

本当に終わってしまったのだろうか？明らかに彼女の人生はまだ始まったばかりなのに…。

その後、彼女は父に何も尋ねなくなり、代わりにアルバイトを見つけ、かろうじて自分の生活を維持していた。

「この家を売って、それから賃貸のアパートに引っ越そうと思うんだ。」

これが、父が今日彼女に話した最初の言葉だった。

彼女は理解していた。もし父がそう決めたなら、自分にはそれを止めることはできない。だが、止めなければ、今のこのかろうじて成り立っている生活を続けることができるのだろうか？

それで彼女は尋ねた。「じゃあ、仕事を始めるつもりなの？」

父は何も言わず、ただ首を振った。

「じゃあ、これからどうやって生きていくつもりなの？」

「葵…最後の一歩を踏み出して、…いいや、君にはたくさんの金をあげるよ…」

「たくさんの金？」

「そうだ、家を売ったお金の半分を君にあげる。」

父はそう言うと、もう彼女を見ることなく、酒を飲み続けた。

彼女は目を閉じ、何を考えるべきかもわからなかった。しばらくして、彼女は微かに湿った目を開き、息を吐いて父に言った。「もしそれをするつもりなら、私は止めない。止められない。」

「私が君を無理やりそうさせていると言いたいのか？金はあげると言っただろう？」

「うん。」

彼女はそれ以上何も言わず、ただそう答えると、自分の部屋に戻った。

彼女は自分の机の前に座り、長い間考え続けた。翌日にはまた仕事があるので、眠らなければならないことに気づくまで。

だが、仕事に行く意味があるのだろうか？

父は言った。家を売り、そして彼女にお金を渡すと…。お金の額はまだ不確定だが、それでもすべてに明確な終わりが見えているではないか？

そんな大金をどうやって彼女が背負っていくのだろう…

彼女は苦笑し、それから灯りを消して眠りについた。少なくとも今は、どんなに考えたところで、明日の生活に備えて体力を回復しなければならない。

彼女は、自分があと少し早く生まれていたなら、今頃は自分の生活を支えられていただろうかと、そんなことを恨んだ。

「お金、お金、お金！」

彼女はこの家を支え、自分自身を維持するために懸命に働いてきた。これは厳しい生活だったが、もしかしたら父の言う通り、彼女は今すぐにでもその生活を手放そうとしているのかもしれない。

いつかニュースで、この生活の最後の結末が報じられるかもしれない。その時、彼女たちは自分をどう見るのだろうか？憐れみや同情を抱くのか、それともその生活を軽蔑するのか？

彼女の時間はどんどん少なくなっていく。朝、彼女が家を出ると、自分の名前が書かれた小さな箱が玄関に置かれているのに気づいた。それは、水性ペンで書かれた名前で、その下には手紙が添えられていた。封筒の表面には彼女の名前が書かれていたが、切手は貼られておらず、封筒の裏側にはもう埃が付いていた。

彼女はそれを開ける時間がなかった。電車の出発が迫っていて、家から駅までは近くないからだ。だから、それを自分のバッグにしまった。

そして、結局、電車には間に合わなかった。ほんの少しだけ、ほんの一、二分早ければ、間に合っていたはずだった…。

だが、もうどうしようもない。昨夜もっと早く寝るべきだったのか、それとも今朝玄関に置かれた荷物のせいにするべきなのか？

今となっては…下車する電車は遅くないが、遅刻するのは明らかだった。

もういいか…

彼女の心にはある考えが浮かんだ。

そうだよね…父親が最後の家さえも諦めたのに、私に何ができるというのか？

そう考えながら、彼女は思わず笑みを浮かべた。これは久しぶりの笑顔だった。

彼女は携帯を取り出し、上司に体調が悪いので今日の約束をキャンセルしたいと伝えた。

それまで、彼女は一度も欠勤したことがなかったので、上司も特に疑わず、ただしっかり休むようにと言った。

「そうだね、しっかり休まなきゃ。」

彼女は駅を出て、青空を見上げ、また笑った。

彼女はもうお腹が空いていた。時間を節約するため、朝食は普段摂らず、昼食も同様だ。今では夕食だけで一日の量を一気に食べるのが習慣となっていた。

本来はそれほど空腹を感じることはなかったが、いざ暇になると、むしろお腹が空いていることに気づき、何かを食べたくなった。

彼女はぼんやりと電車の駅の周りを歩き回った。ここには何度も来ているが、それでもまだこの場所について何も知らないような気がした。彼女は道行く様々な人々を観察し、まるでオフィスビルの上から窓の外を見ているかのようだった。彼女の目には憂鬱な表情が浮かんでいた。

彼女は額に微かな痛みを感じ、喉が乾燥して、鉄の味がした。

今後の時間をどう過ごすべきか、彼女は途方に暮れていた。彼女はすでに過去の生活から切り離されており、どうやって楽しむべきか思いつかず、ただ通りをぐるぐると回るばかりだった。