私と彼は合わせて4

助六

第1話

カリカリザザザ(何かを書き、何かを擦る音) 子の刻。ある一室にて。




 永遠続くと思ってた日々。私と彼はずっと一緒だった。互いに寄り添い支え合ってきたからかもしれない。なんと言ったって私と彼には共通点があった。お互い守護霊を宿しているのか、自分が2人いるのか、そこは不明だが二重(にじゅう)見えるということ。自分1人(一重いちじゅう)なら何かあった時にマイナスな気分になるかもしれないが、二重なら不思議とマイナスでなくいられるんだ。周りの人からしたら不気味な私たちかもしれない。自分たちのこともよくわからない。ただこの世に存在しているということしか。でも、このおかげで秘密兵器を使える。

 ところで、2人集まった時によく使われる格言、「1プラス1を2ではなく3にしろ!」なんていうのをちょっと超えて私と彼が集まれば4となる。

 そんなある日、悲劇はおきた。私たちの住む世界にあいつが襲来した。あいつというのはゴッドだ。由来はよくわからない。この世界に言い伝えられている宿敵だ。そんな因縁の相手に私たちが先陣を切って戦う羽目に。「ゴッドってあの子たちの遺伝子を持っているんですって。特に男のほうをたくさん、。」ゴシップ好きそうなおばさんが言うのが微かに聞こえた。

 すると突然!「ゔぅ、俺はもうこれで終わりだ、、、、。あとはこれで頼んだぞ、、、」そう言いながら彼は消えていった。私ははっとした。これならあの強敵、通称ゴッドを倒せるかもしれない、と。彼は消えた。でも私たちは2人集まれば4となる。たとえ彼が消えても大事なものをこうやって残してくれた。ゴッドの弱点は頭のてっぺんと踵である。彼が残してくれたこれをこうやってこうすれば!!

 はっ!ゴッドの弱点をつき、倒すことができた。それと同時に自分が何者であるかわかった。でも彼はもういない。「、、、、、、」つらい。ずっと一緒だったのに。……「ゴッドってあの子たちの遺伝子を持っているんですって。特に彼のをたくさん、。」あのおばさんのセリフが頭をよぎった。もしかすると!これをこうやってこうすれば!「やぁ」聞き覚えのある、私を安心させる声。彼だ!あぁ、よかった。彼を復活させることができた。彼が何者なのかも全てわかった。

 一件落着。


―解説―

これは高校一年生で習う数学の問題の解き方の手順を物語にしたものである。


問題は

x,yを実数とする。x ^2+y^2=4を満たしている時、4x+2y^2の最大値と最小値、およびそのときのx,yの値を求めよ

である。


 「守護霊だとか自分が2人」というのは,私=x^2、 彼=y^2ということだ。

数学的に、(ある数)<0であっても、(ある数)^2>=0 だから私と彼はマイナスでないのだ。

 「この世に存在している」というのは、xとyが実数であるという条件を示している。

 格言を用いた「私と彼が集まれば4」というのはこの問題においての条件である。

 ゴッドの正体は4x+2y^2である。どこが宿敵なんだよと思うかもしれないが数学が苦手な人にとっては強敵であろう。そして弱点である「頭のてっぺん」が最大値、「踵」が最小値である。

 おばさんの噂の遺伝子の話は、ゴッドに私の一部であるxと彼であるy^2が含まれているということを示している。

 突然彼は消えたが、これは作戦の一つである。彼、つまりy^2が消えることでxの範囲が限定されるのである。条件の式より、x^2+y^2=4 より、y^2=4−x^2と変形でき、合わせて先ほど示したy^2>=0より、4−x^2>=0 よって−2=<x=<2とxの範囲も絞れるかつ、ゴッドの正体である4x+2y^2のy^2に4−x^2を代入し、ゴッドを−2x^2+4x+8と表せるのである。彼が消えることでここまで有利な状況に運べるのだ。彼が言った、「これで頼んだぞ」は、自分が消えることで得られる情報があることを見据えての発言だったのである。

 2人が0以上であること、足して4であることこそ2人の秘密兵器なのである。まあy^2>=0をどう活かすかがこの問題の肝である。

 そして得られた情報をもとに問題を改めて作成すると、−2=<x=<2の範囲でy=−2x^2+4x+8の最大値と最小値を求めよ。という典型的な二次関数の問題に持ち込めるのである。最大値、最小値それぞれを求めると、その時のxの値が求まる。そして、y^2=4−x^2のこの式より、xの値がわかればyも求まるという流れである。だからゴッドを倒した後に自分が何者が判明し、消えたはずの彼が戻ってきたのである。そして彼の正体もわかったのである。

以上

All complete


『はぁ、やっと終わった』と一息つく私。時計を見るともう午前2時28分。受験を控えた高校3年の夏。数学のノートとは思えないほど、ひらがなと漢字で埋まったノート。真っ黒になった右手の小指の下の側面。問題集をペラペラめくる。数I A、ⅡB、Cを合わせたらあと727題ある。果てしない。私の執筆活動は続く。

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私と彼は合わせて4 助六 @pafupi

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