エピローグ:新たな始まり
一年後、あの喫茶店「紫藤」。かつて蘭丸との運命的な出会いがあった場所に、再び主要人物たちが集っていた。
蒼鷹(そうよう)と萌葱(もえぎ)が静かに向かい合っている。蒼鷹の黒のテーラードスーツは、彼女の凛とした雰囲気を引き立てていた。胸元に覗くシルクのブラウスは、深みのある紫色で、かつての緊張感を思い出させる。足元には、イタリア製の本革パンプス。その踵には、まだ特殊な仕掛けが隠されているのかもしれない。
対して萌葱は、鮮やかな緑のワンピースに身を包んでいた。その生地は、最新のエコフレンドリー素材で作られており、彼女の環境への配慮を示している。首元には、以前はコミュニケーションデバイスだったチョーカーが、今では純粋なアクセサリーとして輝いていた。
「あれから、随分変わったわね」
萌葱の言葉に、蒼鷹は微笑む。その表情には、かつての緊張感は見られず、穏やかな幸福感が漂っていた。
店内には、新たな顔ぶれも見える。椿樹(つばき)と杏奈(きょうな)は別のテーブルで密談していた。椿樹の深紅のドレスは、かつての危険な雰囲気を残しつつも、どこか柔らかさを感じさせる。杏奈のレザージャケットは、以前よりも高級感を増し、内側には特殊装備の痕跡はもう見られない。
葵唯(あおい)は一人、窓際で外を眺めていた。彼女のスポーツウェアは、かつての栄光を取り戻したかのような輝きを放っている。その姿勢には、新たな決意と自信が満ちていた。
突如、ドアが開く音が響く。
現れたのは、誰もが予想だにしなかった人物だった。その姿を見た瞬間、店内の空気が凍りつく。全てを知る者の登場に、それぞれの表情が緊張を孕む。
その人物は、ゆっくりと口を開いた。
「新たなゲームの始まりよ」
その言葉と共に、物語は再び動き出す。かつての敵か味方か、もはや区別は意味をなさない。全ての登場人物たちの目に、新たな決意の色が宿る。
蒼鷹と萌葱は無言で見つめ合い、互いの手を強く握り締める。椿樹と杏奈は、一瞬の躊躇の後、立ち上がる。葵唯は、窓から身を離し、その場に集う仲間たちの輪に加わる。
喫茶店の外では、紫の夕暮れが東京の街を包み込んでいった。その色は、かつて蘭丸が身に纏っていた着物の色を思わせる。
新たなゲームの幕開けと共に、彼女たちの表情には複雑な感情が交錯していた。過去の痛み、現在の絆、そして未知の未来への期待と不安。
しかし、一つだけ確かなことがあった。彼女たちは、もう二度と誰かの駒にはならない。今度は、自らの意思で、自らの人生を切り開いていく。
夜の帳が降りる中、「紫藤」の扉が静かに閉まる。そして、新たな物語の一ページが、今まさに開かれようとしていた。
【百合クライム小説】紫藤の檻 ―裏切りの輪舞曲― 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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