番外編 魔法少女・崩壊童JK
番外編 魔法少女・崩壊童JK
「えええ~! なんで、なんで、なんでぇっ⁉」
小さき妖精は叫んだ。
自らが召喚した一八歳の少女を前にして。
「なんで、魔法少女を召喚したのに、オーガが来ちゃうのおっ⁉」
そう。小さき妖精の前にいたのは魁偉な、あまりにも魁偉な肉体をもつ一体のオーガ。
角は雄牛、牙はライオン、
それが、魔法少女として召喚された、鬼も一八、番茶も出花、花も恥じらう一八歳のオーガ族の少女。
その名を
ジロリ、と、
――食べられる!
と、恐怖にすくんだ。しかし――。
「我を召喚したのは、汝か? 小さき妖精よ」
そう尋ねる声は思いのほか優しく、穏やかなものだった。
その声にわずかに安心して、小さき妖精はうなずいた。
「え、ええ、そうなんだけど……」
なんでオーガが来ちゃうのおっ⁉
という絶対懐疑の叫びは、小さき妖精の口から外に出ることはなかった。
「事情を聞こうか」
「はい?」
「召喚したからには事情があろう。まずは、その点を聞かせてもらおう」
「あ、は、はい、実は……」
小さき妖精は事情を説明した。
「ふむ、なるほど。宇宙にあまねく広がる巨大なる悪の帝国、侵略帝国が地球侵略をもくろみ、前衛部隊を派遣してきたと。そやつらを倒すために我を魔法少女として召喚した。そういうことだな?」
「う、うん、そうなんだけど……」
――だから、なんでオーガが来ちゃったのおっ⁉
「承知した」
「はい?」
「魔法少女として呼ばれたからには、使命を果たす。いますぐ、そやつらの本拠地に乗り込む。案内せい」
「第一話からいきなり最終決戦~⁉ さすがに、それはお約束に反しすぎるというか……って言うかそもそも、まだ魔法少女としての契約してないから魔法、使えないし……」
「魔法など無用! この
「
「それは、魔法少女じゃな~い!」
悲しいことに――。
小さき妖精の叫び声を聞きとどけるものは、どこにもいなかった。
ホッ ホッ ホホホホホホホホ
好きよ、好きよ、その
呼べば、呼べば、表われる
大地を揺るがし、やってくる
どこから~
それは、百合の国~
どうして~
それは、乙女ゆえ~
風より
炎より熱い闘志
さあ、さあ、逆転~
ここから、男は通さない~
さあ、さあ、逆転~
ここから、乙女の花園~
ホホホホホホホホホ
『魔法少女、
分厚い扉を拳の一撃で粉砕し、
巨大な脚で頑丈きわまる床を踏みつぶし、
すべてを打ち砕きながら進む、進む、突き進む。
敵の攻撃すべてを胸板ひとつで跳ね返し、並みいる敵を殴りとばし、蹴りとばし、まさしく、無人の野を
あまりと言えばあまりな展開に、守備隊長は思わず叫ぶ。
「お、おま、おまおまおまお前なあっ! 月をも一撃で吹きとばす超スーパーグレートダイナミックストロンゲストマキシマム砲だぞ! なんで、大胸筋ひとつで跳ね返せるんだあっ⁉」
「たわけっ! 乙女の胸は神聖不可侵。
両腕を雄牛の角の形に掲げ、フロントダブルバイセップスを決めて豪語する。
「そういう問題かあっ⁉」
「問答無用! 婚約破棄流活殺術! 破棄の正拳!」
「ぐぎゃあああああ~!」
「逆襲なりあがり脚!」
「ふんぎゃあああああ~!」
「ざまぁ百連掌!」
「うげろげろお~!」
鳴りひびくは悲鳴。
そして、すべてが打ち砕かれる音。
通ってきた道すべてをペンペン草一本、生えない廃墟とかえて、
「も、もうやめてぇ~! いくらなんでもやり過ぎだってばあ~!」
「悪しきものに遠慮は無用! 正義の
「この調子でやられたら、地球そのものが壊れちゃうってばあ~!」
「打倒ゼッ○ンを目指して鍛えあげたこの力! まだまだぬるいわ!」
「なんで、異世界のオーガがゼッ○ン、知ってるのよおっ⁉」
「理屈など知らぬ! 聞かぬ! 通じぬ! ただ進み、押しつぶし、殺すのみ!」
「誰よお~、こんなの魔法少女として召喚したのはあ~⁉ あたしだったあ~!」
あたしのバカバカバカァ~!
と、自分の頭をポカポカ殴る小さき妖精だった。
その頃――。
前衛部隊を預かるヴィン・ボージ将軍のもとには、恐慌に駆られた部下たちからの報告が続々とよせられていた。
「だ、駄目です、将軍! あの化け物には、我が軍のいかなる科学兵器も通用しません!」
「防護壁もまったくの無意味! 邪魔するやつは指先ひとつでダウン状態です!」
「この司令室に乗り込んでこられるのも時間の問題! いかがいたしますか、将軍⁉」
「うろたえるな! この司令室を囲っているのは厚さ一メートルにも及ぶ超テッカテカクロムアダマンダスト鉱だ! 宇宙船の主砲さえ跳ね返す代物だぞ。いかな化け物でも侵入できるものではない。その間に本星に連絡をとり……」
ヴィン・ボージ将軍はそう叫んだ。しかし――。
「婚約破棄流活殺術! 絆崩し!」
厚さ一メートルの防護壁を貫いて届いたその声と共に、将軍自慢の超テッカテカクロムアダマンダスト鉱の扉は砂となって崩れ落ちた。そこから入ってくるのは身長二メートル八〇センチ、体重五ニ〇キロのオーガ……の、姿の魔法少女。
「先に、ノックをすべきだったかな」
「いいさ。おれとお前の仲だ……じゃなくて! お前なあっ! 宇宙船の主砲すら跳ね返す厚さ一メートルに及ぶ超テッカテカクロムアダマンダスト鉱の扉だぞ! なんで、素手で砕けるんだあっ⁉」
「これぞ、婚約破棄の力なり!」
「なんだ、それは⁉」
「そも、婚約破棄とはなにか。それは、人と人の絆を破壊し、孤立させる力。その力を拳に乗せて撃ち出すことで、森羅万象すべての分子結合を破砕し、万物を粉砕する。それこそが婚約破棄流活殺術なり!」
「おおっ! 言葉の意味はよくわからないが、とにかく凄い理論……じゃない! なんだ、なんなんだ、そのわけのわからない理屈は⁉」
「理屈など知らぬ! 聞かぬ! 通じぬ! 現実がここにある!」
その叫びと共に
「婚約破棄を武力にかえて! いま、必殺の! 逆転一発突きぃ~!」
「ぐぎゃああああ~!」
必殺の一撃を食らってヴィン・ボージ将軍は部下もろとも吹き飛ばされる。
あまりの威力に、そのまま宇宙の彼方まで吹き飛んでいく。
際限なく加速をつづけ、亜光速にまで達する。
それでもなお加速はやまない。
速く、速く、より速く。
限りなく光速に近づきつづけ、それはつまり、限りなく無限に近い重量物となりつづけ、吹き飛びつづける。ついには侵略帝国の本星に激突した。
想像を絶する重量の亜光速弾と化したヴィン・ボージ将軍に激突され、侵略帝国の本星はあえなく木っ端微塵。全宇宙を支配下に置こうとした悪の星間帝国はここに滅びた。
ありがとう、
宇宙が君を呼んでいる!
「婚約破棄は必ず勝つ!」
得意のフロントダブルバイセップスを決めてのその台詞。
「そういう問題かあ~!」
思わず叫ぶ、小さき妖精であった。
「……で、でも、とにかく、地球が侵略から救われたのはたしかだものね。ありがとう、お礼を言うわ、
ハアハア、と、肩で息をしながら小さき妖精はようやくそう言った。ネズミも住めない、限りない廃墟と化した侵略基地のさなかにて。
「うむ」
と、
「これで、我はおぬしの願いを叶えたわけだ。次は我の願いを叶えてもらいたい」
「願い?」
「ゼッ○ンと戦わせろ。それも、最新鋭の最強形態とだ!」
「え、えええ~⁉ そんなの無理よお~! ゼッ○ンなんていないんだからあっ~!」
「ごまかすでない! あれほど多くの、それも、多種多様なゼッ○ンが表われているこの星において、ただの一体もいないなどと言うことがあるものか!」
「だ、だって、あれはフィクションの存在で……」
「理屈など知らぬ! 聞かぬ! 通じぬ! 早くゼッ○ンと戦わせろ! さもなくば、すべてを破壊する!」
「うわああああ~ん! 誰よおっ~! こんなの、魔法少女として召喚したのはぁぁぁぁ~⁉」
完
血戦! ヒーロー令嬢vs婚約破棄!《第五話完結》 藍条森也 @1316826612
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。血戦! ヒーロー令嬢vs婚約破棄!《第五話完結》の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます