タナカナの、気持ち〜静かにして妄想してるだけの女では…

 私は薄い、色んな事が薄いんだと思う。

 何も短命とか身体が弱いとかじゃない。

 

 勿論、楽しいとか美味しいとか、悲しいとか悔しいとかはあるけれど、幅がとても少ないんだと思う。

 だから極端な事は駄目だった、目眩がする。


 子供の時はなるべく空気のように存在していた。


 私の人生は低く、揺れ幅が少なく、それでいてささやかな幸せを目標に生きる人生だ。

 この年で人生と言うと、子供が何言ってるんだと怒られそうだけど、まぁ実際に親からは怒られたけど…

 私に激しい人生は耐えられない気がする。

 自分の事だ、それぐらいの自覚はある。


 しかし、私の薄さに対して、幼馴染のケンくんはちょっと濃ゆい。

 少し強引だけど、でも、私にはちょうど良い。

 何故なら他の人と違う所、それは優しい所。


 クラスの男子は私を認識すると意味不明な悪戯や大声で何か言う、女子はコソコソ言ったり謎の説教をしたり。

 だけどケン君だけは私の嫌だろうなと思う事(実際は嫌な事もあるけど)はなるべくしないようにしてくれる。無理もさせない、その気持ちが嬉しい。


 私の生活の小さな揺れは、いつもケンくんが起こしてくれる。

 だから私はケン君がす…………いや、何でもない。

 ある日お母さんに言われた。


『アンタ、何でケンちゃんにいつもそんな態度なの?』


『お母さんには関係無い!口出さないで!』


 中学に入る頃には普通に喋る様になっていた、でも自分の意思を伝える為の努力はとても疲れる。

 家族にだけは強気に出れる。だって、何やったって同じ家だから。

 しかし、家族とはいえ疲れる。だから大声をだしたくないのに、お母さんは私に文句を言う。


 そして、それ以上に学校は疲れる。

 ちょうど良い距離、目立たないけど弄られない。

 ただ、本だけ読んでる地味な女の子とかマジで難しいから。

 その距離を保つのがとても難しい、何とか保っているが、とても疲れる。

 

 ケン君はそんな私に気付いてか、程良い距離を取ってくれる。

 そして見守ってくれる。


 中学で自覚する…私はケンちゃんが好きだ。

 近くにいて緊張しないのはケンちゃんだけ。


 学校では関わらないけど、ケンちゃんが部活終わってから、もしくはおうちの道場が終わった時間に遊びに行く。

 何をするわけでもなく、お互いが勝手に部屋にいる。

 ケンちゃんは筋トレしたり、ドラマを見たり、色んな事をしている。

 私は主に漫画とか小説とか、本ばかり。

 空想が好きで、小説は空想の余地が沢山あるから好きだ。

 

 特に好きな時間がある。

 同じ漫画や小説を読むと、ケンちゃんなりの解釈を聞かせてくれる。

 その話が私は好きだ。私はこう思うと返すと何倍も考えて思いを巡らせる。

 私はそんなケンちゃんが好きだ。

 

 中三の冬、クリスマスに昼ごはんを一緒に食べた。

 親が気を使ったんだろう、

 お話をしながらご飯を食べる。

『ブラックエンジェルスの真似してホイールに針仕込んでみたら重心がガタガタになって前につんのめった』『んっ』

『回転寿司の、チェーン店行ったら二貫有る筈なのに一貫しか無いからよく見たら小せえイカが肩寄せ合ってた』『んっ?ん…』


 その日も一方的にケンちゃんがあった事、くりすますと何も関係無い事を話していた。


 しかし、ふと、鏡を見ると私が笑ってる。

 私って、こんな顔出来るんだって思うくらい。


『アンタいつも仏頂面で「ん」しか言わないけどなんか楽しい事はないんかい?ケンちゃんも困ってるだろ?』


 あるよ、ケンちゃんといる事。

 同じ空間にいる事。それはとても幸せな事。

 小説でよく見る話。

 内気な女の子が、遊び人みたいな男の子について行っちゃう話。

 変な勘違いや、憧れをこじらせて、失敗しちゃう話。


 私には該当しない、だってケンちゃんと私の積み重ねは誰にも真似できな


『アンタがどう思おうがケンちゃんに嫌われちまったら?どうーすんだい?』


 え? 


 どういう事?


『自分の事ばっかり言ってるけど、ケンちゃんの気持ちはどうなんだい?ケンちゃん、たぶんモテるよ』


 ま、まま、ままま


『そもそも学力違うから高校違うじゃない?中学逃したら終わりだよアンタ?』


 おわ?おわおわおわ?おわわわわわ


 中三の冬、私がケンちゃんがどこの高校行くか知らなかった。

 何もしなくてもずっと一緒にいると思っていたから。


『ケンちゃんのお母さんから聞いたけど、公立の上から2番目ぐらいだって、アンタ下から2番目ギリギリじゃない、漫画ばっかり読んでるからだよ』


 私は動悸が止まらず、体を引きずりながら部屋に帰り勉強した、が、すぐ寝てしまう。

 そもそも何で違う学校行くのに勉強している?

 違う、私、実力で中卒?アレ?詰んだ?



 そして合格発表の日…私は気絶した。




『あぁ、決めたんだ。無理したくないし、憧れの私立に入りたくてよ。たからタナカナは気にするな』


 驚いた…驚きを超えた…私は親になんの目的もないまま中卒は不味いと少し離れた願書を出すと入れる高校に行くことになった。


 私はこの人と、一生一緒に居たいと思った。

 何をしてあげれば喜ぶんだろうか?

 知ってるよ、男の人の喜ぶ事。

 だから、一寸足りとも他の人が近付けない。


 ケンちゃんだけが…


『へぇお前カナか、カナチョロで良くない?』


 良くない…入った高校は馬鹿にドが付く学校…常にマウントを取り合う様な野犬ばかりの山みたいな学校…


『かれぴいんの?ねぇカナチョロ、かれぴ』


『い、いい、いるよ、ケンちゃん!』


『ケン?まじいかしてんじゃん?これ、カナチョロも化けなきゃだめじゃね?』


 ドキドキしながら嘘をついた。でもこれは絶対の事項、コレだけ言っとけば悪い虫も…え?




 ゾリゾリゾリゾリゾリ 


 私は片眉が無くなっていた…

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俺の幼馴染で好きな人、田中香菜が陰キャから高校デビューして学園のアイドルになり俺を捨てる可能性があるので阻止する件 クマとシオマネキ @akpkumasun

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