第5話 愛すればこそ、いきなり話がすっとんだ

 今日もタナカナはクラスのアイドル…陽キャの、まるで生贄の周りで騒ぐようなゴブリンの集落で、俺の幼馴染は常に生贄アイドル★ナンバーワンだ。


「カナチョロ〰️ウチのデルモやるっしょ?ドクモ?」


「んっ」


 更にある時には…


「カナチョロメッチャウケてんじゃん?もっと露出ㇱロシ?」


「んっ…?」


 タナカナは何やら化石化した何時の時代の話だよ(笑)みたいなギャル雑誌に出て1ページ使って紹介されていた。

 京極のプロデュース能力の高さゆえか、それとも地の才能ゆえか、大量のエクステをつけてサーカスのピエロみたいな化粧をし、ホームレス一歩手前の様な格好で紹介されていた。

 さながらバットマンの宿敵のアイツだ。


 幼馴染じゃなきゃを見過ごしている所だ。


 それに名前は【チョロ】…最早、タナカナの名前が一文字も無い。

 煽り文字には《シータワ!キッステ、イエティ?》と書いてある。


 生まれはチョロ星とか、趣味は将棋駒でドミノ倒しとか、好きな映画は猫から猫パンチを喰らう犬動画とか、好きな食べ物はラーメン三郎ニンニクもやし油抜き肉麺なし汁なしと書いてある。


 つまりコテコテ濃厚な大盛りで有名なラーメン三郎の丼のみである。

 ダイエットにいいね、いくらなんだろう?


 それはともかく…あれから更に日が昇り、落ちて、繰り返し…夏休み前に事件は起きた。


 何とタナカナのスカートがめくられたのだ!

 

 ザワつくゴブリン達…俺は何も出来ない奴だから…陰キャだからな…スマン…


「んっ!?ん!!」


「カナチョロにエロしたのだれし?カレピケンだけど?」


 ………………………………………………


「誰もめくってなくね?」


 クラスの顔も記憶から消えそうな、丸坊主の友達の中島みたいな奴が言った。


 タナカナの自意識過剰で終わろうとしている…

 悲しいかな…セクシャルハラスメンツは冤罪も多い。

 自意識過剰で終わったらそこで終わりだ。

 いや、逆に評判が…


 これは助け舟を出すべきなんだろうか?


「なぁケン…田中さんが…」


 武蔵野が何か言うからタナカナを見ると…


 ツーっと涙がタナカナの頬を伝った…


 俺は…こんな時に俺は…


 …そうだ、俺はいったい、何をしてやったっていうのだ。何一つしてやってない。このざまはタナカナのせいじゃない。 俺のせいだ、俺が悪かったんだ!!


 俺が怒りに満ちているとタナカナが急に顔をあげた…一筋の涙が流れている…そしてあり得ない事が起きた…


「おいお前ら、こっち来い!!」


 凄まじい至近距離なのに呼び付けるタナカナ。


「お前たち私がなぜ怒ってるのか、まだわからんのか!パンチラの誘惑に負けたからじゃない。どうでもいいやっていう、お前らの心が許せんからだ!」


「な、あ、あぁ…もういいかげんにしてくれねぇかな…冤罪だろ?」 「ハア~ッ」


 何故か急にタナカナが大声を出した!?

 俺は久しくこんなタナカナの声は聞いてない…後、口調もおかしい…一体何を…


「真面目に聞け! お前たちがやったことは裏切りだ。 いいか、早朝に起きないお前たちのために毎朝早くおきて、お弁当を作ってくれたお母さんたち。 汚れたジャージを毎日洗ってくれたお母さん達。何かあれば仕事を休んでまで、応援に駆けつけてくれると思うお母さん。そうゆう影で支えてくれた人たちの信頼を、お前たちは ことごとく踏みにじったんだ!俺はそのことを言ってるんだ!」


 俺?タナカナが自分の事、俺って言った!?


「俺は、他人をかえりみない陽キャ間男よりも、パンツだけ見えてれば良いみたいな陰キャのお前らの方が好きだ。だけど今日のお前ら最低だ!それは女を舐めてるからだ。生きるってことを馬鹿にしてる。今やってることを ひたむきにやらないで、この短い人生でいったい何が出来るって言うんだ!」


 何言ってるか分からないが…これは多分…俺が子供の時、タナカナが遊びに来ているのに無視して見続けていたラグビーの名作…


「いいか、よく考えてみろ。相手もおんなじ高校生だ。同じ齢!同じ背丈、頭の中だってそう変わらんだろ。それが何で、パンチラと乱交なんて差がつくんだ!お前らエロか?エロの人間なのか?何をやるにも中途半端にして、一生エロのまま終わるのか?それでいいのか!?…お前らそれでも男かっ!?悔しくないのか~ッ!?この角刈り!鼻毛!もっこり!」


 角刈りが叫ぶ…


「悔しいです!!今までは俺には二次元が当たり前だと思ってたけど…本物の女が来るとニヤついて誤魔化してたけど…今は彼女欲しいです。チキショー チキショー」


 鼻毛と、もっこりも叫んだ。


「俺も!」「俺も、彼女欲しいです!!」



「悔しいのは誰でもそう思う。でも思うだけじゃ駄目だ! お前たちそれでどうしたいんだ? どうしたいんだ。」


「彼女欲しいです。 彼女作ってセ◯クスです!」


「ちょっと待て、彼女は無理だ。たった今スカートめくりしか出来なかったんだぞ。」


「セ◯クスです。チキショー 陽キャがなんだってんだ!!」


「しかしなぁ…彼女を作るには、並大抵の努力じゃ勝てないんだぞ。 血反吐を吐いて死ぬほどの推し活をしなきゃならん…」


「はい、やります!」


「誰も助けてくれるわけじゃない。どんなに苦しくたって言い訳はきかないんだぞ。 お前たちそれでも俺の推し活したいか?」


 あれ?推し活にすり替わってないか?


「勝ちたい! 勝ちたいよぉ。。。」 「勝ちます。」 「がんばります!」



(ナレーション) <これほどの熱情が、一人一人に秘められていようとは。 タナカナは、胸が熱くなった・・・>


 とでも思っているのかな、と、俺は心で思った。ラグビーのドラマ思い出しながら…



「よぉし・・・ よく言った!俺は必ず学園のアイドルになる」 「アイドル!!」


「そのために・・・俺は今からお前たちを殴る。 いいか? 殴られた痛みなど3日で消える。でもな、今日の悔し泣きは一生忘れるなよ!」


「角刈り、がんばれよ。」 「はい!」 パァンッ

「よし、鼻毛は歯をくいしばれ!「はい!」パァンッ

 

 これは、暴力ではない、もし暴力だと呼ぶものがあれば、出る所に出てもいい。 

 タナカナはそう思っているが周りはそう思っていない。


 しかし、生徒たちは目覚めたのだ。

 翌日から 目の色を変えて 推し活を始めたのだった。


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