第25話



 少しの間の休息も終わり、リリは再び攻撃を繰り返す、魔力をさっきので使い過ぎたのか、攻撃は今まで通りの触手による物理攻撃だ。

 ウィーズと分かれて走った、俺は何もせず、とにかく真っ直ぐ走った、リリの俺に対する攻撃を、ウィーズがエアスライスで触手を斬り防ぐ、何度も攻撃を避けてリリに近付いて行く、これで近くに行ける。


 しかし、その時腹を触手で攻撃され、体がよろけ倒れそうになった。


 「ネオ君!」


 うつ伏せで大声をあげ心配するセシリー、そっちだって痛いくせに、大声は出すなよ。

 なんとか気合いで足を踏ん張り、全速力で走り続ける、そして遂にリリの元へ辿り着きそうになる。

 俺は力強く地面を蹴って、リリの元へ一気にジャンプした。


 俺はその勢いで強く抱きしめた、しっかりと。

 ウィーズが消える、空気を読んだのか知らないが。


 リリの体は普通の子と変わらなかった、小さくて弱々しくて、これ以上強く抱きしめると壊れてしまうんじゃないかと思うくらい、なんら普通の子と変わらない、ただの女の子だ。


 「え?」


 予想外のことだったのか、リリは固まった。


 「な、何?今更こんなん…じゃ」

 「俺は、嫌じゃないよ、リリは怖くないし、可愛いと思ってる」


 リリが触手の先端を俺に向け脅す。


 「ごめんな、俺がさっき詰めすぎたから、怖かったんだよな?」

 「……」


 黙っているリリに俺は話を続ける。


 「大丈夫、大丈夫だから」

 「リリ…ちゃん」


 うつ伏せの体勢でセシリーも俺達の方へ話しかける。


 「お姉…ちゃん?」

 「ごめんね、この前、魔力不定のこと、リリちゃんの前であんなに楽しげに語って、私」


 涙を流しながらセシリーは謝罪した。


 「でも、二人とも私のこともう、嫌いだよね?黒いの見ちゃったし、だから、魔法陣で二人とも私のこと好きにならないと」

 「魔法ならもう既にかかってる、俺達はずっとリリが好きだよ」


 俺は少し性に合わないキザな言葉を言った。


 「お兄ちゃん…似合わないよ」

 「はは」


 すると俺の背中に向けられていた触手は下げられた。


 「リリ、大丈夫だ、この世界の風は繋がっている、俺達は絶対にどこかにいる、寂しくなったらそれを思い出せ、俺達はここにずっといれないけど、いつかまた会いに来る」


 抱きしめる腕を離し、リリから離れ、目を見てそう宣言した。


 「絶対だ、よ」


 優しい笑顔で俺を見つめていたリリが、一瞬表情を変えた、俺はどうしたのか分からない内に、横から強い衝撃が走り一気に木の幹まで叩くように飛ばされた。

 おそらくリリが俺をここまで飛ばしたと思われる。


 「いってぇ…」


 ぶつけた腕を押さえながら見てみると、リリが何かに胸を貫かれていた。


 「はぁ、はぁ、ホリビスと異形の仲良しこよしなんて…反吐が出んだよバカやろー!」


 見ると男がうつ伏せの状態で、手をリリに向けていた、やったのは間違いなくあの男だ、おそらく魔力が少し回復し始めていたんだ。

 許し難い事態に俺は男を殺してやろうかと思ったが、行動にうつす前にリリが瞬く間に男の顔を潰して殺してしまった。


 しかしリリの胸は治る様子も無く、そのままその場で倒れてしまった。


 「リ、リリ!?」

 「リリちゃん!」


 俺達はリリにゆっくり近付く、あー、くそ!腰が抜けて体に力が入りづらい。

 少しずつ近付いて、やっと二人でリリの元へ辿り着いた、俺はリリのことを優しく抱き抱える。


 「リリ?」

 「おにい…ちゃん」


 声に元気がなさそうだ、肌にも血色が悪い、唇もカサついてる、まずい、このままだと本当に。


 「待ってろすぐにポーション持ってくるから」

 「むりだよ、もう心臓…つぶ、れちゃっ」


 そんな、確かに、いくらポーションでも壊れた内臓は元に戻せない、でも、こんなことって…。


 「リリちゃん、うっうぅ」


 セシリーが大粒の涙を流し大きな声で叫ぶ。


 「おねー、ちゃん、だいじょう、ぶだから、お姉ちゃんのこと、怒ってないっぐふっ」

 「もう喋らないで、どうして…どうしてこんなことに」


 上体をゆっくり起こし、泣きながらリリの額を優しく撫でるセシリー。


 「思い出した、はぁ、気がする、の」

 「え?」


 息も荒くなってきた、それでもリリはまだ喋り続ける、重い口を一生懸命動かして。


 「このリボン、あげる、妹に、はぁ、いつか会え、たら、わたして」


 リリが震えた手で俺に赤いリボンを手渡した、俺はそのリボンをよく分からないまま受け取る。


 「ありがとう……だいすきぃ」


 最後に、搾り取るような声でリリは、俺達に大好きと言い残し目を閉じた。


 「リリちゃん、うぅ、うぅぅ」


 セシリーが顔を手で覆って泣いている、一方俺は、目の前が真っ暗になるくらい絶望していた、自分の目に浮かぶ涙に、しばらく気付けないくらいに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シロの末裔~差別対象な俺が冒険者パーティをやめ、新たな冒険に出る~ みあかろ @ryomigi12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ