第66話

「メリア様、そのお心にお考えになられていることをぜひ我が息子にご教授いただきたく!!」

「馬鹿いえ!メリア様に先に話を通していたのはこの私だ!話をするならまず私の方からにしてもらわなければ!」

「いまさら何を言うか!そもそもお前はずっとハイデル前王子に肩入れしていたじゃないか!今になって急にメリア様に鞘替えするなど、調子のいいやつめ!」

「な、なんだと!!いいだろうが別に!!私は本当に価値のある人物の存在に気づいたのだから!!」


エルクが食事の号令をかけていこう、メリアの周りではこのような会話が立て続けに起こっていた。

彼女と話を望む者の登場は後を絶たず、次から次へととっかえひっかえするかのようにあいさつに訪れる者や、話をしたがるものが彼女の元を訪れていた。


「やれやれ…。これじゃあ警護をするのも一苦労だな…」

「なら変わって差し上げましょうか?」

「馬鹿いえ。秘書などに勤まるものか」

「さぁ、分かりませんよ?」


そんなメリアの隣で、互いに得意げな表情を浮かべながら会話を繰り広げるクリフォードとフューゲル。

メリアが皇女となってもなお、二人が彼女に対して思う気持ちや両者のその関係は全く分かってはいなかった。


「秘書になったからってメリアに近づけたと思うなよ?こっちはすでに騎士の城で同同棲までやってる仲なんだ。部外者が立ち入れるほどくすんでいるわけじゃないぜ?」

「それを言うなら、僕だって学院の屋敷でメリアと生活を共にしていましたよ?…あの思い出は今なお輝きを放つ、素晴らしいものでしたね…」


…ハイデルとアリッサが必死に手に入れようとしていた彼らからの思い。

結局それらを手にすることは最後までできなかったわけではあるが、ここにいるメリアはそのいずれも結果的に手にすることとなった。

…もっとも、彼女がその思いにどこまで気づいているのかは別問題であるが…。


「「メリアはこっちのものだ!!手を出すな!!」」


――――


「エルク様、こちらにいらっしゃったのですか」

「あぁ、メリア。ひとまずお疲れだったな」


多くの者たちがいまだメリアをめぐる熱い言葉を交わしている中、そこから抜けだしてきた二人は会場から少し外れた位置にあるテラスで顔を合わせた。


「相変わらず大人気だな、ここまで声が聞こえてくるぞ」

「ははは…。みんな大げさですし、なんだか恥ずかしいですね…」

「まぁ酒も入っているしな。多少は目をつぶってやることとしよう」


エルクはどこか嬉しそうな口調でそう言葉を発すると、今度はやや真剣な表情を浮かべた後、メリアに対してこう疑問を投げかけた。


「それでメリア、お前は自分の相手をもうすでに決めているのか?」

「あ、相手ですか??」

「そうだとも。ハイデルが失脚したことで、お前を縛るメリアルールはすでに消滅した。ゆえに、お前が望む相手と望む婚約を果たすことができる状態にあるわけだ。さぁ、どうする?」


その言葉は、エルクが真剣な思いでメリアに問いかけたものであった。

…しかしメリアの方は、あまりその事を深くは考えていなかった様子…。


「え、えっと…。私はハイデル様からも切り捨てられるような女ですし、ハイデル様の事を追い出したような女ですし、なかなか私の事を好きになってくれるような人がいるとも思えませんし…。だから、あまり考えていないというか…」

「…お、お前、本気で言ってるのか…?」


うそ偽りなど一切ないであろうメリアの様子を前にして、エルクはたじたじになるほかなかった…。


「(あれほど度胸のある物おじしない振る舞いができるくせに、ここまで鈍感な神経を持っていたとは…。これはなかなか先が思いやられるかもしれないな…)」

「「おい!!!なんの話をしている!!!」」


その時、それまで会場でメリアをめぐる戦闘を引き起こしていた者たちが、一斉に二人のもとに現れた。

…どうやら彼らには、エルクがメリアの事を口説いているように見えた様子…。


「メリアを誘惑するというのなら、たとえ相手が第一王子様といえど容赦はしないぜ??」

「メリアもメリアだよ。まずは秘書であるこの僕に相談してもらわないと…」

「ふざけるな!彼女を推薦したのは我々貴族家だ!まずは我々に話をするのが妥当だろうが!!」

「…はぁ、またうるさいのがわんさかと…」


自身の頭をぽりぽりと書きながら、やれやれといった様子を見せるエルク。

その時彼はこの場にいる者たちを鎮めるためか、それとも本心からか、大きな声でこう言葉を発した。


「聞け!!たった今メリアはこの俺と婚約することになった!!メリアは俺のものだ!!いいな!!!」


…ほんの一瞬、その言葉がこだました後にあたり一帯は沈黙の空気に包まれた。

しかしそれは一瞬だけ。

次の瞬間には多くの者たちから抗議の声が上がり始め、現場は収拾のつかない事態となっていく…。


「こりゃまずいな…。メリア、ひとまずここから離れよう。後の事はあとで考えよう」

「ど、どうされるのですかエルク様!あんな事言ってしまって…!」

「どうとでもなるさ。だってこの方が面白いだろう?」


…ハイデルの元からメリアが追放されたことから始まった今回の王宮の動乱。

メリアが戻ってなおその動乱は落ち着きを見せることはなく、別の意味で引き起こされたこの混乱は、もうしばらくの間だけ王宮を包んで離さないのであった…。

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私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください 大舟 @Daisen0926

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