大文字伝子が行く298

素人の手慰み

　＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子（だいもんじでんこ）・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダー（平和への案内人）または行動隊長と呼ばれている。。

　大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのエーアイ（アナザー・インテリジェンス）と呼ばれている。

　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。降格中だったが、再び副隊長になった。現在、産休中だが・・・。

　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。通称『片づけ隊』班長をしている。

　斉藤長一朗理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

　久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。警察とEITOのパイプ役もするが、『交渉人』が必要な場合は、柴田管理官と交替で交渉人も行う。

　久保田誠警部補・・・警視庁警部補。あつこの夫。通称『片づけ隊』を手伝うこともある。

　橋爪警部補・・・愛宕の相棒。丸髷書生活安全課の刑事だが、。通称『片づけ隊』

　を手伝うこともある。

　西部警部補・・・高速エリア署生活安全課の刑事だが、。通称『片づけ隊』

　を手伝うこともある。早乙女愛と結婚した。

　草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

　渡伸也一曹・・・空自からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当。

　河野事務官・・・警視庁から出向の事務官。警察、自衛隊、都庁などの連絡も受け持つ。

　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

　馬場（金森）和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

　高木（日向）さやか一佐・・・空自からのEITO出向。

　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

　浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

　安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

　稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

　愛川静音（しずね）・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

　江南（えなみ）美由紀・・・､元警視庁警察犬チーム班長。警部補。警視庁からEITOに出向。

　工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

　西部（早乙女）愛・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向だったが退職。EITO準隊員。

　伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

　葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

　越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

　小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

　下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

　飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

　財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

　仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

　七尾伶子・・・警視庁からEITO出向の巡査部長。

　大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。

　高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。EITOガーディアンズ。

　青山たかし・・・元丸髷署刑事。EITOに就職。EITOガーディアンズ。

　馬場力（ちから）3等空佐・・・空自からのEITO出向。EITOガーディアンズ。

　井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。EITOガーディアンズ。

　筒井隆昭警部・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁テロ対策室からのEITO出向。EITOガーディアンズ。

　原田正三警部・・・元新宿風俗担当刑事。戦闘の記録及び隠しカメラ検索を担当。

　大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

　藤井康子・・・伝子の仕切り隣の住人。モールで料理教室を開いている。EITO準隊員待遇。

　市橋早苗・・・移民党総裁。総理。

　名越撤兵・・・MAITOの隊長。

　中津警部・・・警視庁テロ対策室所属。

　中津健二・・・中津興信所所長。

　泊哲夫・・・中津興信所所員。

　泊（根津）あき・・・中津興信所所員。

　中津（西園寺）公子・・・中津の妻。

　高崎八郎・・・中津興信所所員。

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　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

　==EITOガーディアンズとは、エマージェンシーガールズの支援部隊である。==

　※このエピソードは、「こちら中津興信所29」の続編にあたります。

　午前0時。Redにドリフト・アイスの声明が上がった。

　だが、システムトラブルの為、人々がこの文面を知ったのは午前7時だった。

［お見合いパーティー第九回

　日時：8月7日。午後3時。

　場所： 『原爆の日』記念イベント会場。

　参加者：有限会社ドリフト・アイス有志の男性。

　 EITO東京本部の男性及び女性。

　来賓：市橋総理。

　主宰：ドリフト・アイス

　］

　午前９時半。伝子のマンション。

　高遠は、PCルームのEITO用ディスプレイの前に座っていた。

　そして、中津興信所の面々が中津警部の連絡するのを聞いていた。

　中津警部が、高遠に振ったので、持っていた煎餅を置いて。話を始めた。

「え、とですね。昨日、久保田管理官から連絡があり、EITO本部の草薙さんや秘密基地の本郷君と話していました。久保田管理官の取り調べの音声データや、轟さんのメールも見ました。急いで、『ハーモニー』にアカウントを作って登録、サイトに適当な投稿をして、色々と操作しました。それで、時系列で轟さんを追いました。轟さんはハーモニーを含めた10個のWeb小説サイトに登録、毎日投稿していました。メインのサイトは別の所です。ここがメインだったら、寧ろ事件は起こらなかったかも知れません。轟さんは、投稿した時、いつもとは違う何かに気づきました。それは、警告メッセージでした。正確に言うと、報告メッセージでした。内容は、『契約違反』があった為に内容を変更したとありました。そして、『営業妨害』という文字が飛び込んできました。更に、こちらからの返事が来る前に、粘着質に苦情を言って来た場合は処分する、という脅しの文言までありました。轟さんは、メッセージというボタンから返信しようとしましたが、「送信用メッセージなので、返信出来ない」とエラーメッセージが出ました。」

　高遠は、コーヒーを一口啜った。

「FAQのボタンを押してみました。FAQとは、よくある質問とその回答とを集めたもの。詰まり、問答集です。 FAQは英語の frequently asked questions の略語で、「頻繁に尋ねられる質問」の意味なんです。日本語では「よくある質問」となっていることが多いものです。で、メッセージを送りたいが送れない、という問答が無かったのです。取扱説明書、というボタンを押しても、分かりません。ネット検索で答が分かるのでは、と調べたら、過去に『フィクションでも有名な名前があると違反になる』と注意を受けて変更させられた人の話を見付けました。そこで、『営業妨害』です。エピソード1に登場する、彼の書いた団体名と似た名前が、引っかかりました。でも、よく考えたら全てのエピソードの冒頭に『この物語はあくまでもフィクションです』と明記してあるのです。彼は、この名前が問題なのか、と小説の代わりに書き込みました。このサイトでは何故か小説だけを取り扱っているので、やはり違反だというメッセージがメッセージの欄に出てきました。返信しようとしたら、やはり同じです。彼は、『愚痴』として、『活動報告』という欄に書き込みました。すると、利用者の人らしき投稿があり、『メールで送ればいいじゃないか』と書いていました。彼はまた、困りました。メールの宛先が分かりません。そこで、低姿勢で、その利用者に『活動報告』に書いて尋ねました。やっと分かりました。その利用者が言う『運営情報』というボタンの下にメールのアドレスとIDが書いてありました。話が長くてごめんなさい。」

　画面の中から中津健二が、にっこり笑って言った。「待つのが出来なければ、この仕事は出来ませんよ。」女性陣は、何故か罰が悪そうな顔をした。

「で、運営者にメールを送ったら、『営業妨害』と書いた記録はない、『検索妨害行為』と書いた、と書いてあって、『オリジナル』と『２次創作』を選ぶ小説の詳細情報の欄に書いた名前と小説の作品名が同一だから、修正した、と書いてありました。ここからは私の推理です。彼は確かに見た『営業妨害』という文言を見間違えたと決めつけられた、と感じた。彼は、自分は無実なのに『濡れ衣』を着せられた、と感じた。『妨害』とは、邪魔をすることです。検索妨害なんて聞いたことがない。実際、私が規約を子細に調べましたが、そんな記載はありませんでした。彼らの中では常識なのでしょうが、一般常識とは違います。轟さんは、『ラジオボタン』を間違えただけです。また、タグと、メールに書いてあった場所に、轟さんはタイトルを書いていなかった。百歩譲って書いてあったとして、何故『妨害罪』なのでしょう。轟さんが申し立てるには、他のサイトでは、初出に対して二次創作としているので、同じように捕えていたが、そのサイトでは、『原作』と『脚色』を区別していたらしい。」

　ここで、また高遠はコーヒーを啜った。

「彼は規約を詳しく読んでいなかった。これは事実です。だが、何度かシステムをアップグレードしていく内に、サイト側は説明を蔑ろにしていた。変更履歴を辿ってみると、『質問掲示板を追加しました』という、サイト側からの連絡がありました。日付は2012年になっています。ところが、メニューやサブメニューには『質問掲示板』のボタンがありません。この『質問掲示板』こそが『運用情報』なのでしょう。『お得意さん』の利用者には分かっても、『いちげんさん』や『新参者』には分からなくて当然でしょう。轟さんは、自嘲して『素人の手慰みの末路』と言ったそうですよ。本庄弁護士には、裁判になった時、不親切なシステムのことを申告するように提言しました。中津興信所の皆さんは、聞き込みをする時に、是非この『苦情』を引き出して下さい。こういう言い方は不味いかな？参考にして下さい。私がピックアップしたのは6人です。リストは警部に送りました。」

　中津興信所の面々は,口々に礼を言った。高遠はPCをシャットダウンした。

　午前11時。

　あっという間に時間が過ぎ、藤井がいつの間にか背後に立っていた。

「あ。ごめんなさい。気がつかなくて。座れば良かったのに。」

　高遠の言葉に、「立つのが苦痛なら、料理の講師はできないわ。今日は、素麺にしない？」と台所に向かった。

　ここに住み出した頃はヘンなオバサンだと思っていたが、いつの間にか家族以上の付き合いをしている。

「前に、Base　bookで似た様な事件があったわね。利用者が欺された、って怒って。」

「ええ。人手不足は分かるけど、安い労働力として、一般常識のない若者や外国人を雇う企業が多いですからね。その安い労働者を管理する能力の無い者が管理すると、カスタマーハラスメントが起ったり、事件が起ったりする。困ったもんです。僕も腹が立ったから、伝子に『言いつけて』御池知事に行政指導して貰いました。」

「行政指導？」「利用者に分からない、または苦情を受付けない企業には、監査するぞ、と脅しをかけるだけですけどね。」

「そのサイトって、ひょっとしたら評判悪いんじゃないの？」「口コミは、広がるものです。可哀想なのは轟さん。1人で、寝たきりのお母さんの介護をしているのに、刑務所に入るなんて。」「それで、情状酌量？」「まだまだ、これからだけど、Chot GPTが関係しているらしいから、唆され、注射器渡されたから、『教唆』した人間が主犯ですしねえ。」

　2人が素麺を食べ始めると、綾子が来た。

「また、藤井さんと不倫してる。伝子に言いつけるわよ、婿殿。」

「酷い！」高遠は、ふくれっ面をして見せた。

　午後1時。

　藤井と綾子は買物に出掛けて行った。

　高遠は、自分自身の原稿も気になったが、どうしても轟の事が気になる。

　そこで、改めてネット検索してみた。

　すると、驚くべきことが2つ分かった。

　1つは、『二次創作』だ。『二次創作とは、原典となる創作物を利用して、独自の漫画、小説、フィギュアやポスター、カードなどの派生作品を二次的に創作することを指す。』

　と、ある。轟や高遠は『一般常識』的に考えていたのだ。そのサイトでは、『原作』と『脚色』を区別していたらしい、と中津達に、轟の言い分そのままを伝えたが、Web小説サイトの『専門常識』だった。『オリジナル』と『二次創作』の違いで、原作と脚色を区別していた。つまり、『著作権侵害』の壁があっても、脚色を認めている。

　高遠なら、『原作』作品と『原案』作品で区別し、転用元の原作者を尊重するところだが。

　次に、『検索妨害』だ。綾子も藤井も、聞き慣れない言葉だと言っていた。

　綾子は介護士であり、藤井は料理講師だ。専門用語の、素人への説明は慣れているだろう。

　だが、どの業界でもそうだが、普段『お約束』の言葉で使っている『専門用語』そのままでは一般用語としては馴染めない。

『検索妨害（けんさくぼうがい）とは、データの集合の中から目的とするデータを探し出す行為を邪魔することである。』とある。恐らく、この検索妨害が指摘される『専門知識』と『免疫』がないから、轟は凶行に走った。

　しかし、『検索妨害』を『営業妨害』と見誤るとは考えにくい。高齢とは言え、毎日創作し、10個のサイトに投稿しているのだ。『勘違い』のカラクリに気づかなくても見誤るというのは、おかしい。サイト側は、見誤りと指摘して返答してきた。

　嵌められたのではないか？ふと、そんな考えが浮かんで、急いでメールに書き、久保田管理官に送った。少なくとも、轟には注射器もビールスも、入手経路がない。

　高遠は『サイバー攻撃』と『バイト君』を調べた方がいい、とも付け加えた。

　高遠は、何としても轟を救いたかった。同じ『ものかき』として。

　午後2時。EITO東京本部。司令室。

　今朝の『お見合いパーティー』の招待状から、足立区が他の区と合同の『原爆記念展覧会』をすることが分かり、エマージェンシーガールズは、現地に向かった。

　ヒロシマには、早乙女と工藤を総理のSPとして送っていた。

「規則って、何でしょうね。」と、伝子はぽつりと言った。

「何だね、今更。いつもマイペースで作戦立てているじゃないか、大文字君。」

　理事官が、不思議そうに言った。

　伝子は、先ほど届いた、学からのメールの事件を話した。

「定期的に、違反者リストを公表しているそうですよ。注意喚起もせずに、違反したとだけ報せてくる位ですからね。」

「酷いな。警察も自衛隊も規律には厳しいが、『さらし首』はないだろう。まるで江戸時代以前だ。」と、夏目警視正は言った。

「反面教師、という触れ込みらしいが、やり過ぎでしょう。」

「それはそうと、高遠さんがおっしゃる通り、誰かが轟氏に『武器』を渡し、教唆した筈ですね。それに、ターゲットも教えている。まるで『派遣のヒットマン』だ。」と、草薙が憤慨した。

　その時、「アンバサダー。副隊長から通信です。」と河野事務官が言った。

「おねえさま。足立区の『原爆の日』記念イベント会場に着いたけど、予想通り貼り紙があったわ。入り口に。『ここは狭いし、燃やしても面白くないから舎人（とねり）公園』に来い！」って書いてあるわ。」

「了解した。作戦は、舎人公園で展開する。予め立ち入り禁止の通告はしてあるが、一般人には注意してくれ。」「了解。」

「轟の事件は、とにかく後回しだ。ピスミラの手口ではないし、今朝の声明に何も触れていないから、アルフィーズの類いかも知れない。タチの悪い手口だが。」

　午後3時。舎人公園。

　なぎさ達が到着すると、上空にヘリが10機、飛来した。

「何の真似だ？」と、なぎさが忍者集団の『枝』らしき男に向かって言った。

「何のことだ？」と、男は平然と言い返した。

「そうか。」なぎさは、伝子がインカムに救援を送った、と言うのを聞いた。

　1分も経たない内に、耳慣れた爆音が聞こえた。EITOのオスプレイが2機、MAITOのオスプレイが2機、海自のオスプレイが2機、飛来した。

　機の数は敵より少ないが、装備はこちらの方が多い。

「何の真似だ？」と、枝は言った。

「お前達の真似だ。」と、なぎさは言い返した。

「くそっ！！行くぞ！！」

　集団は、今回は日本刀のみだ。ホバーバイクが4台、飛来した。オスプレイからだ。

　EITOガーディアンズだ。筒井、高木、青山、井関だ。ホバーバイクとは、『宙に浮くバイク』のことで、民間が開発、EITOが採用して改造、戦闘及び運搬に利用している。

　ホバーバイクから、胡椒弾が集団に連続で発射された。胡椒弾とは、胡椒や台所調味料等で練った丸薬を弾にしたもので、料理研究家でもある藤井の発案を実用化したものだ。

　ブーメラン隊、シューター隊がまず、集団をけん制した。シューター隊はシューターを可能な限り投げた。シューターとは、うろこ形の手裏剣で先端にしびれ薬が塗ってある。

　他のエマージェンシーガールズは、田坂達の弓矢隊も加わって、バトルスティックとバトルロッドで凶刃をものともせず、闘った。

　150人いた集団は、1時間後には、公園の土と仲良くなっていた。

　オスプレイと睨み合っていたヘリは、集団に加勢することなく、去って行った。

　あつこは、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、犬笛に似た笛で、通常の大人の耳には聞こえない周波数を用いて、主に簡易な合図に利用している。

　なぎさのインカムに名越の声が聞こえた。「やりましたね、副隊長。」

「ありがとう、名越隊長。」名越は班長から部隊長に昇格していた。

　午後7時。伝子のマンション。

　久しぶりに、伝子は自らケチャップライスを作り、高遠と食べた。

「伝子。おいしいけど、なんで裸エプロンなの？」

「ケチャップが飛ぶだろ？それに、お前というデザートを平らげる為さ。」

　高遠は、伝子を送って来た、なぎさが、ヘンに含み笑いしているのを思い出した。

「日付変わったら、おさむに会いに行こう。」

　良かった｡『今日は』夜通しじゃなかったんだ、と高遠は口には出さず、「おいしいね。」とだけ言った。

　日付が変わる前、久保田管理官からメールが届いた。

『いたずら』の実行犯の、那珂国人留学生を逮捕した、というものだった。

　午後11時半。

　筒井が迎えに来た。何となく様子は分かったが、敢えて言わなかった。お互いの為に。

　―完―