怖いのどーこだ?
神無月そぞろ
ポーカーフェース崩壊
スマホが振動してロウが画面を見た。ポーカーフェースが崩れて驚いた表情になったあと、すぐに怒りへ切り替わった。服を見るのを中断して無言のまま店を出ると外で通話を始めた。
ロウは男の俺でも見惚れる美形だ。そのうえ高身長でバランスのいい容姿をしているから街に出ると注目を浴びる。知り合ったときからモテていたけど鼻にかけることはない。
口数が少なくポーカーフェースだから読み取りにくいが喜怒哀楽は激しいほうだ。でも感情を周りにぶつけることはなく、きちんとコントロールできている。俺と同じ年なのに物事に冷静で、ふだんから頼りになる自慢の友人だ。
通話を終えたロウが戻ってきた。たいていのことは受け流すのに、まだ怒りのオーラを感じる。めったにないことなので興味がわいた。
「どしたん? なんか機嫌悪いな?」
はたから見るとロウの感情は読み取れないだろう。でも付き合いが長い俺には怒っている空気が全身を包んでいるのがわかる。
ロウは無言でしばらく俺を見ていたけど、手に持っているスマホに視線を移した。それからぼそぼそと話し始めた。
「姉貴がヘビに
瞬時に最悪の事態が頭をよぎり、思わず大声を出してしまった。
「だっ、大丈夫なのか!!」
「心配ない」
「じゃあ、ハブじゃなかったのか!」
「本土にハブはいない」
「あ、そっか……」
咬まれたのがハブじゃなかったとわかった
島で一番恐れられていると言っても大げさではないものが「ハブ」。ハブは島に生息している猛毒を持ったヘビだ。
ハブの毒は出血毒で、咬まれて体内に毒が入ってしまうと血管や組織を壊してしまう。むかしはハブに咬まれて亡くなる人もいたけど、血清があるので近年は死者がでたというニュースは聞かない。それでも手当てが遅れると死につながったり後遺症が残ってしまったりするから現在でも恐ろしい存在であることに変わりはない。
ハブの怖いところはわりと身近にいることだ。林や畑などがメインの生息地といわれているけど、学校の敷地内で発見されることがあったし、ニワトリを飼育していると庭に侵入してくることだってある。
島の常識として、家でハブを発見した場合は
島人はハブの怖さを知っているから「ヘビに咬まれた」は
「って、待てよ!
ヘビに咬まれたってどういう経緯だ!?」
遅い突っこみを入れると、ロウはため息をついたあと、怒りと飽きれが混じった口調で言ってきた。
「塀の上にヘビがいたのを見つけて捕まえたんだと。
そのときに咬まれたらしい」
「はいぃいい!?
なんで捕まえたんだよ!」
「姉貴、爬虫類が好きなんだ。
見つけると条件反射的に捕まえる」
「条件反射って……。
見つけたヘビが毒蛇だったらどうするんだよ、咬まれたらヤベぇぞ!?」
「俺も同じことを言った。
そしたら『毒蛇じゃないことを確認しているから大丈夫だよ』と言ってきた」
「み、見分けがつくのか?」
「姉貴は動物にやたら詳しい。
ハブとアカマタも見分けられる」
「…………」
ロウの姉ちゃんは
ロウの話はとても信じられないけど嘘をつくやつではない。ってことは、つまり本当にヘビをわしづかみするのか……?
混乱していると、ロウが怒りの感情を乗せて話していく。
「ヘビの区別ができるとかの問題じゃねえんだよ。
猛毒でなくても、ヘビに咬まれると破傷風になる可能性があるんだ。だから消毒したのか聞いたら何もしてないと返してきやがった。
早く消毒しろと言うと、
文句を言いながらロウはスマホをいじっている。たぶん確認のメッセージを打っているんだろうな。
感情の起伏が少ないロウを変化させるのは、たいがい姉のレイちゃんだ。この姉弟のやり取りを見ていると、ほっこりすることが多い。
年齢とともに経験が積み重なっていくと、物事に対して新鮮さを感じなくなる。すると喜怒哀楽のさまざまな感情も薄れていく。年を取るごとに世の中がつまらなくなっていくという人は、感情を揺さぶられることが少なくなったからじゃないだろうか?
ロウとはよくつるんでいて、いろんな経験を一緒にしてきた。俺もたいていのことには驚かなくなったけどレイちゃんは例外だ。
レイちゃんが関わる物事は毎回なにかしらのサプライズがある。まるで漫画にでてくるような出来事を体験してるレイちゃんの話はいつも面白い。
怖いのどーこだ? 神無月そぞろ @coinxcastle
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