銀座のアイスはどこへいったか?

中辛バーバリアン

銀座のアイスはどこへいったか?

 その年の夏も酷暑こくしょと言われていた。


 大学生のときの夏休み。

 私は実家に帰省きせいもせず、アルバイトに明け暮れる日々を送っていた。


 当然、働けば働くほど、ふところうるおうもので、

 金に余裕が出てくると、心にも余裕が出てくる。


 ──たまには実家にプレゼントでもしてやるか。


 孝行こうこう息子むすこを気取った私は、実家に贈り物をすることにした。


 動物園では暑くなると、ホッキョクグマに大きな氷を差し入れるらしい。

 観光客は氷にはしゃぐ動物の姿を見て楽しむという。


 考え方は動物園と同じ。私も両親に氷を差し入れることにした。


 お中元めいたものを人に贈るのも初めてのことだったので、奮発してやろうと少し息巻いていた。


 銀座に店をかまえる高級アイス店。

 オンラインショッピングで商品を見つくろう。


 数ある商品のなかから、私は一番人気の「プレミアムアイス(20個入り)」を選んだ。お高い店だけあって、オプションもいろいろと豊富らしい。ギフト用の小洒落こじゃれた包装紙を選んで、「こころばかり」なんて書かれたを付けた。

 両親の感心する顔を想像しながら、私はそっと購入のボタンを押した。



 数日ほど経つと、「商品が発送されました」とメールが届く。

 おとど予定日よていび明後日あさってを指していた。



 アイスが実家に届くその日、私はスマホの通知をしきりに気にしながら、一日を過ごしていた。

 どんなメッセージが来るだろう。両親からの反応が楽しみだった。

 きっと世界で初めて動物たちに氷を送った飼育員も、同じ気持ちだったんだろう。



 しかし、夜になってもメッセージは届かなかった。

 時計の針は20時をとうに回っていて、配送終了の21時をまもなく迎えようとしていた。


 まだ届いていない?

 何かあったんだろうか?


 一抹いちまつの不安を抱えたまま、やがて、時計の針は21時を回った。

 スマホを開いて確認するが、まだメッセージは来ていない。



 ──ピン・ポーン



 そのとき、家のチャイムが鳴った。

 悪い予感がした。



 ──遅くなってすみません。宅急便です



 段ボールに書かれたロゴを見て、絶句する。

 間違えて宛先を自宅にしていたのだ。



 その夏、私はひとりで20個のアイスを食べることになった。


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