いぬが吠えたものは?
天雪桃那花(あまゆきもなか)
その家ではラップ現象が日常茶飯事でした
これは、私たち家族が築40年以上の中古の家に移り住んだ時のお話です。
古いこの家はちょっと変な造りをしていました。
門と玄関はいわゆる鬼門というやつで、北東向きです。
玄関のドアを開けると直ぐ目の前に急な階段があり、二階の踊り場に続いています。
階段を昇った突き当りに窓があるのです。
分かりやすく言うと、玄関のドアを開けそのまますぐ前の階段を上がりきると、すごく大きな窓があるので、家の中のどの部屋にも寄らずに突っ切って外に出られます。ただし二階ですから、実際にはそのまま外に出たら落っこちて怪我をしてしまいますから、誰もやりませんが……。
こうした造りはあまり良くないモノを引き寄せ、通り道にしてしまうことがあると聞いたことがありました。
どうしてそんなに大きな窓が階段先にあるのかも不思議でしたが、何より不可解な出来事が実際にこの家では日常茶飯事に起きていたのです。
私が小学生だった夏休みのある日。
仲良しの幼馴染みが最近飼い始めた犬を二匹連れて遊びに来ました。
可愛いトイプードルとコーギーの子犬です。
家には母と弟と妹もいたのですが、皆動物が大好きです。
はしゃいだ子犬たちと弟と妹も部屋の中で遊び回って、楽しく遊んでいました。
ちょっと疲れたので、私たちも子犬たちもおやつタイムにしました。
しばらくすると子犬たちに異変が……!
子犬が二匹同時に、突然キャンキャンと激しく吠えだしたのです。
部屋の中央付近に向かって、歯を剥き出しずっと威嚇するように吠えています。
明らかな異常事態です。
ですが、……そこには何もいないんです。
果たして『なに』に向かって子犬たちは吠えているのでしょう?
私たちは怖くなりました。
友達は子犬たちをなだめようと、二匹を抱っこしようとしたのです。
しかし、二匹は吠えながら玄関に走りました。
まるでそれは『なに』かを牧羊犬のように追い立てているようでした。
子犬たちには、私たち普通の人間には見えない『なに』かが見えていたのでしょうか。
二匹の子犬は玄関に行って、ひとしきり吠えたあと戻って来て、また遊び始めました。
いったいあの時、子犬たちは『なに』に向かって吠えていたのでしょうか。
この家では誰もいない部屋から大きな音がしたりラップ現象がよく起きていたのです。
常々怖い思いをしていた私と弟と妹は引っ越ししたいと両親に訴えていました。中古とはいえ買った家だったので、簡単には引っ越しは出来なかったけれど、子供をなだめる代わりとばかりに捨てられていた子犬を飼うことになりました。
子犬が我が家にやって来て、やがてラップ現象はまたたく間に無くなりました。
あれから数年が経ち更に老朽化してたので建物は取り壊して売り、私たち家族は他の地域に引っ越したので、もうその家は跡形もなくありません。
今では新しい家が建っているそうです。
ですがもし……、家に取り憑いた『なに』かではなく、土地に憑いたものであったら、あの怪現象はまだ起こっているのでしょうか。
あの家で起きた出来事を、今でもたまに友達や家族と話題にします。
その後どうなったかを知りたい好奇心めいた気持ちが時々湧き上がることもありますが……。
それを確かめるすべはありません。
おわり
いぬが吠えたものは? 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。