呪い呪われ、穴二つ②
しかし、Yは
「先方の連絡先ぐらい教えてくれてもいいだろう。おまえの名前は出さないし、決して迷惑はかけない。連絡先は自分で調べたことにする。頼むから、今すぐ教えてくれ」
「番組に出た霊能者の方は、呪いの依頼は受けない、と言っていた。いくら法に触れないと言っても、一旦手を染めたら身の破滅らしい。だから、頼んでも、無駄なんだよ」
「そんなことは、頼んでみないとわからないだろう」
「呪いは返ってくるんだぞ。呪いなんか、考えるな」
「息子の復讐をあきらめろと言うのか? それは絶対に無理だ。今、俺が生きているのは、復讐のためだからな」
「おまえのためを思って、言っているんだぞ」
「だったら、俺を助けてくれ。一生のお願いだ」
結局、僕が折れるしかなかった。ただし、霊能者の方の連絡先を教えなかった。近くの大型書店に入って、番組企画の参考にした書籍を購入して、Yにプレゼントしたのである。
いわゆる「呪いマニュアル」のようなもので、呪いをかける方法がいくつか書かれていた。基本的は、「
ひき逃げ事件の場合、犯人の居場所はおろか、正体もわかっていないのだから、爪の欠片を手に入れるのは不可能だ。どちらにしても、Yが復讐を遂げることは難しそうだった。
だが、Yはそうは思わないのか、僕に礼を言って、帰っていった。
その後、仕事が忙しくなり、気になっていたが、しばらくYとは連絡をとらなかった。ひと月ぐらいして連絡をした時には、すでにメアドは変えられていた。翌年、年賀状が宛先人不在で返送されてきたので、完全にYとの関係は途絶えてしまった。
僕には気になることが一つある。
もしかしたら、ひき逃げ犯につながる有力な手がかりが残されていたかもしれない。はねられた息子さんの衣服は、証拠調べが終わると、Yの元に返ってくるはずだ。その衣服に乗用車の塗料が付着していた可能性があるのではないか。
もし、そうだとしたら、Yが呪いをかけることは、決して不可能ではない。人間の皮膚片に該当する、衣服に付着した塗料を使って、息子さんをはねた乗用車を呪い殺すのだ。
つまり、呪いの標的を犯人ではなく、乗用車の方に定めるという発想の転換である。
乗用車の死亡事故のニュースが報じられるたびに、僕はYのことを思いだす。なぜか、乗用車のブレーキがきかなかったり、誤作動が起こったりするたびに、それらの原因はYの呪いのせいではないか、と考えてしまう。
犯人が乗用車を廃車にしていれば呪いを受けることはないが、もし、誰かに売りつけていたら無関係の人に災いが降りかかることになる。そうなったら、呪いのねじれ現象だ。
我ながら荒唐無稽な話だと思う。そんなことが実際に起こるわけがない。このバカげた考えを払拭するために、Yに会って確認をしたいのだが、あれからずっと果たせずにいる。
〈人を呪わば、穴二つ〉。何の確証もないが、Yはもう生きていないような気がする。
了
呪い呪われ、穴二つ 坂本 光陽 @GLSFLS23
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