第2話 ラブコメの波動をエネルギーに変換するロボ

「あの~笹倉先生? これってなんかのドッキリっすか?」


 俺は当たり前の感想をこぼす。だが、それを笹倉先生はニコニコと受け止める。


「ドッキリじゃないぞ! 本当に今日から生徒としてお前たちと通ってもらうぞ!」

「え、マジで……?」

「ジジ……”マジ”です」



 俺の言葉にそのロボは当たり前のように返事をする。



「私の名前はLA-BE.2型……気軽にラーベと呼んでください」

「ラーベ君は政府が推進する研究の一環で開発された超高性能AI搭載の自立型ロボだ! テストとして我がハナレ中学の生徒になったぞ!」

「なんでこんなクソ田舎なんかに」

「知らない!!!」



 そんなこと元気よく発表するなよ……


 隣を見ると真紀はまだ唖然としていた。そりゃこんな意味不明なことが起きれば誰だってそうなるよな。



「ジジ……お二人とも、よろしくお願いします」

「あ、はい。白瀬真紀です。よろしく……」



 そのラーベとかいうロボは器用に頭部パーツを下げてお辞儀のようなことをする。釣られて真紀も頭を下げ返す。


 なんだこの光景。



「さ、転校生の紹介も終わったし、私は帰るね!」



 笹倉先生は明らかに教師らしくない宣言をすると、教室の扉を開けさっそうと帰っていく。


 一番説明責任のある人が真っ先に帰っちゃったよ……



「はあ、なんなんだよマジで……まあいいや。真紀、帰るぞ」

「うん」



 楽しみにしていた転校生がへんてこロボだったとわかった俺は露骨にテンションが下がっていた。今日は授業もないので、真紀と一緒に教室を出ようと立ち上がった。



「ジジ……お待ちくださいお二人とも」



 そんな俺たちを止めたのは、やはりこのロボだった。



「これから二人はお帰りですか」

「そりゃ、二人だけじゃ部活も出来ないしな」

「私は家の手伝いとかあるし」


「そ、そんな……!」


 なんで帰るって言っただけで地獄に落ちたみたいな顔するんだよ。


 俺の14年ちょいの人生で培われた勘が言っている。こいつに関わるとロクなことがおきなさそうだ。さっそうと帰るに限る。


「じゃあなナントカロボ。明日からよろしく」

「ラーベ、また明日」



 そう言って俺が教室の扉に手をかけた、その時だ。



「う、うう うbbbbbb」

「な、なんだ!?」



 唐突に警報音が教室中に鳴り響く。


 慌てて振り返ると、目をチカチカさせたラーベが明らかに異常な動きをしていた。そして、警報音もこいつから鳴っている。



「ジジ……動力が、エネルギーが足りません」



 そう来たか……絶対めんどくさいやつだ。


 放って帰ろうとすると、真紀が俺の袖を掴んで、捨てられた猫を見つめるような眼を向けてくる。



「勇太……」

「……はあ、わかったからそんな顔すんな」


 俺は真紀に根負けし、けたたましい警報音を響かせているラーベに近づく。


「エネルギーが足りないって、コンセントとかさしたらいいのか?」

「いえ、私の動力は最新鋭次世代型コンパイラでできています。これにより、人が放つ大きな感情の波動をエネルギーに変換できるのです」


 あ……? なんか難しい話になって来たぞ……?


「そして、私は人が抱く恋愛感情を主なエネルギーとして変換します」


「……なんで?」



 いや、そう言えばなんか自己紹介の時にそんなこと言ってたな……理解ができなかったからスルーしてたけど。


 恋愛感情って、どうするんだよ……


 俺がうんうん考えていると、ラーベの挙動がどんどんおかしくなっていく。



「ブブブババババ」

「どうする勇太。ラーベが死にそうだよ」

「つっても、今更お前に恋愛感情なんか湧かねえよ。お前もそうだろ?」

「……それは」



 俺の言葉に真紀は押し黙ってしまう。この反応を見るに真紀も俺と同じだろう。まあ、知ってたことだけどな。


 すると、急にラーベの警報音が止まり、代わりに死にそうな機械音声がぼそぼそと聞こえてくる。



「ジジ……手を……」

「え? 何か言った?」



「お二人で、手を繋いでください」



「手? ……繋ぐ?」



 耳を疑う言葉だった。手を、真紀と、俺が?


 真紀の方を見ると、真紀は俺の方にすっと右手を差し出している。



「……ん、勇太」

「あーわかったよ!」



 俺は勢いで真紀の手を掴んだ。

 まるで別の生き物のような柔らかさと、冷たい体温。俺が握ると、真紀はきゅっと握り返してくる。


 何故かわからないが、気恥ずかしさのようなものが胸の内側からあふれてくる。



「……これでいいか」


 ピクピクしていたラーベの挙動が止まり、目のランプが点灯する。そして、腕のアームを上にあげ、首を横にグイングインと振った。


「はあ~~~~~」


 ……ロボットにここまで露骨で感情的な溜息を吐かれたのは、おそらく俺たちが初めてじゃないだろうか。


「なんだよ、不満でもあるの? てかもう離していい?」

「まだ全然デス。一割も充電できていませんよ」

「……じゃあどうするんだよ」



 そう俺が効くと、ラーベは上げていたアームをビシッと俺の方に向ける。



「そこは!恋人つなぎでしょうが!!!」

「はあ!? 何言ってんのお前!?」



 なんかもうこいつ普通に元気になってね?


 てか、え? 恋人つなぎ?!


 ってあれだよな、指を絡めるやつで……



「そんなのできるわけ……」

「できるわけないなんて言いませんヨネ? 恋愛感情を持たないならたとえ恋人つなぎをしても何も問題ないはずですが」

「それは……」



 違う! なんか論理的に負けている気がするが、騙されてるだけだ!


 そう俺の頭の中で本能が叫んでいるが、なんとなくやらなきゃ帰してくれなさそうな気がすると俺は感じ取っていた。


 真紀の方を見る。真紀は俺の顔から目を背けている。



「えっと、真紀、その、いいか?」

「……」


 真紀は答えない。俺の中で胸を締め付けるような感情が渦を巻いている。


「い、嫌ならやらない!……から」



 そう言って俺が手の力を緩めると、真紀は強く握り俺の手を離さない、


 心臓が強く跳ねあがる。何か話さなきゃと思うが、言葉が喉を通らない。俺よりも先に、真紀がおずおずと口を開く。



「別に、嫌じゃない、けど……」



 その時俺は初めて気づいた。真紀の耳が真っ赤に染まっていることを。



「そ、そうか」

「ん」



 俺たちはゆっくりと右手の指と指を絡めていく。一本一本、正しい組み方を探すように。


 真紀の指が俺の指の隙間を通り、手の甲にピタリとくっつく。俺は今真紀の手を全体で感じているのだと、そういう気持ち悪い想像ばかり浮かんでくる。


 ただ手を組んでいるだけだというのに、なにがさっきと違うんだ。


 やばい、真紀の方を見れない。俺は今どんな顔をしてるんだ。


 鼓動の音が耳の奥まで聞こえてくる。この音が手を伝って真紀に聞こえてるんじゃないかって心配になるくらいにうるさい。



「うおおおおお! 感情指数上昇! α波検知! 来た来た来た~~エネルギー変換変換変換!」


 ……いや、このロボの方がうるさかったわ。


「ふぅ……ありがとうございます。助かりました、ここまでの輸送でエネルギーがギリギリだったんです」

「ああそうかよ! じゃあもう十分だな! 手、離すぞ!」




「あ、いえ。お二人ともそのまま手を繋いで帰って下さい」



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幼馴染と俺だけの学校に突如転校してきたラブコメの波動をエネルギーに変換するロボ 骨ザリガニ @zarigani-333

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