幼馴染と俺だけの学校に突如転校してきたラブコメの波動をエネルギーに変換するロボ
仁香荷カニ
第1話 突然の転校生
都会から遠く離れた場所にある島、ハナレ島。ここにはありとあらゆるものが無い。
行き交う人々も、行列のできるお店も、話題のテーマパークも、最新鋭の機械も、流行りの雑誌が置いてあるコンビニも、Wi-Fiもない。
ほんとに何にもない。でも、虫とか魚はいっぱいいる。あと学校。
カーテンがシャッと開かれる音と共に、燦燦と煌めく太陽の光が部屋の中に容赦なく入りこむ。まどろむ俺の瞼の隙間を縫って、明るい光が突き刺さる。
くそ、せっかくきもちよくねてたのに……
「おい、だれだあけたの……」
俺は目をこすり枕元に立つ犯人の姿を捉える。
そこに立っていたのは、真っ白の少女。
「おはよ、勇太」
「……なんだよ、真紀かよ」
その真っ白の少女は幼馴染の白瀬真紀だった。肩に少しかかる程度の髪に整った顔。同年代の他の女子をあまり見たことはないが、こいつは美少女の部類に入るのだろう。その身には春先だというのに夏用の白い制服を身に着けていて……制服?
ああ、今日で春休みは終わりか……
そう理解した俺は現実から逃げるため再び布団にもぐる。
「起きなよ勇太。今日から学校だよ? それに起きないと、”来る”よ」
「うううそれもいやだけど……」
そうやってうんうん布団の中で唸っていると、遠くからどたどたと強い足音が聞こえてくる。
うわあ、来た……。
「起きろおおおおおおおゆうたああああ!真紀ちゃんが来てるでしょうがあああ!」
「うるせーぞ親父……」
とてつもない轟音と共にエプロン姿の親父が部屋のドアを開ける。
かつてない最悪の目覚めだ。
「ほら起きて着替えて朝ごはん! 真紀ちゃんの分もあるから食べてってねー」
「いつもありがとうございます」
「はあい~~~~」
親父は真紀の返事を聞きながら去っていく。音を塊にしたような人だといつもながらに思う。
「勇太、起きないとまた来るよ」
「はあ……わかった、起きるよちゃんと」
俺は渋々起き、朝ごはんを食べて着替えると真紀と共に家を出る。
行先はもちろん、ハナレ中学校。
俺と真紀は並んで道を歩く。いつもの光景だ。
舗装のされていない通学路は俺たち二人以外通る人はいない。誰か見かけるとしたら、畑仕事をしている爺さん婆さんか、大きな欠伸をする駐在さんくらいだ。
「うう~さむ……」
春先の潮風が運ぶ冷たい空気は、学ランを着ていても少し寒く感じる。まだまだ冬の気配が消えていないっていうのに、真紀は平然と半そでを着ている。
「真紀のそれ寒くねえの?」
「ん、ちょっとひんやりするね」
「……」
潮風に当てられながら真紀は薄く笑う。こいつは多分、母親の腹の中に寒いという感情を置いてきたのだろう。
「そうだ勇太、今日、転校生がくるみたい」
「はあ、転校生? そんなもの好きいるんだな」
ハナレ中学は全校生徒二人の超限界学校だ。当然、その生徒は俺と真紀。
そもそもが人口三桁の島。住人全員が顔見知りでプライバシーやセキュリティといった言葉を導入していない場所だ。転校生どころか来訪者の存在が珍しい。
俺は口ではぶっきらぼうに反応したが、内心その転校生のことをとても楽しみにしていた。
「男子かなー女子かなー。俺的には男の方が嬉しいんだけど」
「ん、勇太……」
前を歩く真紀は唐突に振り返り、手を差し出した。
「んあ? なんだ真紀、なんか欲しいの?」
この頃の真紀がする不思議動作の一つだ。意図がいまいちわからないから反応に困る。
俺が何もしていないでいると、真紀は差し出した手を降ろし、顔をプイッと背ける。
「なんでもない」
「あっそうすか」
~~~~~~
俺たち二人が教室で待っていると、スーツを着たメガネの女性が入ってくる。
担任である笹倉先生だ。いつもはジャージ着てるくせに、今日は新学期だからかキメてきている。
「井村勇太さん、白瀬真紀さん、おはよう!そして、進学おめでとう二人とも! 今日から中学三年生だ!」
「ありがとうございます」
「うーっす……」
「よし!始業式終了!」
そう言うと笹倉先生はノリノリでスーツを脱ぎ捨て、下に着ていたジャージ姿を現す。
何なんだこの人……ていうか今の始業式だったんだ。
「中三の教材はまた後日渡すとして、今日はもっと重大な発表がある!それはだな……なんとこの学校に転校生が来ました!」
ぱちぱちぱちと一人で拍手する笹倉先生。朝からこのテンションでいられるのは正直尊敬する。
「先生~転校生は男ですか女ですか~」
「その、どこから来た方なんですか?」
「まあまて二人とも。気になる気持ちはわかる。だが、ここは本人に答えてもらった方がいいだろう。さ、入ってきて~」
笹倉先生がそう声をかけると、教室の扉がゆっくりと開く。
「……え」
キャルキャルキャルキャル……
キャタピラの駆動音を響かせながら入って来たのは、あからさまな人工物。
俺たちは目を疑った。その人工物は小学生が描いたようなロボットの見た目をしていながら、この学校の制服を身にまとっていたのだから。
「こちら、転校生のロボくんです!」
「ジジ……ラブコメの波動をエネルギーに変換するロボです」
「「ラブコメの波動をエネルギーに変換するロボ!?」」
――――――――――――――
ロボットの見た目は某歴史の教科書に出てきそうなロボの足がキャタピラになってるやつって感じです。
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