滑舌は時に恐ろしい

✎ܚ

盛り上がるよね…

大学1年生の"ヒロ"は、行きつけのファミリーレストランがありました。

行きつけと言うと格好いい言い回しですが、言わば溜まり場のような場所になっており、大学のすぐ側にあるため、友人と入り浸っては、たわいもない話で盛り上がりました。


この日も、友人とファミリーレストランへ行くことになりました。

5人がぞろぞろと向かいます。

『なんか今日のヒロ、派手じゃない?』

『ほんとだ、ジンベイザメみたい』

「やめろよ!これはドット柄だわ」

そんなポップな装いとは裏腹に、気分は乗りませんでした。


(今日は手持ちが無いんだよな…)


ほぼ帰りの電車賃しかお金がないヒロは、本来なら断って帰るべきところ。

だけど、今日は"先輩"も一緒だ。


その先輩はよくご馳走してくれるので、ラッキーだと思いました。

バイトの給料日前であるヒロは、ちゃっかり先輩にご馳走してもらおうという算段です。


『おい、みんな、言っとくけど今日は奢らねーからな?』


「え…」


出鼻をくじかれました。

あらかじめ言われたからには仕方ありません。


オーダーを聞かれ、それぞれ注文を言っていくなか、ヒロはお金がないので、


「俺は、カネェネーッス」


と答えました。店員さんの話もろくに聞かず、やれ可愛い子が居た、やれ彼女が欲しいだの盛り上がりました。


(仕方ない、お腹は減ってるが今日は何も食べずやり過ごすか…)


しばらく経ち、続々と料理が運ばれてきます。


『カルボナーラのお客様~』

『はい』


『カレーライスのお客様~』


『え?』

『誰?』


『誰も注文してないんだけど…』



『いいえ、確かそちらのドット柄の服の男性から、カレーライスとご注文いただきましたよ』



ヒロは歩いて帰る時間を計算して、だんだんと顔色が悪くなっていった。




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滑舌は時に恐ろしい ✎ܚ @mar1ee11

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