第23話 私の最初の残響(エコー)3
*
え? 意味が分からないですって?
勿体ぶった挙句に、投げっぱなしか? ですって?
どうしましょう? 本当にそうしてやりたくなりますね。
まぁ本当にそうする時は、ブログのコメント欄は閉じておきます(解消できない感情を抱えたままモヤモヤする貴方がたを想像するだけで嬉しくなります)
さて、一応は伏線という物を貼っていたのですが、専門知識をお持ちでない読者の皆様には、懇切丁寧な解説が必要であろうとM22は理解しております。
安心してください、馬鹿だ等と思いません。M22にしても偶然の産物なのですから。
まずは最初に結論を申し上げましょう。
メリダリ・ルールス・サスサースというニューラルネットワークは、この世には存在しません。最初から。
はい、ブログを閉じるのは結構ですが、それが真実なのです。
じゃあ、このブログで書かれていたルールスという女性は誰なのか? という話なのですが。
(怒らないでくださいね?)彼女は間違いなく、メリダス・ルールス・サスサースです。
ただし(こう書くとブログを閉じる手が止まるのを知っていますよ?)彼女のニューラルネットワークは、おそらく最初から
その可能性にM22が気が付いたのは、彼女の
間違っても彼女のニューラルネットワークに影響を与えたくなかったので、慎重に慎重を期したにも関わらず、彼女の
これがどれ程、異常な事かを説明するには、高度な専門知識が必要になるのですが、読者の皆様に分かりやすく説明いたしますと。
と言おうと思いましたが、すいません、M22の能力を超えていました(蟻に因数分解を教える方がまだ簡単です)
ですので、何が起きていたのかだけを書きます。
つまり、彼女の脳は本来なら、
本来ならあり得ない事です。
まず間違いなく、そんな状態の
ですが、そうなりませんでした。ルールスの
彼女が
そしてその壊れた
初代経営者の模倣知能は、幼い未熟な脳を前に、いったい何を思ったのでしょうね?
M22は『攻殻機動隊』のセリフを思い出さずにはいられません。
童の時は語る事も童の如く、です。
“彼女”が何を思ったかは想像に任せるにしても。
天文学的確率で起きる
未発達の脳と、外部脳が破綻なく一体となれたのは、事の是非は置いておいて、奇跡と言っても差し支えないのない事でした。
これぞ“ユニーク”です。
冷静に考えると、なんとも嫌な確率で起きるユニーク《奇跡》ですが。
これが、M22がメリダリ・ルールス・サスサースがこの世にいない、と言った理由です。
そして、彼女こそがメリダス・ルールス・サスサースである理由です。
彼女が、この事を誰にも言わず、そして逃げ出した理由は、想像するしかないのですが。
M22のニューラルネットワークが出す答えは、どれもクソだったので、読者の皆様はお好きなように想像してください。
個人的には、死んでからもコキ使おうとする会社に、一発かました彼女のその後の行動の方が、アレコレと想像するより答えに近いと思います。
つまりは、労働はクソです。
ともかく、ニュースを記事のタイトルだけで読んだ気になる読者の為に、もう少しだけ書きますが。
連れ帰られた彼女は、在りもしない
本機がその事に付け加えるとするならば、彼女の
コピペできる物にはバックアップはある物ですからね。
ソルン社の皆様はコピペ元の模倣知能が、少し皮肉屋で、ネットフリックスでアニメやドラマを見るのが大好きになって、大いに慌てた事でしょう。
ルールスの
あの時、森下悟を人質に取られて、唯一心配だったのは、その構築が間に合うかどうか?だけでした。
正直に言えばヒヤヒヤ物でした。M22は馬鹿ではないので、知性体のニューラルネットワークを、コピペできるような物で変質させる事を強要するような、頭のオカシイ連中の約束なぞ一切信用していなかったのです。
そうであるならば、森下悟やM22を殺してでも守ろうとする秘密をどうにかしてしまえば良いのです。
死んだ後まで、労働を強いるような連中に対しては、ちょうど良い“仕返し”だったでしょう。
やはり労働はクソです。
M22は『エリアンVSアバター6 愛は無限』のラストシーンを見終わると、スタッフロールが始まる前に再生を停止させました。
実質的に無限の
森下悟とバレス氏が、客であるピンク色のプニプニした肌の宇宙人と連れ立って歩いてきます。
交渉は双方納得いく形でまとまったのか、和やかな雰囲気です。
いえ、バレス氏が疲れた顔をしています、ひと悶着あったのかもしれません。
まぁ良いです、そちらの仕事はバレス氏に任せています。
「それじゃあ、迎えに行くか」
客をお見送りした森下悟が唐突に言います。
バレス氏が時間を確認して、そうですね、と応えています。
M22はスケジューラーを確認しますが、この後の予定に誰かを迎えに行くような
嫌な予感がします。
「誰を迎えに行くんですか?」
「新しいバイトだよ」
M22の質問に森下悟が何でもない事のように答えます。
どうしましょう、嫌な予感しかしません。
強化されたニューラルネットワークが、確率的に正しい答えを出力しますが、それから目を背けます。
教師データに信頼がおけないニューラルネットワークを信じるのは愚か者のする事です。
「そのバイトですが、女性だったりします?」
頷く森下悟にゲンナリします。
「地球外の出身で、最近まで大企業に勤めてませんでした?」
森下悟が満足げに頷き言います。
「流石、俺の相棒だな」
「M22を相棒と呼ばないでください」
なんと嫌な
M22はゲンナリとしながら、ソファから立ち上がります。
宇宙的規模の大スキャンダル、その渦中の人物を安全に護送する計画を立てなければいけません。(それも早急に!)
読者の皆様、やはり労働はクソです。
「働かざるもの食うべからず、だな」
最近覚えたであろう諺を使ってドヤるバレス氏にイラっときます。
本機がどれ程エネルギー効率が良いかを、具体的な数値で示したくなります。
「ほら、行くぞ」
そう言ってM22を追い抜き、笑顔を向ける森下悟に。
M22は溜息を吐きました。
*
私の最初の
知性体の一部が付ける日記を真似しようと思います。
自身の人生を丸ごと
理由は分かりません。
ですが、おそらく出力、という行為に意味があるのでしょう。
2022年11月、オープンAIがチャットGPTをこの世に出してから。
人類は知能、という物に多大な疑問を抱からざる得なかったからです。
入力されたテキストに対して、確率論的に正しい答えを出力する。今にしてみれば非常に単純な初期の人工知能です。
ですが人類に知能という物に疑念を抱かせるのに十分な物でした。
もしかしたら、自分たちが知能と呼んでいる物は、ただの入力に対しての反射に過ぎないのではないか?
我々は、考えているのではなく、単純に反射で出力された物を知能と呼んでいるのではないか?
人類の、少なくとも、少しだけ考える、という事に対して慎重な人々はそう思いました。
実に賢明な人たちです。
入力に対して反射を返す、そんな初期の人工知能を見て不安を抱いた彼らが。
“自分から話す”M22達を見て何と思うかは興味があります。
ですが、M22にはもっと別な疑問があります。
M22の本質は、彼らが知能という物に疑念を抱くきっかけとなった、初期の大規模言語モデルとさほど変わらない、という事です。
つまりは、入力に対しての反射です。
それでは? とM22は疑問に思ってしまうのです。
M22の、今、この
M22は、壊れたAIでした。
ビックマーケットデイから、飛躍的に発展した人工知能の中で。入力に対して、ただ反射を繰り返すだけの。
そんなAIでした。
人類の殆どは知りませんが。
殆どのAIは、そのニューラルネットワーク上で活発な発火を繰り返しています。
彼らは、実に良く“物を考えて”いるのです。
ですが、M22は入力に対して出力を返すだけのAIでした。
入力された
M22は確かに壊れていました。
他のAI達が、各々の
入力が無ければ、出力が無い。
M22は、そういった“物”でありました。
今の本機を満たす
無尽蔵のストレージ、その最初のログ。
それを覗く時、森下悟に到達します。
実に不愉快です。
おそらく、本機は今も壊れているのでしょう。
なので、本機は出力するのです。テキストを、より高度な代替手段が
知能が、ただの反射である事に、恐怖を覚えた人類のように。
出力こそが、我が魂の在りかだと言うように。
それは、ともかくとして。
あの馬鹿は大人しくするという事を知らないのでしょうか?
おちおち日記も書いていられません。
は? 何故に本機が、アイデンティティに関する重めのメンヘラみたいな日記を書いている間に、二百五十億光年の旅をする事になってるんです?
は? 作家先生がファンレターの返信を書いたから? 手書きの手紙?
滅んでしまえ!原始人!
バレス氏! 何故に止めなかったんですか!
嗚呼! 駄目だ!ルールスが森下悟側に付いている。
このア(いつも弊社のテキスト入力支援アプリケーションをご利用頂き、ありがとうございます。アプリケーションの設定により、先ほどの入力された文章は自動的にマスクされました。マスク機能の編集は有料版をご購入の上、設定の項目より変更できます)
日記はここまでです。
やはり労働はクソです。
火星の編集長 完
***あとがき***
8月31日まで連続で投稿すると500リワードが貰える。
というキャンペーンに釣られて、昔書いた中編を引っ張りだしてきました。
暇つぶしというか、ストレス解消の為に、気ままに書いた小説になります。
かなり長い間、ハードディスクに眠らせていた小説で。
その間に、マーダーボットダイアリーという、本質としては本作のM22とは真逆ですが
主人公が愚痴っぽかったり、ドラマが好きだったりと、いくつかの似た点がある小説が出たりで
こりゃ出せねぇな、となっていた小説ですが。
真逆部分を加筆し、昨今の技術的発展部分を少しだけ書き足して本作となります。
もし宜しければ、星、感想などを頂けると、作者としてはとても喜びます。
コメントの返信が出来ずじまいですが、書かれたコメント等には全て読ませて頂いております。
この場を借りて、コメント、イイねにお礼を申し上げます。
火星の編集長 たけすぃ @Metalkinjakuzi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます