後日談

8/31【土】晴れ


昨日生まれて初めて救急車に乗った。


病院に着いて検査を受けていると、お父さんとお母さんが息を切らしながらボクのところに来た。


2人ともよかったよかったと何回も言いながら、ボクを抱きしめた。


そのあと警察の人が来て、いろんなことを聞かれた。


ボクからも水谷みずたにさんのことを聞くと、たいしたケガもなく数日入院する程度らしい。


だけど、水谷さんのお母さんは意識が無くてどうなるかわからないって。


なんか花が生えてなかったか聞くと、警察の人は不思議そうになにも生えてなかったと答えた。


もう花が消えてしまったことに安心したボクは、病院の人に教えてもらった水谷さんの病室に向かった。


病室にはパジャマ姿の水谷さんと、ボク達を助けてくれたおばあちゃんの姿があった。


ボクはおばあちゃんにあのとき言えなかったお礼を言った。


ニコニコとおばあちゃんは無事で良かったねぇと言ってくれた。


「あの、若木わかぎくん……」とおずおずと水谷さんがボクに話しかけてきた。


「ありがとう、助けてくれて」

「お礼なんて言わないでよ、ボクのせいでこうなったようなものだし。ごめんね、余計なことしちゃって……」

「ううん、そんなことない。若木くんは純粋に優しさであのタネを渡してくれたんだってわかってる。結局お母さんが暴走して若木くんまで巻き込んでむしろ謝るのは私のほうだよ」


今回の事件は水谷さんが起こしたものじゃないって知ってちょっと安心した。


でも、水谷さんの気持ちを考えると複雑だ。


「2人はいいお友達なのね」


横からおばあちゃんがボク達に話しかけてきた。


「正直今までは友達っていうか単なるクラスメイト……って思ってたけどこれからは友達になれたらって思ってます」


ボクはおばあちゃんにそう答えながら、水谷さんの顔をまっすぐ見つめる。


水谷さんは一瞬ポカンとした表情をしたけど徐々に顔がほころんでいく。


「……うん、よろしくね」


初めて見る心からの笑顔。


内心ドキッとしながら、ボクも釣られて笑顔になった。


さきちゃん良かったらだけど、おばあちゃんのとこに来るかい?」

「え⁉いいんですか!でも……」


言葉を遮るようにおばあちゃんが水谷さんを抱きしめた。


「寂しい老人のわがままだから気にしなくていいのよ?あなたはとってもいい子だしね」


優しい声で水谷さんの頭をなでるおばあちゃん。


「……ありがとう」


水谷さんの目と声が涙に濡れる。


「それじゃあまた学校でね」


ボクは静かに言葉を残して、抱き合う2人の病室を後にした。


とりあえずボクは全身どこも異常はなく、その日のうちに退院できた。


けっこうケガしてたと思ってたけど、不思議なことに全然体は無事だった。


でもその疑問はその日の夜に解明された。


今回の事件の話を聞いたおじいちゃんが電話をかけてきた。


ずっとボクのことを心配するような内容だったけど、


「そういえばみのるが遊びにきたあとに不思議なことがあってなぁ」


と気になることを話し始めた。


聞くとおじいちゃんの畑に奇妙な花が咲いたというのだ。


ボクはおじいちゃんの家に行ったときタネを落としてしまっていた。


畑で転んだとき恐らくタネが土の上に落ちてしまってたんだろう。


「おじいちゃん畑でなんか考えながら水まいた?」

「前にも言ったけどよぉ、おじいちゃんいつもみのるのように元気で健康に、あと美味しそうに食べてくれるみのるの笑顔を思い浮かべながら育てているでよぉ」


……ボクがこうやって無事でいられたのはおじいちゃんの“お願い”のおかげだったんだ。


「おじいちゃん、ありがとね」

「ん?おじいちゃんなにかしたかの?」

「はは、気にしないで。あとおばあちゃんにもよろしく言っておいてね、それじゃあバイバイ」


受話器を置いて、ボクは軽く背伸びをした。


明日休んで明後日から学校だ。


宿題は終わらせたし、ゆっくり休もう。


……いや待てよ。


ここ数日ドタバタして忘れていた。


自由研究が中途半端だし、読書感想文も手付かずだった。


ハァ~っと深いため息が漏れる。


こんな時タネがあったら……。


まあでも散々お世話になったしなぁ。


最後ぐらいは自分の力で成し遂げるか。


ありがとう、そしてさようなら。


謎の植物――







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23日間、謎の植物観察日記 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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