後編『ちきう、エモ過ぎて草……』

 宇宙人らによる、水蒸気散布と『感情=ヨウ化銀爆弾』により、地球人は『感情』のシャワーを浴びた。


 そして地球人は、すくすくと感情人間に育っていった。


「これが、僕の気持ちです」

 Aがそう言った。

「いざそう言われてみると……困っちゃう。今日のところは、返事、待ってもらってもいいかな?」

 と、B子。

「ちょっと待ったぁー! B子、実はAは、明日遠くの街へ行ってしまうの。しばらくは、帰って来れないでしょうね。だから今、返事をするべき。一生、後悔するかもよ?」

 C子が、どこからともなく飛び出てきて、そう主張する。

「そ、そうだったの!? 知らなかったわ。でも、どうしよう、私、緊張しちゃって、ちゃんとした返事ができるかどうか……」

 B子は不安そうだ。

「ねぇB子、厳しいことを言うようだけど……その程度の覚悟で、ここにノコノコやってきたってわけ?」

 C子は、B子を問い詰める。

「ち、違うわよ! 私だって、Aのことが!!!」

 思わず、声を荒げるB子。

「そっか……やっぱり、そういうことね。そのまま、言っちゃいなさいよ」

 C子はそう言って、何かを悟ったような優しい眼差しでBを見守る。


 すると、B子はAに駆け寄り……


 顔を近づけると……


\ズキュゥゥゥン!/


 口付けをした。 


「さすがB子、私にできないことを平然とやってのける……」

 C子は、ぼそっとそう呟くと、静かにその場を去って行った。

 AとB子は、口付けを交わした後も夢中になって見つめ合っているので、C子の不在に気づいていない。

「B子、それが君の返事かい?」

「ええ、そうよ。A、私も一緒に連れて行って? 私、家出する! 家族と縁を切ることだっていとわないわ!」

「僕は嬉しいけど……B子、それはダメだよ」

「どうして? こんなにあなたを愛しているのに?」

「家族も、大事にしなくちゃあならない。それに、僕は必ず、一人前になってこの街に戻ってくる。その時は……結婚しよう」

「わかったわ、A。私、ずっと待ってる!」

 AとB子は、固く誓い合った。


——この惑星の住人は、感情を支配した。


 地球人は感情を得た結果、争うどころか、愛し合い、結束し、喜びを分かち合うことを覚えた。感情をうまく平和利用して、ますます地球人文明は発展した。そして数年後、例の宇宙人が、再び宇宙船に乗って地球へやってきたが……


斥候せっこうドローンによる調査の結果、ちきう人は世界を複数の国に分け、ありとあらゆる武器を配備し、大量の軍隊を保有しているらしい。我々の期待通り、これからとんでもない大戦争が起こるに違いないぞ」

「そのようだな。このままもう少し、ちきう人たちが潰し合うのを待とう」


 呑気な、宇宙人たち。


「いや、ちょっと待て……地上から、何かがこっちへ向かってくるぞ?」

「なんだ、使いの者か? 姿を見せただけで降伏か、やけに早いな」


 数え切れないほどの、戦闘機や、軍艦。

 それらは、あっという間に、宇宙人の巨大宇宙船を取り囲んだ。

 戦闘機に積まれた機関銃や、軍艦の甲板から伸びる黒光りする大筒の先端は、宇宙船の方を向いている。

 なんと、地球人の持つ武器や軍隊は、彼ら同士で争うためのものではなく、地球の敵と戦うためのものだった。


「なるほど……ちきう人たちめ、我々に歯向かうとは、愚かな奴らよ。返り討ちにしてやろう!」

「ああ。では……これでもくらえ! 放射状スーパーレーザーだ!!」


 細長く眩い光線が、四方八方に伸びる。


\ちゅどーーーん!!!!/

 

 地球軍の約半数が、一瞬にして、雲散霧消うんさんむしょうした。


「はっはっはっ! ひとたまりも無いだろう!」

「そうだとも! ちきう人め、今ごろ腰を抜かしていることだろう!」

 ご機嫌な、宇宙人たち。


 が、彼らの思い通りにはいかなかった。


「皆の者、怯むでない! 仲間の無念を、晴らそうぞ!」

「総督、了解した! いくぞ、我が友の仇ィ!!!!」

 味方の多くを失った彼らの士気は、むしろ上がった。

 地球軍は、宇宙船に対し、決死の総攻撃を仕掛けた。

 

「奴ら、気は確かか!? ち、ちきう人たちめ、感情を……利用してやがる!!」

「あのレーザーを受けてもなお、戦意喪失しないとは……ええい、小賢しい! 虫ケラどもめ、皆殺しにしてくれるわ!」

 やや焦りつつ、応戦する宇宙人。


 地球軍は、大きな被害を出しながらも……


 一発の魚雷を、巨大宇宙船の動力炉リアクターへと打ち込むことに成功した。


「まずい、連鎖反応が起きるぞ!!!!」

「はぁ。ちきう、エモ過ぎて草……枯れるわ」


 宇宙船は、宇宙の藻屑もくずとなった。


〈完〉

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ちきう、エモ過ぎて草 加賀倉 創作 @sousakukagakura

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