ちきう、エモ過ぎて草

加賀倉 創作【書く精】

前編『ちきう、ドライ過ぎて草』

——ここは、感情欠落人間の蔓延はびこる地球。


「あの……それはあなたの感想に過ぎませんよね?」

 住人Aがそう言った。

「言われてみれば、せやなぁ。今日のところはあんたの勝ちや。対ありでした」

 と、住人B。

「おいちょっと待ってくれ。 Bよ、Aの主張は詭弁きべんではないか? まだ、この話し合いは続けるべきだ」

 住人Cが、そう主張する。

「おひょー! ほんまやほんまや、騙されるとこやったわ。まぁどっちみち、後でドタマぶち抜こうか思っててんけどな!」

 と、住人B。

「ドタマをぶち抜く? Bよ、正気か? その程度の志でこの取引の場に望んだのか?」

 住人Cは、住人Bを問い詰める。

「おう、せやで? その方が手っ取り早いやろ?」

 住人Bは、悪びれる様子がない。

「そうか、つまりは、こういうことだな?」

 住人Cは拳銃を取り出し……

 \バキュゥン!/

 住人Bの脳天に一発浴びせる。

「おいC、何をする。ルール違反だぞ?」

 住人Aが、住人Cに抗議する。

「詭弁家よ……それはお前の感想に過ぎないよな?」

 住人Cは、銃口を今度は住人Aに向け……

\バキュゥンバキュゥン!/ \バババババキュゥン!!/

 彼を蜂の巣にしてしまい、その場をスタスタと立ち去った。


——この惑星の住人は、感情というものを持たない。


 病気をしても……

「そんなものは自然の摂理。ウイルスや菌とは共生すべきだ」


 人が亡くなっても……

「寿命か。そもそも人間は長く生き過ぎている。肉体の耐用年数は、とうの昔に、超えていた」


 食べ物を食べても……

「美味いかどうかだとか、味だとかはどうでもいい。ただの餌、燃料だ」


 などと言う。


 だが、感情が無いおかげで、争いの方もあっさりしていた。

 激しく人を憎むこともない。

 共感力にも欠けている。

 そのため、徒党を組んで大勢同士での争いが起きることは、まずなかった。


——そんな地球に、ある時、巨大宇宙船がやって来た。


 地球のそばに停泊する宇宙船。

 その中には…… 

 感情と論理の両方を兼ね備えた宇宙人が乗っていた。


斥候せっこうドローンによる調査の結果、人というのは、感情の『か』の字も無いような奴らだとわかった。まだこの宇宙に、『感情』を持たない生物がいるとは、驚いたなあ」

「ちきう、ドライ過ぎて草。ウイルスのバラ撒き甲斐があるというものだ。にしても、我々は本当に運が良い」

 ヒューマノイド型宇宙人の二人組が、そう言った。


 その昔、彼らの母星は、隕石によって『感情』という名のウイルスがもたらされたせいで、妬み、恐れ、怒り、憎み、苦しみ、争うようになった。元々仲間どうしだったはずの者たちが、殺し合い、復讐が復讐を呼び、ついには惑星規模の大戦争になった。戦争をなんとか乗り越えて母星は再統一されたものの、その後も争いの歴史は繰り返された。そういうわけで、争いを避けようと、別な惑星へ移住する者も出てきたのである。


「侵略計画はこうだ。まず、宇宙船で地球全体をぐるっと回って、水蒸気散布を行う。次に、私の開発した『感情=ヨウ化銀爆弾』を、地上からそう離れていない、雲ができるような高さの空に打ち込む。すると、氷の粒と構造が非常に似ている感情=ヨウ化銀化合物が、水蒸気を含んだ大気中の塵と次々とぶつかり、雪だるま式に大きくなっていく。そうして、空気よりも重い粒になった時点で、『感情の雨』としてちきう全土に降り注ぐのだ。これを浴びた生物は、感情に目覚める。もちろん、他者に悪影響を及ぼすような負の感情も芽生える。そして、いずれ争い、殺し合うようになり、破滅する。弱ったところで、我々が漁夫の利を得る、というわけだ」

「フフフ、完璧な計画よ。星が手に入れられるのが、楽しみだなあ」


 こうして、『感情』という名のウイルスが、地球にばら撒かれた。


〈後編『ちきう、エモ過ぎて草……』に続く。〉

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