自燈明
鮎田 凪
”ジシン”を導として
気づけば、あなたがいなければ自分が分からなくなるような人生だった。
好きな食べ物も、嫌いな思想も、すべてあなたに依っていた。
思春期を少し過ぎてからか、現状が嫌になり始めた。
でも変わらなかった。
僕は”ジシン”を求めていた。
あるとき僕は暗い道を歩き始めた。
気が触れたかのようにも思えたし、焦燥に駆られたかのようにも思える不思議な体験だった。
後ろにいるであろうあの子に自分の後姿を見せるかのように歩いた。
暗くて、明かりもない。
怖い。苦しい。帰りたい。
でも逃げたらだめだ。
小さな決意を抱くと、辺りが微かに明るくなる。
燃えていたのだ。自分の体が。
不思議と熱くなく、心地よかった。
強くなれた気がした。
強く成りたかったのだ。
この光を導に彼女が歩みを進められれば、それでよかった。
二時間ほどが経っただろうか。
歩いてきた道はもう見えない。
彼女の気配も......ない。
悪寒がする。
自分の中から何かが抜けていくような感覚。
そうか、僕は彼女に貰った余剰な”自信”に生かされていただけだったのだ。
自覚してしまった。
その瞬間、炎は弱まり、陽炎とともに身体までもが揺らぎ削れる。
火は燃え続けた。
僕の身体を削りながら。
笑うしかなかった。
虚勢を張り続けた。
僕自身は役立たずでしかなくて、誰かを導くなんて出過ぎた真似などすべきではなかったのだ。
あれから一時間ほど経っただろうか。
歩くしかなかった。
目印などなくても。
物語のヒーローならそうするだろうし、彼女ならそうする。
道しるべは......
ちっぽけな”ジシン”だ。
彼女を導くために。
火が遠のいていく。
それほどまでに全力で歩みを進めているのだろうか。
彼には、光り輝くモノがあった。
私にはそう思えた。
だから一緒にいたいと思えたのだ。
私を導くと言ってくれた時はうれしかった。
歩き始めてから三時間が経ったか、少し後を追うように歩いたのについに炎が見えないほどの遠のいてしまった。
早く追いつけるように、私は歩くのを速めた。
自燈明 鮎田 凪 @nagi-ay
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