第3話 大自然の掟とたった一つの例外

『新人』が来るときはオマケも付いてくる。

これは一種の決まりだった。


一応のところ病人を隔離施設に送るという体裁を保っているとはいえ、現実の話をするなら殺人鬼の群れに無防備なまま送り込むという行為をしているわけで。

この行為に対する批判への回答として補給物資や生活用品を一緒に送ることによって新人を受け入れやすくしているのだ。


しかし、最近の補給物資はもっぱら椅子であった。

単純に殺人鬼の輸送数が減ったのもあるが、パラシュートを付けてそのまま新人と一緒に放り出せば済むという手軽さからそれが好まれるようになったのだ。


しかし、そうなれば新人を歓迎する者は減り、代わりに欲する者が現れる。


椅子と人と殺人を。




「うおおお!!!椅子!イス!いす!」


地面にヒビを入れる勢いで大地を蹴りながら、落下地点に向かって真っ直ぐ走る男がいた。

瞳は爛々と血走っており、仮に己の進行方向に仔猫が飛び出してきたとしても迷いなく踏み潰してしまうだろう。


「材料が来るぞぉぉぉ!!革!鉄!布!骨!皮!!きっとみんながお茶をしながら座れたら喜ぶだろう!!椅子を、作ろう!!」




「良かった。ちょうど染料を切らしていたの」


まるで風のように人々の隙間をすり抜けながら、落下地点に向かって滑るように走る女がいた。

瞳は静かに閉じられており、仮に己の進行方向に仔猫がいたとしても何事もなかったように通り過ぎてしまうだろう。


「誰かが髪を染めたい時に染料がなければがっかりさせてしまうもの。素敵な染料を作りましょう」



二人の殺人鬼はほぼ同時に別々の路地から飛び出した。

その標的は今まさに拘束が外れパラシュートから這い出してきた獲物だった。



親からはぐれた仔猫は大自然の殺意から身を守る術を持たない。



彼が殺人鬼たちを視界に捉える前に、既に二人は自分の武器の射程範囲内に接近していた。

まだ彼が死んでいない理由は単純に二人が獲物の取り合いをしているからに過ぎない。

それも、彼が二人を視界の端に入れるまでの話。

数秒にも満たないうちに二人の意見は合致し、再び殺意が向けられる。


───瞬間、紅い猫が三人の間をすり抜けた。


危機感のない新人はその残像を目で追い───、二人の殺人鬼はその場から逃げるように飛び退いた。

そして先程まで二人の頭部があった場所に死が通り抜けた。


「───駄目だよ。私はこの子に、興味がある」


親からはぐれた仔猫が生き残る方法はただ一つ。

心優しき飼い主に拾われること。


キュリアスが二人の殺人鬼の前に立ちはだかった。

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デストピア~殺人鬼しかいない町~ 異界ラマ教 @rawakyou

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