(3)

 何度も何度も何度も練習試合をやらされた。

 全て僕の勝ちだった。

 そして、そのほとんどで、試合時間の半分も過ぎない内の一本勝ちだった。

 けれど……教官や研究者達は、ずっと僕の頭に装着された簡易式の脳波計のモニタを見ていた。

 審判役の教官以外は……誰も、練習試合の結果や内容には関心を持っていない。

「あくまでパターンの一致です。状況証拠以上のものではない」

「だが、一致はしているのだろう?」

「だから、私は『パターンの一致』と言っている。喩えるなら、数字でも何でも無いものが数字の『1』に見える事も有るようなものだ」

「そっちの見解は?」

「微弱すぎるか……受動パッシブ系だ。判断が付かん」

「何の為に高い給料でお前らを雇ってるんだ? 科学者も『魔法使い』も役立たずか? 大体、何で、異能力が無い者同士の遺伝子を組合せたのに、異能力らしきものが発現した?」

「発現したと決った訳ではない。大体、彼等は第一世代だ。言うなれば最初の試作品だ。仮に彼が異能力持ちだとしても、後天的な要因か、いわゆる『遺伝子特徴ジーン・パターン』……複数の遺伝子が揃っていて、かつ、ある特定の条件を満した場合に発現するタイプのものかも知れん」

「後天的って、どういう事だ? こいつ以外にも不良品が出るって事か? あと、そのジーン・パターンとやらを、どうして見落した?」

「だから、彼等は試作品だと言ってるだろ。これから問題点を洗い出し……」

「あ……あの……」

 僕の対戦相手の1人が手を挙げた。

「何だ? 大人の話に口を出すな」

「すいません……ですが……そちらの研究者の方が……何か変な事を言われたので……」

「私か?」

「は……はい」

「ああ、君達が試作品という話か……」

 正確に言おう。

 この日、地獄に堕とされたのは、僕だけでは無かった。

 箝口令は敷かれたが、この研究者の回答は一両日中に僕の「同期」達の間に広まったらしい。

「その通りだ。君達は、まだ、実用段階には無い。君達の中で、マモトに『出荷』出来るのは1割居ればマシな方だろう。まぁ、不良品率が5割を切るのは……早くて三〇年後と言った所だな」

「聞いてないぞ、どうなってる? 折角、オリンピック選手を我が組織が生み出した『ピュア・ブラッド・ヒューマン』に置き換えるチャンスなのに……不良品率9割以上だと? 人数が全然足りんぞ」

「おや、すばらしい、君の知性を過小評価していた事を謝罪しよう。君が1桁の引き算を暗算で行なえる可能性に気付いていなかったのは、私の不覚としか言い様が無い」

「ふざけている場合か? この役立たずどもがッ‼」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔導狂犬録:Triumph des Willens @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ