第8話 モンスター討伐(1)

 さて、やってきました近場の森。

 なんでも最近、ザコモンスターが頻繁に出現するんだとか。

 それらを倒して『魔石』っていうアイテムを持ち帰るのが冒険者の主なお仕事らしい。


 なるほど。ゲームとかでモンスターを倒したら金が貰えるのって謎だったけど、そういう仕組みなのか。


 ちなみに動物とモンスターの違いは体内に魔石があるかどうか、らしい。

 んで、その魔石がどのように発生しているかは不明だが、魔石は魔法の力で動く魔導具のエネルギーになるんだと。

 よく分からんが電池みたいなもんか?


「さてとっ! じゃあそろそろモンスターを探そっか!」

「では敵感知の魔法を使いますね」

「お願いっ!」


 おっと。何やら魔法とやらを使うらしい。

 まぁファンタジー世界と言えば魔法。魔法と言えばファンタジー世界だよな。

 俺が見た魔法ってリーンのなんちゃって回復魔法だけだし、後で他の魔法とかも見せてもらおう。


「――いと慈悲深き女神の名に於いて、悪しき者を示せ。敵感知センスエネミー!」


 うおっと? なんだ? なんか赤い光が森の中にチラホラ見えるな。

 あーなるほど、これが敵感知センスエネミーの魔法の効果か。

 これなら一目で敵かどうかわかるし、地味だが優秀な魔法だな。


 で。何で俺まで赤く光ってんの?


「えぇと……ダークさん、実はモンスターだったりする?」

「……モンスターよりおぞましき悪」

「モンスター並だなんて、さすがですご主人様♡」


 うるせぇ。お前らイブとリーンに言われたくねぇよ。

 つーか何となくこれ、女神の仕業な気がするんだが……今度会ったら殴、もとい問い詰めてみるか。


「いや誤作動くらいあるだろ。それよりほら、モンスター狩りするんだろ?」

「そんな話聞いた事無いんだけど……まぁいいや。じゃ、いつも通りやろっか!」

「……おー」

「頑張ります!」


 気合十分と言った感じだが、はてさて。

 クリムは斥候スカウト、つまり罠を見つけたり鍵を開けたりがメインのはず。

 イブに至っては錬金術師アルケミストだろ? あれって科学者みたいなもんだったはず。

 少なくとも俺の知識じゃ戦闘なんて出来そうに無いんだが。いやまぁ、例外は居るだろうけどさ。鋼とか炎とか。

 それはともかくとして……普段どうやってモンスターと戦ってんだ、こいつら。


「いたいたっ! 『村人もどき』の群れだよっ!」


 叫ぶクリムの方を見ると、何やら数人分の人影があった。

 ……モンスター、なのか? 俺には普通の村人にしか見えないんだが。

 あーいや、よく見たら耳がとがってて、目の中の瞳が縦に長い。まるで猫みたいだ。


 今も二人の村人が子どもを背中に隠して「ひぃっ!? ぼ、冒険者!?」なんて言ってるし。


「ご主人様! こいつらは知能が高く、人間のふりをして冒険者を襲う厄介なモンスターです!」

「そ、そうなのか? 俺には普通の人間にしか見えないんだが」


 ちらりと見ると、三人……いや三匹の『村人もどき』は涙を流して怯えている。


「た、助けてください! 私たちは何も悪い事なんてしてません!」

「せめてこの子の命だけでも……!」

「パパー! ママー!」


 ……えぇーっと。


「なぁ、本当にモンスターなのか? 何かの間違いじゃないのか?」

「騙されてはいけません! 村人もどきは邪悪なモンスターなんです!」

「本当かぁ?」


 どう見ても無害な村人にしか見えない。

 ていうかそもそも、冒険者ってゴロツキ集団みたいなもんだろうし、一般人に怖がられるのも当たり前なんじゃないか?

 別に悪者呼ばわりは構わんが、理由も無く善良な一般市民を襲うのは流石に気が引けると言うか。


 ここはクリムとイブにも話を聞いてみるか。

 まずは近くにいるイブから……


「なぁイブ。お前はどう思――」

「……ていっ」


 ひゅーん。パリン! ぼふんっ!


「ちょっ、いま何を投げたお前!?」

「……えへ、えへへぇ。新作の毒ポーションを少々ぉ。うふふふふ」

「毒!?」


 おま、何やってんだ!? まだ話してんだろうが!

 てか何で笑ってんだお前!? こえぇよ!


「うっ、なんだ、体が痺れて……」

「息を、吸っては、ダメ……逃げなさい、はや、く」

「パパ、ママ……うぅっ」


 ああっ! 毒にやられてる!?

 クソッ! ダメだ、こいつは話にならない!

 だったら残りはクリムだ! あいつは常識人っぽいし、まだまともな――




 どぅるんっ! どぅるんっ! どぅるるるるんっ!!


 どっどっどっどっどっどっどっど!!!



 ――まともな?


「……あの、クリムさん? それ、何ですか?」

「あーこれ? 魔導式森林伐採ソードだよっ! 最新式だから切れ味がいいんだー!」


 俺には、チェーンソーにしか、見えないんだが。


「なあ、満面の笑みで魔導式森林伐採ソードとやらを抱えてるクリムさんや」

「なにかなっ!?」

「聞きたくないが……お前ソレ、どうするつもりだ?」

「どうって……こうかなっ!」


 ぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ!!!


「お前ら逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ふぎゅうっ!?」


 無邪気な微笑みを浮かべる美少女に対して、思わず全力でドロップキックを喰らわせてやった。


「そんなっ! そんな事をしたらあなたが!」

「いいから行け! ここは俺が食い止める!」

「あ、ありがとうございます!」


 両手を横に伸ばして通せんぼする俺、ちょっとイケメンじゃないだろうか。

 しかしこいつら、頭の中どうなってんだ?

 特にクリム、満面の笑みでなんて物を振り回してんだよ。普通に怖いよお前。


「ちょっとダークさん! なんで邪魔するのっ!?」

「やかましいわ! 善良な一般市民に対して何してんだお前らはっ!?」

「だからアレは悪いモンスターなんだってば!」


 まだ言ってるのかこいつ! いい加減にしろよ!

 あの家族愛を見て、お前はなにも思わないのか!?


「そんなわけがあるグハァッ!?」


 いってぇ!? なんだ!? いま後頭部に重くて鋭い痛みが!?

 いて、いってぇ! なんだこれ、投石か!?


 慌てて背後を振り返ると、そこには。


「ちっ、運の良い奴だ!」

「オラオラ、これでもくらいなぁ!」

「はっはぁ! 馬鹿な冒険者だぜぇ!」


 ちょっと遠くから石を投げつけて来ている村人もどきたちの姿があった。


「ご主人様、大丈夫ですか!? 村人もどきは冒険者を言葉巧みに騙して罠に嵌めてくるんです!」

「……あなたが騙されるとは思わなかった。意外と純情?」


 ……あーうん。俺は見事に騙された間抜けって訳ね。なるほどなるほど。


「なあ、クリムさんや」

「なぁにー?」


 親指を立てて。


「やっちまえ」


 そのまま真下に向ける。


「おっけぃっ!!」


 ぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ!!!


 ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり!!!


「「「ギャアアアアアアアアアアア!!」」」


「あはっ、あははっ! ねぇ待って逃げないでよぉっ!」


 悪は滅びた。

 それはともかく、満面の笑みでチェーンソー振り回してるクリムさん、まじこっわ。


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異世界クズニート~クズスキル「パチンコ玉生成」が実は神スキルだった、なんて展開は有り得ない~ @kurohituzi_nove

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