「──このことから、文化的背景からも歴史的背景からも──」


朝っぱらの1限から、人にとっていちばん眠くなるであろう口調でぐだらぐだらと喋り散らかす教授。どうにかならないかな。

いつも通り一番後ろから、右斜め4~5段下の清潔感のある同級生の頭を眺めながら、今日は時折、左隣にちらちらと目が行ってしまう。


基本的に彼とほとんど同じコマを取っているから、持っている服は全て把握している。いや、最近少し暖かくなってきたことでラインナップが変わりつつあるから、全てではないか。


だが、どうも左隣に座っているウルフカットの女の子が着ているのは、彼が先週の金曜日に着ていた深緑色のパーカーと、先週の木曜日に履いていたジーンズ。そしておそらくインナーとして着ているのは、先週火曜日に初めて見た、白地にかわいいパステル調のイラストが描かれたTシャツ。


パーカーが同じとかならまだわかる。多分あれユニクロだから。ジーンズもまだわかる。リーバイスの505だから。でもあの柄のTシャツは無理があるし、これだけ揃っていればもう認めざるを得ない。


女だ。


なぜ。

いや、どこから。


あのひとの周りに居る女は基本的に3人。

同じ1年のたもしずか柳内やなうち綾茉りょうま、3年の四階堂よんかいどう二文ふみふみ。他にも面識のある人物は何人かいるが、絡みが多いのはこの三人だけ。

そしてこの女はそのどれでもない。

なにかがおかしい。


勘違いしないで欲しいが私は彼が好き、というわけじゃあない。彼の甘い面の下に何が隠れているか暴いてやりたいだけ。絶対腹の中でえぐいこと考えているに違いないから。そう絶対。それだけだから。あなかしこ、あなかしこ。


「絵、上手いですね」


ふと気付くとくだんの女が私の手元のノートに目を落としている。手癖で描いていた落書きを見られていたらしい。

いや恥っず。しかもよりによって薔薇作品のキャラ描いてるし。いやさてはこの女、こっち側・・・・か? いや、でも間違いなくヤってるだろうからそれは……いや寧ろ彼は理解があるタイプか!?


仏頂面で内心百面相していると、くだんの女は申し訳そうな顔をする。

「あ、ごめんなさい勝手に見ちゃって。すみません」

「あっいえ! 別に大丈夫です! どうぞ幾らでも!」

やっべ美人に話しかけられた。

いや美人だなぁ。

目鼻整っていてどことなく……彼に似ている・・・・・・

あ、さては妹さんとかかな? なんだ、なら服もぽっと出なのも説明できる。一応名前聞いてみよう。


「すみません、お名前なんですか?」

「んー、田村日奈子・・・・・です」


うーん???


***


なんか変な人に話しかけちゃったかな。

私の名乗った名前を聞いて黙り込んでしまった女の人を横目に、小さな違和感を振り返る。


授業が始まる前、既に一番上の段に座っていた彼女は、私の姿を見てまず二度見した。何事だろうと思いながらぼんやりと授業を聴いていると、明らかにこちらを伺う視線を感じる。

お兄ちゃんの友達関係者かな、と思ったが、それにしてはなんか違う気がする。根拠はないがそんな感じがする。ならばと声を掛けてみれば、さらに挙動が不審だ。


なんか……兄の、ストーカー?

それだ。

よし、ならば逆に会わせてやろう。絶対面白い。

兄にLINEする。


〈 2      愛       ≡

──────────────────────


         (今日)


       お兄ちゃんのストーカー見つけ

 既読 10:12 たから会わせたい      >


◯<(はあ) 10:12

            既読 10:12(じゃ)>

◯<(はい) 10:13



んだよ反応薄いな。

まあいいや。

あとはこのストーカー変態を連行するだけだ。


さて。どう調理したものか。

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