4
「いや、違うんだって! ずぼらなのはわたしのせいじゃなくて大学が忙しいから!」
「そうですねぇ。大変ですねぇ」
適当に話を流しながら洗い物を片付ける。結局ツマミ兼夜ご飯を私が作り、我が物顔で舌鼓を打っている来客に、普段の食生活の話を振ったらこのざまだ。
しかし、最初はどこにでもいるズボラ大学生かと思ったら、なんとびっくり東京大学の理科二類、しかも首席入学だったというから驚きだ。
実際私が言うのもなんだが頭は良く、酔いどれでも会話の端々に知性が見られるあたり、伊達や酔狂ではないのだろう。
それにしても、だ。
「酔っ払うのはいいんですけど、服脱ぐのは辞めてもらっていいですか? 流石に目の遣り場に困ります」
「えー? あっごめん。ここ我が家じゃないねえ」
「そうですよ凛華さん。そのままおうちに帰って寝てください」
「えぇー? なんでさー?」
「何でじゃないですよ。何時だと思ってるんですか」
「んんー」
微睡みに落ちる寸前といった感じだ。まさか一升瓶をひとりで空けるとは思っていなかった。しかしここで眠られるのは普通に困る。お皿の水を切り食器かごに立てかけ、呑んだくれを起こしに掛かる。
「凜華さん寝ないでください。ここはあなたのお家じゃないです」
「いやー、世話を焼いてくれる弟が可愛いねえ」
「寝惚けたこと言ってないで、ほら立って」
「ふんん~」
ふらふらと立ち上がったと思ったら、いきなり糸が切れたように倒れそうになり、慌てて支える。
「おっとと。本当に寝落ちやがった。どうしたものか」
立ち上がったことで頭から血が少なくなり、そのまま落ちた感じか。とりあえず床に降ろす。
はて、しまった。鍵の在りかくらい訊いておけば良かった。流石に
となると、この部屋に安置するしかなくなったわけだ。勿論廊下に放り出しても何の文句も生まれない筈だが、流石にそれは良心の呵責が咎めるので却下する。
明日は月曜日、1限からだ。
……もういいや。風呂食って寝よう。考えるのがめんどくせぇ。
客人をベッドに寝かせ卓袱台を片し、来客用の布団を出して広げ、風呂に入って寝た。明日のことは明日の自分が考えてくれるさ。
@@@
〈〜♪ ~~~~~~~ ~~~~~~~~ ~~~~~ ~~~~~~~~~ ~~~~~~~──〉
起床アラームを止め、既に三回目となった
世間知らずで寝惚けた愚妹は知らないかもしれないが、まだまだ普通に大学はある。具体的には今週末まである。
マジでこの愚妹どうしようかと考えながら、そういえば一か月前に、同等かそれ以上に度し難い存在が、同じように私のベッドに横たわっていたことを思い出していた。
@@@
「──、──。──」
一段高いベッドの上から何かが聞こえる。
何故一段高いのかを考えているうちに頭がハッキリしてきた。
身体を起こし、二日酔いのようなふらつきを頭を振って追い出す。……呑んでないよな?
「──さい。ごめん──。つぎは、つぎは──」
思考がクリアになると同時に声の
こうして見るとあどけない幼顔に、一筋の光るものが見える。
……自分でもちょろいとは思うが、なんかとりあえず許してやろうかなと思ってしまった。
その日の朝、書き置きを残しそのまま大学に行った。
帰った時には、綺麗に調えられたベッドと大ジョッキが二つ残されていた。
いやまた来るつもりかよ。
しかし結局、次に彼女が来たのは8日後だった。
今度は素面なのに顔を真っ赤に染め、然と値の張る菓子折と共に。
@@@
恐怖の隣人はさておき。この愚妹、放置しておけば何するかわからない度合いで言うと、あの隣人より上である。故に手段は一つ。
「おい。起きろ。大学に連れてってやる」
「んがっ。えっ。えっ?」
「10分で支度しろ」
「えっ。えぇ〜?」
「えぇ〜じゃない。小田急は本数多いとはいえ時間ギリギリに行きたくない」
「……わかった」
愚妹は愚かであるが故に愚妹だが、物解りが悪いほどではない。なんだかんだ言って自慢の妹である。
そそくさと準備をしながら、時計を見る。間に合いそうだな。
服を着る段階になって初めて、土日何もしなかったツケとして愚妹の服がないことに気付く月曜日の朝だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます