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〈──♪〉

『はーい』

足音が近づき、戸が開く。


「はい?」

「あ、一昨日引っ越してきた鈴木と申します。暫くよろしくお願いします」

「これはご丁寧に。多田です、よろしくお願いします」

「こちらつまらぬものですが」


引っ越してから三日目。なかなか右隣さんが居なかったのだが、ようやくご対面できた。まあ積極的にご近所付き合いしようというつもりではないが、菓子折りくらい渡すものだと思っている。


「あらもみじ饅頭。広島出身ですか?」

「ええそうです。よくご存知ですね」

何言ってんだこいつみたいな空気を醸しながら、ふわりとにこやかに笑う女性。物凄く器用だな。


「私も広島出身なんですよ。どちらの方から?」

「……舟入の方です」

「あ、ほんと近い。私南観音の方でした。もしかしたら会ってたかもしれないですね」

「ええほんと。……まあ暫く宜しくお願いします」

「よろしくお願いします。ではまた」

「はい」


ファーストコンタクトとしては悪くなかったと思うのだが、まさか同郷とは。世界は狭いな。しかし、やたら距離感近かった気がするのは気のせいか?


***


『[支援機を頼む!]って連呼しながら支援に前ブーする汎用なんなん?』

「え? 無能」

『頼むから強襲機止めてくれ』

「強襲止めないでもいいから味方カットするのやめろ。即よろけ撒くなハゲ」

『草。あっお客様困りますあー! 誰かー! 男のひナイスカット、なんだお前かよ。オラッ寝とけカスゥ』

「感謝しやがれ。このウェーブ取ったらなんとか勝てるか」

『無理です。お疲れ様した』

「どぉして諦めるんだそこで! いやこれは松岡修造でも諦めるレベル」


〈──♪〉


「ふぁっ。こんな時間に誰か来た。宅急便か? 佐川さんか?」

『ここは俺に任せて先に行け! 俺がなんとかする!』

「本当でござるかぁ? どうせみんな居なくなるの間違いだろ」

『3番機はいい加減脳死で凸るのやめろ』

「じゃあな瞬! 元気で暮らせよ!」

『もう戦わなくてい


ヘッドセットを外して玄関口に急ぐ。


「はい?」

『あ、隣の多々羅たたらです。今いいですか?』

「……多田さんですよね。どうしたんですか?」

『あーいえまあ。今大丈夫です?』

……宗教勧誘か何かか?


『あの、もしもーし』

「……今開けますね」


こういう時怖いもの見たさでパンドラの箱でも開けるタイプです。


「どうも!」

「……こうも三点リーダーを多用したくはないんですけど、一升瓶とジョッキを抱えたお隣さんは流石に予想外過ぎます」

「まあまあそう言わず。妙齢のお姉さんがお酌してくれる機会なんてなかなかないですよ?」

「自分で言うんですかそれ。一応未成年ですのでお引き取りください」

「えーー」


かなりしょんぼりしながらも引く気配がない。よく見たら頬が少し火照っている。既に呑んでるな。うーん。


酔っぱらいに! 融通は! 利かない!


「廊下で騒がれても嫌なのでとりあえず入ってください」

「よし」

「よしじゃねえよ」


予想外の来客で、夜は長くなりそうだ。

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