第3話 後編

 粉塵舞い上がる空間の中、肩を上下させて息を切らしている異世界の神が、笑い声をあげる。

「ふ、ふははは! 見たか! コレが神の力だ! 我に歯向かうなど笑止千万! あの世で後悔するがよいわ!」

「……だからさ、それ、神のセリフとしてどうなの?」

 ぼくのツッコミの声に、異世界の神の表情が固まった。さらに、クラスメイトたち全員が無事でいることに対して、言葉が出ないようだった。

「さて、さすがにこれ以上続けても時間の無駄だし、そろそろ終わりにしようか。アンタを滅ぼしても、この世界にあんまり影響はなさそうだし、他にも神はいるみたいだしね」

「ま、待て。お前が地球の神なのはわかった。話し合おう。神同士、話せばわかりあえ──」

 言い終える前に、ぼくは手を神へと向けて力を使いその神を消し去った。あまりに不愉快だったから、話をもう聞きたくなかった。

 静けさが辺りに満ちた。

 次に、ぼくはクラスメイトたちに向き直った。そして、「もうしゃべっていいよ」と、全員の口を動くようにした。

 男子生徒の一人が訊ねる。

「か、神部、おまえ、本当に神さまなのか?」

「分身みたいなものだって言ったろ。本体は元の世界の地球にいて、ぼくの五感を通して今までの出来事をみているよ」

「そ、それで、この後はどうするんだ?」

「さーて、どうしようかなぁ。さんざん、スキルの実験台として攻撃されまくったしなぁー」

 言うと、みんなの顔から血の気が引いた。

「わ、悪かった! ちょっと過ぎた力を得て暴走してしまったんだ!」

「そ、そうよ! わたしたちは悪くないわ! 悪いのはこんな力をわたしたちに与えたさっきの神よ!」

 そうだそうだ、俺たちは悪くない。と、見事にみんな手のひらを返して主張した。

「そ、それに、お前は神なんだろ? この程度のこと、お前にとったら些細なことだろ?」

「そうよ! 神さまなんだから、寛大な心で許してくれるよね!」

 好き勝手なことを言いだすクラスメイトたち。そんな中で、クラスの秀才くんだけがぼくを睨みつけていた。

「……認めねえ。俺は、お前なんか神とは認めねえぞ。俺がお前なんか消し去ってやる! ホーリーブレイク!」

 秀才くんのスキルがぼくに命中し、光の柱が立ち昇る。

「ホーリーブレイク!」秀才くんは重ねがけする。

「ホーリーブレイク!」さらに、重ねがけ。

「ホーリーブレイクぅ!」四回連続のスキル使用。殺意が凄い。けど。

「ゴメンよ。効かないんだよ」ぼくは光の柱を消し去って、平気な顔を見せた。

 連続でスキルを使用したせいで疲労困憊になり、膝から崩れ落ち、四つん這いになって喘ぐ秀才くん。

「さて。終幕といこう。これから君たちには罰を与える」

 ぼくが言うと、またまた自分勝手な主張を言い出した。うるさいので、ぼくは「はい、口チャック」とまた全員クチの動きを封じて黙らせた。

「罰は、全員のスキルを消し去って、元の世界の身体能力の半分でこの世界を生きてもらう。この世界は、過去に力のある転移者によってけっこう無茶苦茶にされたみたいだから、君たちが転移者だとバレて力もないとわかればどんな目にあうかわからない。怯えながら生きるといいよ」

 クラスメイトたちが目で必死に何かを訴えている。

 心は読めるが、どうせ罵詈雑言やら、赦しの声なのであえて聞かない。

「ぼくは神の一部だけど、ちゃんと喜怒哀楽のある人間でもあるんだ。君たちがぼくに対してやってきたことに、ぼくはひどく傷ついたよ。……まあ、君たちがそういう人間だとわかった上で、かつ、そういった目にあうとわかっていてこのクラスに入ったんだけどね。ぼくが君たちを利用して、今の状況を作ったわけだから、君たち全員を責めるのは少し違うかもしれない」

 クラスメイトたちの目に少し希望の光が灯る。許してくれるかも、と思ったのだろう。けど、甘い。

「でも、君たちがどうしようもないクズであることに変わりはない。元の世界でも、この先何人もの人々を不幸にする未来だったしね。だから、君たちを助ける気は全くない。この弱肉強食の世界で頑張ってね」

 ぼくはニコリと微笑んだ。

「ちなみにぼくは元の世界に帰って、人間の人生を普通に生きるよ。君たちとはお別れだ。最後に、言いたいことがあれば一人一言だけ聞こうか」

 ぼくは一人ずつ口を動くようにして、最後の言葉を聞いていった。

「た、助けてくれ神部、いや、神様! 心を入れ替えて善人になることを約束する! 文字通り、あなたさま神に誓うから!」

「わ、わたしも心を入れ替えるわ! だから、助けて!」

「何でもする! だからどうか命だけは!」

「なにとぞ慈悲を!」

 ひたすら命乞いをする生徒もいれば、

「何が神だ! 神部のクセにふざけんな! 俺は絶対テメェを許さねえからな! 生き残ってテメェに復讐してやる!」

「俺も賛成だ! そのクビ洗って待ってやがれ!」

 と、全く反省のない生徒たちもいた。

 その代表格が、秀才くんだ。

「……神部、お前は俺が必ず滅ぼす。何年かかろうと元の世界に戻る方法を見つけて、お前に復讐してやる」

 ぼくはため息をついた。

 彼らがぼくに復讐できる可能性は0パーセントだ。彼らは数日後に異世界で命を落とす未来が待っている。言っても無駄なので言わないが。

「わかったわかった。期待しないで待ってるよ。それじゃ、みんなバイバイ」

 ぼくが手を振ると、クラスメイトたちはその場から消えて、異世界へと旅立っていた。

 ぼくは満足して、伸びをした。

「終わった終わった。さーて、次はどのテンプレのキャラクターになって悪戯をしてやろうかな」

 そして、ぼくはぼくの世界へと戻ったのだった。

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神の戯れ  巧 裕 @urutramikeinu

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