第2話 中編

「……なんだコイツ、いきなり爽やかな笑顔になりやがって。気持ち悪っ」

「とうとう気が触れたんじゃないの?」

 そんなことを言うクラスメイトたちにぼくは言う。

「まずはみんなにお礼を言わせてほしい。全員、ぼくの思い通りのクズで本当にありがとう」そして、この世界の神へと目を向ける。「あなたも素晴らしいクズの神様です。いやぁ、ホントに最高の神様です」

 その場の全員が顔を見合わせ、眉を顰めたり戸惑いの顔を見せたりしている。

「ぼくは、この時を産まれてから十七年間待ち望んでいたんだ。地味な生活をして、目立たずに地味に過ごして、この高校に入り、狙い通りに落ちこぼれになった。このクラスもぼくの力の一端を使って因果律を少しいじって、お前たちのようなクズたちが集まるようにした」

「……お前はいったい何を言っている? 本当に気が触れたのか?」

 クラスメイトの言葉を遮って、神がぼくを見下した目で言った。

「もうよい」神がぼくに手のひらを向けた。

「ゴミの戯言などどうでいい。お前はここで消え去れ」

 ぼくの体の内で力が収束していく感覚があった。それが急に弾け、ぼくの体は爆発四散して粉微塵に──なるはずだった。が、ぼくの身体は全く変化がなかった。

 神の目が見開かれる。

「バカな。今、我はキサマを確実に滅したはずだ。何故キサマは無傷でいる」

 笑みを浮かべるぼく。

「今から種明かしをしよう。ぼくは、ぼくの世界の神の力を得た人間なんだ。神だったぼくは自分の分身を死産するはずだった人間の赤ん坊に移した」

「……神部、お前はイカれたヤツだったんだな。サイコパスは死んだほうが世のためだ。俺が消し去ってやる。『ホーリーブレイク』」

 男子生徒──クラスで一番の秀才がいきなりスキルを放ち、ぼくの身体は光の柱に包まれた。

 その立ち昇る光の柱から、ぼくは平気で歩いて出てきた。

「まだ話の途中なんだけどな。まあ、話をしやすいようにみんなの口をまずはふさごうか」

 ぼくは指をパチンっと鳴らした。クラスメイトたち全員の口が閉ざされて、全く動けなくした。これでもう呻き声くらいしか出せない。

「よし。コレで静かになった。話を続けよう」そうして、ぼくは話を始めた。

 ぼくは、最近よく聞く異世界転移に興味があった。

 ぼくのいる世界だけじゃなく、さまざまな異なる日本、異なる文化といった別の世界線で、異世界転移とか転生が流行っていた。

 その中で、クラス全員が異世界転移して、女神とか神様とかにスキルを授かる中で、一人だけがハズレスキルを引いてしまうのは、だいたいのお約束だった。その神とかもまあ、神なのにどこか抜けていたりしてるのも、よくある話だ。そんなヤツが神って……同じ神として、実に嘆かわしかった。

 それはさておき、召喚した国の王様とか、女神とかもゲス野郎で、さらにクラスメイトたちも見事にほとんどもクズ野郎という現実的にありえない、悪意の詰まった状況が面白かった。……まるで、アレルギー物質満載の殺意しか感じられないお弁当箱のようだった。

 そして、ハズレスキルを引いた者は、役立たずとして追放されつつも、そのスキルが実はチート性能だったという救済の元、その者は復讐やらスローライフやらを送るであった。

「まあ、この辺りの話はその辺のラノベとかアニメにもよくある話だろ? そして、ぼくはその状況に身を置いてみることにしたんだ。異世界に転移される時間と場所を特定して、さっきも言ったように、ぼくは自分の分身を作って人間の赤子に転生させて今日まで生きてきたってわけ。クラスメイトがクズばっかりというテンプレになるように因果律を少し操ってね。もちろん、そこの異世界の神もクズだってこともしっかりわかっていたよ」

 異世界の神がぼくを睨みつける。

「キサマが転移元世界の神だと? そのような戯言信じられるか!」

「ホラ、そういうところだよ。それがお粗末な神さまだって言ってんの。神なら、相手がどんな存在かすぐに見抜けないとダメじゃないか」

「やかましい! 今度こそ葬ってくれるわ!」

 異世界の神は、ぼくにまた手のひらを向けて、今度をグッと拳を握りしめた。

 ぼくの周囲の大気がぼくを中心に一瞬で圧縮される。ぼくが普通の人間だったら、押しつぶされて肉の塊になっていただろう。

 悲鳴を上げたのは異世界の神だった。ぼくを潰そうとしたその手が、ぼくの神力に負けて弾け飛んだのだ。

「バ、バカな!」

 弾け飛んだ神の手から、キラキラとした光る砂のような物が流れ出る。身体の構造は、やはり人間と違うようだ。

 神は瞬時に、その手を修復して元に戻した。

「おのれおのれ! 神に対して何ということを! もう許さん!」

「……いやいや、完全に自爆じゃん。それに、ぼくも神なんだって。正確には、神の分身の力を得た人間なんだけど。……あと、感情剥き出しで怒らない方がいいよ。神の品格を貶めているから。見苦しすぎるし、神という存在をこれ以上冒涜しないで欲しいな」

「冒涜しているのはキサマだ! 神の力を思い知れ!」

 異世界の神が両手をぼくに向けて、膨大なエネルギーの塊を解き放った。……日本くらいの大陸なら消し飛ぶ威力だ。このままだともちろん、クラスメイトももれなく全員まとめて消えてなくなるだろう。

「消えてなくなれー!」

 空間が光で満ち、閃光で何も見えなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る