神の戯れ 

巧 裕

第1話 前編

「この世界に、おまえのようなゴミは必要ない」

 神と名乗ったソイツは、ぼくを蔑んだ目で見下した。

 ゲラゲラとクラスメイトたちがぼくを指差し、笑っている。

神部かみべ。やっぱりここでもお前はゴミなのかよっ。まあ、予想していた通りだったがな」

「ステータス最弱で、スキルなし。ゴミの中のゴミ。俺がお前に称号を授けてやる。お前はゴミキングだ。いや、名前に神がついてるから、ゴミゴッドだ」

「きゃははっ、それ最高。マジウケるんですけど」

 ぼく──神部真かみべまことをバカにしているのは、ぼくのクラスメイトたちだった。

「まあ、お前のようなゴミでもできることはあるぜ。俺たちのスキルの練習台になってもらおうや」

「お、それいいね。やろうやろう」

 ぼくは身体を震わせて、助けを請うた。

「や、やめてくれ。そんなことしたら死んでしまう」

「別に死んでもいいだろ? ここでお前が死んでも誰も悲しまないしな」

 ぼくは他のクラスメイトたちを見た。誰もぼくを助けようとしない。ぼくが死のうが、全く興味がなさそうだった。

「恨むなら自分の弱さを恨むんだな」

 神は言ってぼくから背を向けた。



 数時間前。

 授業中、ぼくたちの教室が突然に光に包まれた。

 そして気づけば、ぼくたちは真っ白な見知らぬ空間にいた。何故か先生はいなかった。

 戸惑うクラスメイトたちの前に、一人の男が現れた。

「な、なんだお前は?」

「我は神である」

 いきなり現れて、いきなりそんなことを言われて信じる者はいない。物事には順序というものがあるだろう。……神じゃなくても、そんなことくらいわかりそうなものだが。

「なんだこのオッサン。頭沸いてんのか?」

 そんなこと言った男子生徒に神が手を向けると、その男子生徒の身体が突然捻れ出した。

「痛い痛い痛い! か、身体が千切れる!」

 神が手を下ろすと男子生徒の身体は元に戻った。

「次に、我に無礼な態度をとれば粉微塵にしてやる」

 身体の底から震えがくるような途轍もない圧が放たれ、全員が本能で相手がとんでもない存在であることを理解した。

 神の話では、ここは異世界だという。剣と魔法とスキルがある世界だ。

 ぼくたちは、この世界の悪神あくじんを倒すために、転移させられたらしい。

 クラスメイトのほとんどはライトノベルや異世界アニメの知識があったらしく、素直に状況を受け入れた。

「……そのうち異世界召喚される日が来るかもしれないと思っていたが、まさか本当にそんな日が来るとはな」

「テンプレ展開すぎるが、まあいいだろう」

 神は言った。

「今からお前たちにはスキルの儀を受けてもらう。何を習得するかはその者の素質による」

 そうして、クラスメイトたちはスキルの儀を行うことになった。

 祭壇に置かれた水晶球のようなものに触り、それが光るとスキルを会得していった。

 ステータスも確認できるようになった。

「うぉー、スゲェスゲェ! 力が溢れてくる!」

「今なら何でもできる気がするぜ!」

 そして、ぼくの番が来て水晶球に触れると、球は光らなかった。ステータスはオール1だった。スキルもなかった。

 神は明らかにぼくを蔑んだ目で見た。

「ゴミが」

「どれどれ、ちょっと見せてみ? うっわ、マジか。マジでゴミだこいつ」

「俺にも見せろ」「あたしも見たい」と、次から次とぼくのステータスを見て爆笑するクラスメイトたち。

 ぼくはクラスでも落ちこぼれだ。みんな、ぼくをいつもからかいバカにしてきた。

 そして今、クラスメイトたちはなんの役にも立たないぼくを、スキルの実験台にしようとしている。

 神も止める気はなさそうだ。

 ぼくは項垂れた。

「んじゃ、まずは俺から。俺のスキルは、『アイシクルレイン』。お、使い方が頭に浮かぶぞ。手のひらを相手に向けて、『アイシクルレイン』と言う──うぉっ!」

 男子生徒の一人がぼくに向けて、先の尖った氷柱の散弾を打ち込んできた。

 ぼくは悲鳴をあげて、転げ回ってそれを避けた。

「避けんなよ。どれほどの威力かわかんねーだろうが」

「バーカ。スキルを使いたいのはお前はだけじゃないんだ。俺らにも残しておけ」

「じゃ、次はわたしね。えっと、『バーストストローム』!」

 女子生徒の手から、凄まじい風の渦が真っ直ぐに放たれて、ぼくに襲いかかった。

 またも悲鳴をあげつつ、避けようとしたが、腕が巻き込まれてズタボロになり血だらけになった。

「痛い痛い痛いっ! お願いだからやめてくれ!」

「バカ言うなよ。まだまだこれからだろ?」

 クラスメイトたちは誰一人として、やめる気は無さそうだ。神を名乗ったその男も黙ってみている。

 それから次つぎと、クラスメイトたちはぼくに向けてスキルを連発した。怪我をして動けなくなると、回復スキルも持つ生徒がぼくの傷を癒して、また攻撃を開始した。

 誰も助けてくれない。このままだと、ぼくは殺されてしまう。

 ぼくは一通りスキルを受けたあと、大きく息を吐いた。

 そして──。

 ぼくは晴々とした顔を、クラスメイトたちに向けた。

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