悪魔と吸血鬼と令嬢
ステラート、と名乗った紳士姿の悪魔を私は睨みつける。
顔は笑顔の仮面で隠され、表情は読み取れない。
ただ一つ分かるのは——その魔力の量が桁違いに大きいということ。
隣の吸血鬼も化け物だが、この仮面の
私が魔導銃を突きつけると、ステラートは両手を軽く上げた。
「おぉ、怖い怖い。貴族のお嬢様がそんな殺意を向けてはいけませんよ」
「黙れ。魔王様の敵は私の敵だ。それと、なぜ悪魔が人間の味方をしている? 魔族は皆、魔王様に忠誠を誓っているはずだ!」
「忠誠? そんなものはありませんよ。私にあるのは——絶望だけです」
「っ!!」
私は魔導銃を二度発砲。
ステラートは即座に空中から羽の生えた眷属の悪魔を召喚した。
放った二発は、頭と心臓を正確に狙ったはずだったが——弾丸は眷属と共に灰となって霧散する。
ステラートは服の埃を軽く払い、ため息を吐いた。
「はい、残念。まだ、あなたの攻撃は私に通りません。人の話は最後まで聞くものですよ」
パチン、とステラートが指を鳴らす。
私の目の前の地面に、一本の赤い線が引かれた。
——超えたら殺す。なんとも分かりやすい。
隣の吸血鬼が鎌を地面に突き刺す。
「ねぇ、アンタの目的はなんなの? 暇だから戦争を、なんてふざけた理由じゃないわよね?」
「クフフ……その質問には回答できませんね」
「契約かしら? それとも忠誠?」
「前者に決まっているでしょう。悪魔に忠誠心など存在しません」
悪魔の契約は絶対。
契約主と悪魔は互いの命を賭けて結び、破れば即死は免れない。
「今回の依頼主は随分と慎重な方でしてね。契約に『契約内容の開示行為を不可』とまで加えるほどです。私も多くの契約を結んできましたが、このような方は初めてですよ」
「ふ〜ん。じゃあ、他に言えることはないの? 最後に言い残すことがあれば聞くけど」
カーラの強気な言葉に、ステラートは仮面の奥でクスクスと笑う。
赤い魔力と青い魔力がぶつかり、大地が大きく揺れた。
次の瞬間、地面に引かれた赤い線は掻き消える。
「少し長生きしただけの小娘ではなく……そちらのお嬢様に忠告を。魔族はこの戦争に勝てません。早々に引き上げた方がよいでしょう」
「魔族が勝てない? アンティラの損害は私たちに比べて甚大。この戦場に残っているのは配送者とお前、そしてあの巨大ゴーレムだけだ」
「その巨大ゴーレムに——魔王ヘルは勝てません。たとえ天地がひっくり返っても、ね」
「どういうことだ!!」
再び指を鳴らすと、大地に亀裂が走り、無数の紫色の氷柱が飛び出した。
私は大きく後ろへ飛び退く。氷柱に触れた草花が音を立てて枯れ落ちていく。
——かなり強力な毒が仕込まれている。
その氷柱の上に、ステラートは悠然と立った。
「魔王ヘルの正体は人間の英雄ヴィナ。そして、あのゴーレムに乗っているのはその娘なのですよ」
「「っ!?」」
大地が大きく揺れる。
ステラートの笑い声が戦場に響き渡った。
こいつは……何を言っている?
ヘル様が人間の英雄ヴィナ?
幾度となく魔族を屠った、あの女が……。
「そんなはずは——」
「英雄ヴィナは身内に決して手を出さない。先ほどからゴーレムとの抗争は激化しているのに、ダメージは一切与えられていない。これが何よりの証拠ですよ」
振り返ると、五体満足のゴーレムが無数の銃弾をばら撒いていた。
私の胸を冷たいものが貫く。
だが横に立つ吸血鬼は、口元を歪めて笑った。
「だから何?」
カーラの声音は嘲りに満ちていた。
「人間だろうが英雄だろうが、今は魔王様。それ以上でも以下でもないのよ」
私も魔導銃を構え直し、ステラートを睨み据える。
「お前が何を吹聴しようと関係ない。私たちが仕えるのは——ただ一人、魔王ヘル様だ」
赤と青、二色の魔力が再び激突する。
ステラートの仮面の奥で、笑みが一層深まった。
戦場は、さらに混沌へと沈んでいく。
魔王に転生した世界最強のママ。世界を巻き込んで喧嘩している娘達を”めっ”する @namari600
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