【挿絵有り】つぎはぎと吸血鬼

アンティラの空は、火と鉄で裂けていた。蒸気を吹き上げる爆撃船が編隊を組み、燃えるような赤い尾を引いて魔王軍を襲う。地上では、車輪のついた鋼鉄の獣たちが轟音を立てて突撃し、戦場を蹂躙していた。機械仕掛けのゴーレムが重い一撃を振るうたび、地面が抉れ、魔族の血が撒き散らされた。


 アタシ——ロイス・ミルハイナは唇を噛んだ。防戦一方。このままでは陣が崩れる。


 だがその瞬間、夜の帳を引くように、空が静まり返った。

 次の瞬間、爆撃船のひとつが、溶けるように崩壊した。


「ん〜、百点満点中、五百点ってとこかなあ。ヘル様に褒めてもらうに足りないかも?」


 空中にふわりと浮かぶ影。黒衣を揺らし、蒼白の肌に紅い瞳を灯す女児がいた。

あれが話に聞いている吸血鬼の始祖、ミスティリカ家の初代当主カーラ・ミスティリカ。

彼女の手の中で血が煌めき、糸のように伸びて、次々と爆撃船の駆動核を破壊していく。


「もぉ〜。張り合いがないなぁ」


 次の瞬間、五隻が一斉に爆散した。青白い光とともに空から鉄の塊が降り注ぐ。


 それを反撃の好機と受け取ったアタシは、全軍に向けて進軍の狼煙を上げた。


 魔王軍は息を吹き返したかのように吼えた。アタシも矢のように指示を飛ばし、混乱していた戦列を立て直す。あの吸血鬼が空を制圧した今、敵の火を吹く車は次から次へと破壊されていく。


 勝機はまだこちらにある、はずだった。


「ロイス様!危ないっ!」

「っ!!」


 アタシを庇った兵士の内臓が宙を舞った。

 生暖かい血液が頬にあたり、一瞬何が起きているか理解できなかった。

 破壊されたゴーレムの破片が、自ら意思を持つかのように集まり、融合していた。ぎしぎしと軋む音が響き、やがてそれは姿を成す――


 六本の腕、歪な胴体、縫い合わされた鋼と魔力の集合体。つぎはぎの巨人が咆哮し、魔王軍の陣を引き裂いた。

 さっきのアタシより強い気配の元凶はこいつか。


 再び戦況が傾く。


「あれぇ?なんか変なのがいるね」

「吸血鬼、あれは生き物か?」


 カーラが赤い舌をぺろりと舐め、私の横に降り立つ。私は魔導銃を構えたまま、視線だけを向ける。


「ちょっと違うかなぁ?生きてはないけど死んでもないって感じ〜?」

「ならとっとと相手するか。二人で、な?」

「……仕方ないわね。じゃあ、さっさと終わらせましょ♪」


 つぎはぎゴーレムの拳が地を砕き、砂煙が巻き上がる。

 

「隠れたつもりかっ!」


 頭部を狙って幾度か発砲。だが相手はゴーレム。魔法と物理の両方を備えた巨体は、銃弾程度ではひるみもしない。

 

「硬すぎるっ!」


大きく後方へ跳躍、地面から針のように突き出してきた土の槍を回避し、隙を見て再び発砲。

ゴーレムは怯むことなくこちらへ突撃。アタシとゴーレムは取っ組み合いの格好になる。


「力勝負か!」


凄まじい質量による衝撃が全身を襲い、何本か骨が折れた気がする。

後ろからカーラがケラケラと話しかけてくる。


「ねぇねぇ〜。少し耐えてくれる〜?」

「作戦が、あるのかよ!」

「なかったら言わないよ〜」


 砂煙の向こうから、カーラの幼い声が響く。いつのまにか着替えたのか、血塗れのワンピースに巨大な血の鎌を携えて、保育園児ほどの少女――カーラが右手を天に掲げる。

【グロ及びAI絵注意!カーラ挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/namari600/news/16818792439602632056


「そのまま動かないでね〜」


戦場が悲鳴をあげ、赤い液体がカーラの右手に集まっていく。

まさか、この戦場で流れた血を利用するのか!


「準備かんりょ〜」

「そりゃよかった、よ!!」


 蹴りでゴーレムの膝を崩し、銃口をゴーレムの顔面へ突きつける。


「動くなよ……! 今、トドメをさす!」


 その叫びと同時に、集まっていた赤い液体が――仲間たちの血が――カーラの右手から放たれ、ゴーレムの中に吸い込まれていった。


「はい、しゅーりょー☆」


 ズガガガガガンッ!


 内部から弾け飛ぶ音。染み込んだ血が血槍となり、内側からゴーレムの胸、腹、背、肩、頭を貫き、巨体が悲鳴を上げるように揺れる。


 やがてその場に、ドサリと倒れ込む石の音が響いた。


「ふふん♪ 中身をぜ〜んぶ串刺し! 私の勝ちだねっ!」


 アタシは息を整えながら、その傍に立ったカーラを見下ろした。


「助かった……けど、ちょっとやりすぎじゃない?」

「え〜?だって、万が一中身が出てきたら嫌でしょ?」

『でしたら、要望に答えてあげましょう』


つぎはぎゴーレムがガタガタと震え、腹の辺りが崩壊。

中から紳士服の青白い悪魔が姿を現した。


「初めまして、みなさん。私はステラート。眷属は皆、私を混沌を望む者と呼びます」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る