第6話 父さんのスキル体感教室


 

 トラウマを克服して、村の外に出られるようになってから数日が経過した。

 

 あの後、母さんを放っておいて話しを進めた事について怒られねられ、機嫌を直してもらうのが大変だったよ。


 だが学園については再度しっかり話し合ったからもう問題ない。


 入学試験を受けて無くて心底焦っていた時もあったが、貴族には特例措置があるらしいんだ。


 俺の場合は、病気で外出できなかった判定だからその制度を受けられる、との事。


 もちろん学園からの評価は最低の状態で入学することになる。まあ、おおむね事実だな。

 

 取り敢えず今のうちに準備して周りとの差を縮めたい……と思っていたのだが、今だに1レベルも上げれていない。


 裏ダンジョンの前に位置するだけあって、シシ村の周辺の魔物はかなり強いんだ。パワーレベリングすらも皆んなから止められる程に。


 村から離れて別の街に行くという案も出たが、却下されてしまった。母さんが駄々をこねまくった事が原因だ。


 離れたくない、行ってほしくないとめっちゃ我儘わがままを言っている。


 この時は父さんも俺の味方をしてくれていたが、流石に母さんを放置して行くのは人の心が無さすぎるかな、と思ってギリギリまでは居る事にした。


 育ててくれた恩もあるしな。


 それに悪いことばかりではなく、良いこともあった。この村を守る自警団の戦闘訓練に混ぜて貰えるようになったんだ。


 これまでの日課に加えて、毎日欠かさずに訓練に参加する。そんな日々を送っていた。


 そして今日、なんと俺専用の装備が貰えるらしく、少し寝不足だがワクワクした気持ちのまま集合場所へと向かう。


 そこで地面に敷いたシートに座り込む父さんを見つけた。


「クロウ、来たんだね」


 そう言いながら立ち上がる父さんの格好は珍しく戦闘用の服装だ。長年使っていた物なのか、傷やひび割れなどの劣化が見られる革鎧を着ている。

 

 近寄ると、一つの鎧を手渡された。


 胸当てが付いた二層構造の革の鎧。使用されている革は茶色で新品特有の光沢とにおいがある。

 肩の部分や腰のあたりもカバーされている形だ。


 そして、鎧の下に着る分厚い黒シャツや黒ズボン、腕までガードするグローブ、長いブーツに黒いベルトも渡された。


 通販番組のように追加で足されていったが、まあ、全身鎧だと可動域が狭いからな。分割して守るのがシシ村でのスタンダードだ。


 父さんに手伝ってもらい早速着替える。

 軽く柔軟運動してみると少し動きにくく感じるが、この程度ならすぐに慣らせるだろう。


 そのままシートに置いてあった訓練用の剣を振っていると、父さんも体を動かしているのが目に入る。


 そういえば、本来なら今の時間は自警団がここで訓練しているはず。なのに周りには人がいない……。

 

 今更ながらその違和感に気づく俺。俺専用の装備という言葉にかなり浮かれていたようだ。


「ねぇ、父さん。今日って自警団の訓練は無いの?」


「いや、別の場所でやってもらっているよ。だって……ここは今からが使うからね」


 話の途中からメガネが光り、怪しい笑みを浮かべていた父さん。

 2m近くある細長い棍棒を構えてこちらに向けている。


 俺たちがいる場所は、草が刈られて土が剥き出しになった円形の闘技場。ここで二人向かい合う。


「クロウからかかっておいでよ。父さんの威厳を見せてあげよう」


「まあ最近、ちょっと威厳無くなってたからね」

 

 軽口を叩く。まあ、そんな父さんも前より身近に感じられて良いけどね。


 口に出してないので、いい笑顔でプレッシャーをかけられているが。


 ……というか隙がなさすぎるな。どこを攻めても全く攻撃が通る気がしない。

 つい尻込みしていると彼方あちらから声がかかる。


「……来ないのならこっちから行かせてもらおうかなッ!」


 踏み込むと同時に目の前まで来る父さん。棍棒をクルリと回転させてスイング。咄嗟とっさに腕でガードしたがそのまま弾き飛ばされて地面を転がる。

 

 体を起こし顔をあげればヤツがいる――とばかりにもう攻撃の動作に入っており、棒を脇に挟みながら槍のように突いてくる。

 その攻撃は胸に直撃し、大きく飛ばされてしまう。


 そして起き上がる間も無く、敗北の証として棍棒の先を向けられる俺。


「うん、こんなところだね」


 満足そうな父さん。

 

 息子相手に大人気ねぇ〜〜と思いながらも、まだ出し抜くチャンスがあると感じていた。


 自警団でもこれぐらいボコボコにされてるからな。その経験を活かせば、優しい父さん相手ならきっと一泡吹かせられる。

 

 心の中でニヤリと笑う。


「さて、もう一回やってみるかい?」


 余裕な表情の父さんに対して、もちろん、と返事を返す。そのまま距離をとって試合を再開。


 の前に一つ提案。

「ねえ父さん、始める前に一つだけ魔法を発動させて欲しいんだけど」


「魔法を?――うーん、確かにハンデくらいあげたほうがいいか――よし、良いよ。クロウが魔法を発動させたら始めようか」


「ありがとう。それじゃあいくよ。

《無属性の魔力を利用、、自身を指定、1分間。――トリガー:フィジカルブースト》」


 プログラミングするように魔法言語による詠唱を唱える。そして最後のキーワードを言い放てば、無属性の魔力が体に浸透し、体から力が溢れ出す。


 魔法を発動した事を確認した父さんは、先程と同じように一瞬で目前まで迫り、棍棒を脇腹目掛けて振ってくる――が、今なら合わせられる。


 一歩前に出る。

 棒に剣をわせて、姿勢を低くしながら受け流す。

 

 予想外だったのか、大きな隙が出来たところで逆袈裟斬り!

 左から右へ、脇腹から肩までを狙った攻撃は、バックステップによって回避されて革鎧に浅い傷を入れるのみ。

 

 その後、勢いに乗って追撃するがことごとく棍棒によってさばかれてしまう。


 チッ、魔法の時間がギリギリだな。だが、絶対に一撃決めてやる。


「《水属性の魔力を利用――》」


 魔法言語で詠唱しようとした瞬間、父さんが魔法を発動させないと攻めてくる。

 ふっ、掛かったな。


 今度は俺がバックステップ。少し距離ができたところで顔目掛けて剣をぶん投げる、と同時に走り出す。

 両手で持った棍棒の間で剣が弾かれてしまったが問題ナシ。硬直した父さんの腹に全力でパンチッ!


 時が止まったような静寂が一瞬流れる。


――「痛ったあッ! こ、拳が……めちゃくちゃ痛い……」


 革のグローブで保護されているのにも関わらず、手が潰れたような痛みを感じる。どんだけ硬い腹してんだよ!?

 

「あ……あはは。それはクロウが全力で殴りすぎなだけだよ。『ステータス』差を考えないと。

 ……にしても、まさか僕が一撃入れられちゃうとは。クロウは強いね」


 爽やかな笑顔で俺の実力を認めてくれる父さん。

 かなり嬉しい、けど手加減されてこれだからなぁ。もっと強くならないとダメだな。

 そんな思いが強くなる。


 俺が不格好ながらも一撃入れたため、一旦休憩に入り、再度試合する事となった。


 そしてまた距離をとったところで、父さんから話しかけてくる。


「クロウ。『スキル』を知ってるかい?」


「? まあ、そりゃあ。色々習ってるし」


 スキルとは、神からの贈り物とも呼ばれている、魔法より上位の力。『ステータス』を授かった時や、強力な魔物などを倒した時に神から贈られる特殊な力……だと考えられている。


 ゲームでは適正の有無で手に入れられるスキルが違ったし、それはこの世界でも変わらないっぽい。

 ……適正が一切ない俺ってマジで絶望的じゃね。

 

 まあいいや、良くないけど。

「んで、その『スキル』がどうかしたの?」


「うーん、どうせ学園に行くんだったら、体験してみるのも良いんじゃないかと思って、ね」


 ゾクリと鳥肌が立つ。スキル――そうか、父さんも使えるのか。

 少し怖いが、見てみたい。どんな力を持っているのか体感してみたい。


 ごくりと唾を呑み込む。


「……見せてみてよ」


「そう、ならいくよ。〈黒装殻⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 〉」


 そんな耳では聞き取れない言葉を呟いた瞬間、棍棒が黒いナニカで覆われていく。

 黒色の殻や鉱石が凝縮されたようにゴツゴツと歪な形。手で触ったら痛そうだ、と思ったが両手も既に黒く覆われていた。


「このスキルは、『ステータス』上では黒装殻と書かれている力で、こんな風に身体の一部や武器、防具を保護できるんだ。そしてこの硬さは……大体僕の『VIT防御力』と同等」


 ほー、つまり俺が殴った腹と同じくらいの硬さって事か。しかも、体を覆えば実質VIT防御力2倍じゃねえか。そりゃやべえな。


 冷や汗が流れる。

 スキルの恐ろしさを想像している中、いつの間にか父さんがすぐ横にいた

 

「つまり……こんなことも出来るんだ」


 ?? なんでこんな近くに――振り上げられる棍棒に合わせて体が動き、剣でガードする体勢に入る。


 そして黒くなった棍棒と剣がぶつかる。

 キーンと周囲に鳴り響くような音。そして、目に映るのは無惨にも粉々になった剣の姿


 そして自慢げに笑みを浮かべる父さん。


 ……やっぱり、威厳なくなってきてるわ。

 

 

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