第18話 助けられたから、追いかける
※#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる のタグ企画にて、pome村様のイラストにSSを書かせていただきました。
夏休み直前の体育の授業。
ただのプールの授業のはずが、先週、近くの川で事故があったからと、着衣泳の授業に変わった。
講師は地元の消防士たち。
訓練で鍛えられた筋肉は、服の上からでも逞しいのがわかる。
かっこいい。
スポーツとして水泳をしている俺とは違う。
呑気なことを考えていたからか。
それとも、泳ぎには自信があると驕っていたからか。
俺は、着衣泳の授業で無様にも溺れてしまった。
「うっ……げほっげほ……!」
「もう大丈夫。念のため、このまま保健室に行くよ」
「は、い……」
優しい声。
温かい体温。
壊れものを優しく包むように俺を抱く、力強い腕。
芽生えたのは、場違いな恋心。
吊り橋効果だとか、憧れてと勘違いしてるかもしれないと何度も考えた。
でも、結論はいつだって同じ。
俺は、彼が好きだ。
彼にとってこれは仕事の一環で、特別なことじゃない。
でも、俺にとっては人生を変える出来事だった。
俺は大学進学の目標から一転、消防士を目指した。
俺は体力有り余る高校生。
公務員試験に余裕で合格した。
配属先は運次第。
それでもいつか、彼に会えると信じて、訓練に明け暮れる。
俺が彼に再会したのは、その二年後。
彼は俺の上司になった。
「あの、俺、橘高校の着衣泳で助けてもらった者です」
「待って待って! 柳くん、水泳の国体選手だよね⁉︎」
「はい。でも、仕事しながらでもできるので」
「はあ⁉︎」
「俺、飯田さんに憧れて消防士になりました。やっと会えて嬉しいです」
「うっ……嘘だろ!」
俺が再会の喜びに舞い上がっている中、飯田さんは俺の将来を捻じ曲げたという罪悪感に襲われていたみたいだ。
俺が選んだ道だから、責任感じなくてもいいだろうに。
でも、そんなところも好きだ。
俺は狡いから、飯田さんの罪悪感に漬け込んで交際を迫った。
流石に流されてはくれなかったけど、異動して離れ離れになっても、何年も何年も交際を申込み続けて……。
そして、念願の彼氏の座を勝ち取った。
「好きです、聡史さん」
隣で寝息を立てる聡史さんにキスを落とす。
それから朝食の準備を……と立ち上がろうとして、腕を引かれてベッドに押し倒された。
全部食べ尽くされそうな、激しいキス。
昨晩、散々弄られたところが疼き始める。
「俺も好きだよ、海斗」
シャツの中に侵入した大きな手。
朝食は後回しになりそうだ。
それでもいいと、俺は出会った時と同じように聡史さんの背中に腕を回した。
短編集〜それは小さな光たち〜 永川さき @nagakawasaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編集〜それは小さな光たち〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます