神殺し

猫民

第1話 カエルが鳴く

「動くな!」

 カエルがそう叫んだ。カエルが喋る事が稀なのだから鳴いたと言うべきか喋ったと言うべきか悩むところなのだけれど、今回は紛れもなく叫んだと言いたい。

 人と同じぐらいに拡大した二足歩行するカエルが一匹、僕の顔に向かった傘を突き刺している。

「わかった。だから傘を下ろしてくれ」

「傘とはなんだ」

「君が手に持っているものだよ」

「そうか、わかった」

そう言ったカエルだったが傘は下がらない。それどころか頬の袋を膨らませて「グルグルグル」と威嚇してきた。

「なぜ傘を下ろさないのだ」

「分からない。なぜ私が下ろさなければいけない」

「なぜなら、君は先ほど”わかった”と同意したではないか」

「分からない。私は傘が何かわかっただけだ。お前の言う事は何もわかっていない」

「なるほど、わかったよ」

「グルグルグル」

横目で周りの状況を確認する。路地裏とはいえ東京の一角だ、誰もいないって事はないだろうと思っていたのだが、どうも人の気配がしない。

ぽつりぽつりと止んだはずの雨が降り始めようとしている。

「何者だお前は!!」

再びカエルは叫んだ。

「それはこちらのセリフだ」

「これはセリフではなく質問だ。早く答えろ」

「わかった。しかしこの場合はどの部分から説明すべきなのだろうか。君は人間の区別がつくのか」

「つくはずがないだろ。お前たちはカエルの兄弟を見てどれが長男かわかるのか」

「ならば、僕は何を説明すればよい」

「なんでもだ。グルグル」

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神殺し 猫民 @huwan119

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